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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
12章 覚悟と霊剣
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悪魔と取り引き

10月31日と11月1日は諸事情により20時投稿となっています。

 悪魔が近寄って来るのをディオスは覚悟を持って待ち構えた。

 怖くないと言えば嘘になる。けれどもユリシアを助けなければならないという気持ちがディオスをその場に留まらせていた。

 隙を見てユリシアを助けることも出来たかもしれない。けれども相手は悪魔。力を持たないディオスでは何かがあろうがなかろうが助け出すことはおろか、その前に殺されてしまうかもしれない。

 そうしてしまえば自分が知らない場所でユリシアも殺されてしまうかもしれない。


 それだけは避けたく、何とか意識を反らすことが出来た。

「今から死ぬ者の目ではないな」

「これでも結構怖い思いをしています」

 悪魔となってしまった父親に言うが、今の気持ちが落ち着いていることも確かである。

「俺の目を取る前に約束してください。ユリシアには手を出さないでください」

「悪魔に約束か?」

「取引です。とと様の願いの為に俺は目を。俺の願いの為にとと様はユリシアに手を出さないで。こういうのは契約って言うんじゃないですか?悪魔と取り引きをするのだから悪魔の契約と」

 意識はこちらを向いているがそれでユリシアに手を出さないとも言えないディオスは無謀にも取り引きを持ちかけた。

 物語や伝承における悪魔は人間に誘い話を持ちかけ、願いを叶える代わりに対価を貰う。それが体の一部であったり他者、場合によっては命と様々。

 その多くは強大な力や莫大な富と人間の誰しもが願う欲望のもの。しかし、それらも悪魔と契約をした人物達は自滅を辿っている。

 それが現実にいる悪魔に通じるとは言いがたい。

 実際にディオスはこれまでに多くの悪魔を見てきた。残虐なのもいれば無邪気と様々。約束を守るとは到底思えない。けれども、これは取り引きであり約束ではない。物語や伝承でもなければ現実で対峙している。

 そう割り切ってディオスは悪魔に持ちかけた。


 それに対して悪魔は口元を綻ばせた。

「……面白い。実に面白い」

 笑ってはいないが嬉しそうに見える。

「いいだろう。お前の願いを飲もう。その代わり……」

「分かっています」

 これで気がかりはなくなったとディオスはさらに緊張感を増す。

「しかし、私の力はそこの娘と共に何故か通じない。痛みと共に死に逝くこととなる」

「……」

 悪魔の気遣いか、もしくは恐怖心を掻き立たせているのかは分からないがこちらから話を持ちかけた以上はここで破棄することは出来ない。

「……ならば」

 悪魔はディオスの目へと手を伸ばした。


 直後、バーンという銃声と同時に悪魔の腕が吹き飛んだ。

「えっ!?」

「ぐっ……」

 突然のことに戸惑うディオスと痛みで吹き飛んだ腕の傷を抑える悪魔。

 するとまた銃声が響きいたが、悪魔は先程から放たれた力の放射線を見切ると素早く後退して避けた。


 領域を展開した市場の屋根の上でアドルフはライフルを構えたまま、二発目が避けられたことに舌打ちをした。

「気がついたか」

 マオクラフから連絡を受けて訪れてみればディオスが危機的状況であった。

 日頃から市場を利用する関係で何処が狙撃場所に適しているか記憶していたアドルフは大急ぎで場所を選び出した。ディオスと悪魔がいる場所がよく見えるだけでなく見つけにくいと射撃場所であったのだが、思っていたよりも悪魔に早く会いたい気付かれた。

「だが……」

 しかし、気付かれたからとアドルフは動くことはせずその場でライフルを構え直すと再び悪魔に標準を合わせた。


 二発目の銃声が鳴り終った直後に何処からともなくマオクラフがディオスの前に姿を現した。

「うおぉぉぉぉぉ!」

「ぐっ!」

 マオクラフは月鎌ハルパーを振るい悪魔にしつこく食らいつく。それに合わせて悪魔は回避を取り始めた。

「ディオス!」

「……フランコ、さん?」

 そこにフランコが駆けつけるなりディオスの身柄を保護した。

「ミクちゃんは無事よ」

 エミリアは近くで倒れていたミクを保護して命に別状がないことを伝える。

 突然状況が変わったことにディオスは戸惑う。

 あれほど命を捨てる覚悟をしていたのに捨てる必要がなくなってしまった。本来なら喜ぶはずなのに全く喜べない。

「ロレッタ!」

「はい!」

 悪魔から近かったユリシアから離すことが出来たマオクラフはロレッタに合図を送り保護させた。

 ロレッタはユリシアを保護すると、すぐに安全場所となっているディオス達の元に駆け寄った。

 そこでようやくディオスは体全体に血が流れる様な速さで状況を理解した。

「ユリシア」

「まって!」

 気を失ったユリシアを覗き込むディオスであるが、エミリアを含めた医学生組の表情は強張っていた。

「呪を受けているわ。解呪が必要よ!」

 呪を受けてと聞かされたディオスは内心で怒りが込み上げてきた。


 その間にマオクラフは悪魔に無数の傷を入れていた。

 そんなマオクラフをアドルフが狙撃場所からの斜線を無視した神出鬼没の放出された力によってフォローを入れており、悪魔は二人からの攻撃に振り回されていた。

「……ここでやられるわけにはいかん」

 忌々しそうな表情を浮かべた悪魔はかべぎわの瓦礫に目を向けると手に触れずに浮かせた。

「げっ!?」

「逃げろ!」

 近くで起きたことでフランコの掛け声でロレッタとエミリアは気を失っているミクとユリシアを抱き抱えて4人はその場から逃げ出す。

 しかし、逃げるのは不可能とそのままの瓦礫を飛ばした。

「同じ手は食らうか!」

 マオクラフは逃げる4人との間に領域を展開すると、その中へと瓦礫が飛び込み、悪魔の横から何故か飛び出てきた。

「馬鹿な!?」

 この数ヵ月の間、時々しか成功しなかった別の場所に展開した領域へ飛ばす術は近い距離であるなら成功するまでに至っていた。


 戸惑う悪魔の隙を付いて銃声と共に放たれた力が悪魔へ向かった。

 だが、悪魔はその場で大きく飛び上がり放出された力を避けて市場の屋根に着地した。

「しまった!」

 悪魔が飛び上がった直後に月鎌を振るったマオクラフは困惑と共に走り去る悪魔を見た。


「くそ!」

 射撃場所からアドルフも困惑と共に悔しさを吐き捨てた。

 飛び上がっていた時間が短かったことで追撃が間に合わなかったのだ。


 逃げた悪魔が何処に行くかは予想がつく。

「くっそ!」

 マオクラフは逃げたディオス達を追いかけ始めた。

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