帰宅途中のお茶
昼を過ぎて秋の夕刻が近くなった頃。
市場は徐々にであるが、今晩の夕飯のおかずの材料を買う為に訪れた奥さんや夜の飲食店の営業の為に買出しする店の経営者などが必要な物を買う為に売られている物を吟味していた。
そんな買出し客とは違う一角、雑貨や日用品類が売る場所には学校や学園が終わって帰宅途中の寄り道、もしくは帰宅してから訪れた学生等が店の中を覗いていた。
そんな場所にはいくつかのカフェが営まれており、そこでは各々が休憩や憩いの場としてお茶を楽しんでいた。
その内の一つのカフェでは学園の制服を着た男女が年齢問わずお茶を楽しんでいた。
明らかに親と共に訪れるような年齢の学園生徒もいたが、そこは友達と共に纏まって訪れていることと周りの学園生徒の先輩が気にかけていることで不審な人物に声をかけられない限りは心配はない。
だからこそ、テーブル席の一つから少女の声が響いた。
「ねえ、どうしてだと思う?」
膨れっ面になりながら話すミクはそのままオレンジジュースを飲む。
「えっと、ミクちゃん、もう一回いいかな?」
そんなミクの話し相手であるユリシアは戸惑いもう一度言うように頼む。
「ディオはどうして師匠といることが多いかなって言ったの」
「お兄ちゃんが?」
「うん。ディオばっかりずるいよ……」
ディオスの妹であるユリシアに包み隠さず不満をぶつけるミク。
不満をぶつける相手が違うのではと思うのだが、ユリシアを親友と認識しているミクであるから言うことを躊躇う不満をぶつけることが出来るのだ。
それでも、兄の不満を妹にぶつけるとどう思うか考えていない辺り配慮がない。
「ミクちゃん、お兄ちゃんが店長さんと何かしてたの?」
しかし、ユリシアは今一つミクの不満を掴みきれていない為に配慮していないことに気づかず、むしろ2人して何をしていたのか気になってしまった。
「うん……師匠に呼ばれてあちこち行ってたみたい……」
「あちこちに?」
「うん」
「あれ?お兄ちゃん帰って来たの?」
「うん」
「お兄ちゃん帰って来たんだ。いつ帰って来たの?」
「昨日だよ」
数日前に葬儀屋フネーラに訪れた際はモルテの知り合いに何処に行くか告げられず連れられてしまったと聞かされていたのだが、帰って来たことにユリシアの表情が綻ぶ。
「どこに行ってたの?」
「ランバンだよ」
「ランバンに?」
ひとまずユリシアにはランバンだけと教えたミク。
さすがにヘルミアやサンタリアでは往復と滞在日数が合わない為にファズマから口止めされていたことで言わなかった。
「何してたのかな?」
「分からない」
昨晩に聞くはずだったのだが泣いてしまった為に配慮聞くことが出来ず、朝もべつの話を聞かされしてしまった為にディオスがランバンで何をしていたのか未だに分からない。
「でも、師匠とずっといたのは許せない」
ミクの怒気がこもったら口調と目にユリシアは目を丸くしていたが、微笑んだ。
「ミクちゃんって店長さん好きなんだね」
「えっ!?何、急に!?」
「だって、ミクちゃん、店長さんのこと話す時っていつも生き生きしてるもん」
「え、そう?」
「うん。あと、いつもくっついてる」
「いつもじゃないよ!」
ミクのことをよく観察しているユリシアは包み隠さずその事を伝えた。すると、案の定ミクは否定するが、表情ではそうでもなく満更でもない。
「だから分かるんだ。ミクちゃんが店長さんのこと好きだって。だからお兄ちゃんに焼きもち妬いているんだよね?」
「妬いてない!」
ユリシアの意地悪、と言ってミクは頬を膨らませるとユリシアは笑ってケーキの一切れを頬張る。
「ランバンって首都なのよね。何があるのかな?」
ユリシアは頭に思い浮かんだ疑問をミクにぶつけた。
「ん……ん~……首都だからアシュミストよりも発展してるんじゃないかな?」
「そっか。そうだよね」
話が変わったことでミクの意識は逸れてユリシアの疑問について答えた。
「やっぱりお兄ちゃんに聞いた方がいいかな?」
ランバンにいたディオスならどんなところか分かると思い至ったユリシアは近い内に葬儀屋フネーラに遊びに行くことを決めたのである。
「あれ?お兄ちゃんは帰って来たって言ったけど、店長さんは?」
「師匠はまだ帰って来てないよ。ディオだけ先に帰って来たの」
「そうなの。あ、だから妬いてたんだね」
「妬いてない!」
ここでようやくミクがディオスに対して不満を抱いていたのか分かったユリシアはなるほどと思った。
「でもミクちゃん、どうしてミクちゃんは店長さんのこと師匠って言うの?」
ユリシアはいつもミクがモルテのことを師匠と呼ぶことを気にしていた。
初めて会った時からの疑問で特に気にしてはいなかったのだが、モルテがミクの親代わりであることを母であるシンシアから聞かされている。だから、ここまで依存をしているのに何故母親を呼ぶようなものではなく師匠と呼ぶのか知りたくなった。
「え?だって、師匠の弟子でいつか師匠を支えるんだもん!」
「……え?」
またもやミクが何を言っているのか分からないユリシアは目を丸くするのであった。




