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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
12章 覚悟と霊剣
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白昼堂々

 楽しい会話から一転、ミクは背筋にゾワッと寒気を感じた。

「ミクちゃん?」

 話の途中で急にミクの表情が強張ったのを見逃さなかったユリシアはその直後の様子から確信を得た。

「ミクちゃん、どうしたの?」

 気に触れた様なことを言ったつもりはない。そもそもミクが話している途中で口を止めて挙動の一切を止めたのだ。

 声をかけても反応がないミクにユリシアは心配になる。

 しかし、ミクはユリシアが何を言っているのか聞く暇もなく手をギュッと握った。

「ユリシア……」

「ミクちゃん?」

 ミクは前かがみになると周囲に悟られないように目だけを動かして辺りを見回す。

「今すぐにここを出よう」

「え?」

 小声で言うミクの言葉にユリシアは何故急にそんなことを言うのか分からず首を傾げた。


 ……そんな時であった。

「お嬢さん、いいかな?」

 2人に男の声が語りかけてきた。

 ユリシアは反射的に男がどういった人物なのか確かめようと顔を上げた。

 その途端にミクが力任せに握っていたユリシアの手を引いて無理矢理椅子から引きずり下ろすと駆け出した。

「ミクちゃん!?」

「逃げるよ!」

 思いもしない行動を取ったミクに戸惑うユリシア。しかし、ミクはそんなことなど気にする暇もなく、むしろ焦った様子でユリシアを引いてカフェから出て行く。

 その行為はカフェにいた学園生徒も何かと驚き戸惑っていたが、ミクとユリシアに声をかけた男だけは冷静に市場を走る2人を目で追っていた。

「……逃がさない」

 男が2人を追う為に体の向きを変えた途端、2人の男女が遮るよう立ちはだかった。

「それ以上は行かせられないな」

「2人を追いかけて何する気?」

 男を一瞥するように睨み付けるフランコとエミリア。

 その途端にカフェは3人を中心にして異様な空気が漂い、それが学園生徒等客にも異様であると伝わり動揺が感染する。

 しかし、男は遮られているにも関わらず2人を観察。特にある部分をじっくり見てから口を開いた。

「同じだが違う」

 男の言葉に何を指して言っているのか分かったフランコとエミリアに緊張感が走る。

「先程の娘と同じでとても興味を懐くがお前達ではない」

「やっぱりお前は……」

 男が言う言葉が考えていたものと同じであったと悟った瞬間に強い力が襲って来た。

「だが、お前は私が求めているものではない。そこを退いてもらう!」

 その途端、フランコとエミリアだけではなくカフェにいた客や従業員、さらにはテーブルや椅子といった物までもが文字通り吹き飛ばされた。

「キャァァァァァ!!」

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 カフェにいた人間は軽々と店の敷地外まで吹き飛ばされ、テーブルや椅子は相手と場所を選ばず幾つかが周囲にいた人間へと落ちあちこちで悲鳴が上がる。

「ひっ!?」

「いやぁぁぁぁぁ!!」

「助けて!誰か……!」

 突然起きた出来事に周囲にいた者、運良く惨事から免れた者達が巻き込まれた者達とは違う悲鳴を上げて場は混乱と化しその場から逃げ惑う。


 そんな状況の中でもこの惨事を生み出した男は平然と立ち尽くしており、視線を市場の一方向へと向けていた。

「行かなければ」

「何処へ行こうって言うのよ?」

 自分に向けて鋭い声がかけられたことで男は反射的に振り向く。

 そこには確かに吹き飛ばしたはずの男女、フランコとエミリアが立っていた。

「何故立っている?」

「その小さな脳みそで考えなさい!」

 男の疑問にエミリアが頭に来たと睨み付けたまま身構える。

「無理じゃないかな?普通ならこんな場所でこんなことはやらないって聞いているけど?」

「だから考えろって言ったの!」

 フランコの突っ込みにエミリアは血が上った頭で言い返す。

 しかし、そのやり取りすら男は何も思っていないのか、聞こえてもなお無表情である。

「悪いけれど、放置したらろくなことがない気がするから行かせることは出来ない」

 そして、フランコも男の危険性を十分に感じていながらも、狙われているミクとユリシアの元へは行かせないと身構える。

 現場は混乱しており逃げ惑っていることで殆どがこのやり取りを見ていないのをいいことにフランコとエミリアは少し弾けたところで誰も気にしないと一斉に短剣を握り締めた。


 それを男が見た途端、空気が突然と変り、エミリアが動き出した。

「はぁぁぁ!」

 振り払われた短剣を避けた男はエミリアの動きに驚愕した。

「思ったよりも早い」

 エミリアの隙を見せないとも言える素早い短剣捌きを男は避け続け、ようやく見つけた隙をついてエミリアの腹に拳を入れた。

「がっ!?」

 拳を突き出したまま男はエミリアを吹き飛ばした。

 エミリアはそのまま床を滑るようにして倒され、それを見ていた男の背後にフランコが突きを放ったが辛うじて避けた。

「チッ!」

 隙を突いたはずなのに切ることが出来たのは服の一部であり、そこから見える肌には傷は見えず、もちろん血が流れていないことで負傷させることが出来なかったと悔しがるフランコ。

 それでもフランコは深追いはせず、男と距離を取ることを選んだことで緊張が走り、どちらも動こうとはしない。

「……邪魔だ。どけ」

「お断りだね」

 男の言葉にフランコは拒絶するがエミリアの様に突進はせず距離を取ったまま動こうとはしない。

「どけ。貴様等と遊んでいる暇などない」

「へ~。それじゃ、その遊びに俺も交ぜて貰おうか」

 直後、4人目の声が聞こえた瞬間に領域が展開された。


(来た!)

 フランコが確信したのと同じタイミングで頭上に影が現れた。

「見つけたぞぉぉぉぉ!悪魔ぁぁぁ!!」

 マオクラフは現れるなり月鎌ハルパーを悪魔に向けて降り下ろした。

 悪魔は瞬時に声の相手が頭上にいると知り回避に入ったが、フランコ以上の鋭さとエミリア以上の素早さであるマオクラフの一振りが悪魔の左肩から胸までを切り裂いた。

「ぐっ……」

「チッ!」

 悪魔の傷から流れる血が思っていたよりも少ないことに与えた傷が浅かったとマオクラフは舌打ちをする。

「良かった、間に合って……」

「ロレッタ!」

 そこに遅れてロレッタが到着した。

 フランコとエミリアが悪魔に接触する直前にロレッタは近くに死神がいないかと大急ぎで探し出し、見つけたのがマオクラフであった。

 おかげで時間稼ぎしている間に見つけて連れて来てくれたことにフランコとエミリアの表情が綻ぶ。悪魔相手に2人とも必死だったのだ。


「さてと、こんな時間からやらかしたんだ。覚悟は出来ているよな?」

 マオクラフはカフェ一帯を惨劇とさせた悪魔を睨み付けた。

 それに対しての悪魔の反応は、無表情のままであったが動きは早かった。

 腕を一振りすると、拡散していたテーブルや椅子に瓦礫が宙に浮き、4人目掛けて降り落ちた。

「なっ!?」

「ちょっ!?」

 これは死神の弟子では避けることはおろか防ぐことが出来ないと絶望していると、マオクラフが領域を展開して防ぐが、落ちてくるものが無くなると、領域にはベッタリと瓦礫が密着していた。

「あいつ、これを目眩ましにして逃げたな!」

 最初に展開していた領域から悪魔が逃げ出したことを感じ取ったマオクラフが瓦礫を落とした目的を悟り悔しがる。

「マオクラフ、ここから脱出することは?」

「出来る」

 フランコの疑問に答えるとマオクラフは瞬時に3人と共に瓦礫で閉じ込められた空間から脱出する。

「悪いけれどもう少し手を貸してくれ」

「もちろんよ!」

 マオクラフの言葉にエミリアは頷いた。もちろんロレッタとフランコも同じ気持ちであることと、自分達が首を突っ込んだ為にこうなってしまったという申し訳なさもある。

「助かる。行くぞ!」

 領域を解除してマオクラフ達は逃げ出した悪魔を追いかけた。

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