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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
12章 覚悟と霊剣
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異なる感性

 ーーーああ、足りない……

 液体が入ったビンの中に漂うそれを見て影が呟く。

 ビンの中には小さな丸い物体が二つ入っており、それが影の前に幾つも積み重なってあった。

 中身の小さな丸い物体は心なしか影を凝視している様に思えたが、影はそれを何とも想わない。

 ーーー……違う

 影はその内の一つのビンを手に取り中身を見るが、興が削がれて床に置いて違うビンを手に取り中身を見る。

 ーーー……違う

 興が逸れたというよりは納得していないと言った方がいい。


 またビンを床に置いて違うビンを手に取る。

 ーーー……違う

 ビンの中に漂う二つの丸い物体はよく見ると全てが丸いわけではない。

 僅かにだがある一方向に突出しており完全な円形というよりは楕円形になっている物もある。

 しかし、その形は一見見たところですぐに分かるものではない。よく見てやっと、もしくはよく見ても分からないと区別するのが難しいもの。それを影は一瞬にして見分けてしまった。

 ーーーこれでもない

 そして、二つの丸い物体が区別出来る最大の特徴は色である。

 茶や青に緑、中には灰色もあるが、どれも影が納得した色でもない。


 ーーーこれほど集めたというのに……

 前に積み重なるビンの山を見て影が絶望する。

 命じられて長い年月をかけて集めたというのにどれも影は納得していなった。

 色や形も含めて影がこれであると引き付けるものがない。

 ーーー何故ない……何故、何故求めるものが見つからない……

 二つで一組である為に一つが良くてももう一つが良くなければ意味がない。そうでなければ影は納得しない。

 色や形の僅かな誤差はこの際目を瞑るが二つで納得がするものでなければならない。

 違うものとの組み合わせはけして許さなければあり得ない。

 必ず二つ一組、納得する色と形でなければならない。

 ーーー他はどうしているか……

 自分と同じで全く違うものを集める様に命じられた同胞達とは命じられた後は合っていない。

 しかし、もしかしたら既に達成しているのではないかという焦りが影の中によぎる。

 ーーーまた、今日も……

 そうして影は立ち上がる。命じられたものを手に入れる為に。



  * * *




「っ……」

 葬儀屋フネーラの倉庫で備品整理をしていたディオスはこの作業をはじめて何度目になるか分からないと視界の歪みに目を細めた。

(危なかった……)

 目眩にも似たような視界の歪みにに気がついて急いで手を止め、治まるのを待ってから息を吐いて安堵した。

 備品整理をしている棚は細かなものが多くこのまま作業を続けていたら何かの拍子で棚から箱ごと落として床に散らばっていて拾うところであったと冷や汗を流す。


 ディオスがここまで備品整理に慎重になっているのは、未だに覚醒したばかりの死神の目が安定していないからだ。

 エクレシア大聖堂にいた時よりは大分回復したが、それでも時折視界の親近感が失われる歪みに手を止めて治まるのを待たなければならない。

 それでも最初の時よりは回数も少なく歪みの時間も少なくなったが、それなら備品整理をしなければいいのではと思ってしまう。

 しかし、ディオスは死神の目が覚醒してしまったことを明かすかどうかを決めかねていたことでファズマが出した指示のまま備品整理を行ってしまっているのである。

(……どうするかな)

 備品整理の作業を再開させたディオスは手を動かしながら覚醒してしまった死神の目のことで悩み始めた。


 本当なら死神の目の覚醒をディオスはもっと先であると考えていたことでその時にどうするべきかを先延ばしにしていた。

 しかし、意図せず自分から覚醒を早めてしまったことで今の自分の立ち位置や振舞い、更にはこの先をどうするべきか悩んでいた。

「そもそも俺、どうしてまだここにいるんだろう?」

 一般人とは違う力を持った死神とその役割を聞かされて嫌い、と言うよりは苦手であると修めていた。

 だからこそ今思うことがある。

 何故あの時、死神のことだけではなく生霊リッチ不死者アンデット、その後に悪魔の存在を知ったというのに、未だに葬儀屋フネーラを辞めて出て行かなかったのかと。何故知ったことを秘密にしようと思ったのか、と。

 居心地がいいとかそういうものではない。それを受け入れた上でこの場所にいることを望む自分がいるのだ。

 何故、と問いかけても答えは出ないし誰も教えてはくれない。


 自分の感性を疑ってしまう。

「普通じゃないのにどうして……」

「何が普通じゃねえんだ?」

「うわっ!?」

 突然独り言に介入してきたファズマの声にディオスは驚いて声を上げると入口を見た。

「もう終わりそうか?」

「あ、ああ……」

 どうやら作業を見に来たんだと理解したディオスであるが、未だに驚いた拍子で胸の鼓動が高いままで収まらない。

 ファズマは倉庫をゆっくり見回してからディオスに尋ねた。

「足りねえ物ってあったか?」

「特には……でも少し気になるのはいくつかあった」

「そうか」

 ディオスの話を聞いたファズマは数秒考えて言う。

「なら、それを補充するか。買えるものがあったらこれと一緒に買って来てくれ。整理の後にな」

 ファズマは手に持っていた紙をディオスに渡した。

 ディオスは受け取るなり紙に書いている文字を見ようとして、視界がまた歪んだことで目を細めた。

 死神の目が覚醒していることをファズマに悟られたくないディオスは早々に紙から視線を外した。

「……分かった」

「それじゃ頼むぞ」

 受けてくれたことを聞いてファズマは倉庫から出て行くのを見送ったディオスは改めて紙に目を通す。

「えっと……」

 まだ視界が歪んでいるが読み取ろうと必死になってしまった。


  ◆


 倉庫から出たファズマは店内に戻るなり険しい顔付きを浮かべた。

 最初は小さな疑問であった。

 ディオスの動きがぎこちないことに気がついたファズマはしばらく観察していたが、先ほどのやり取りで確信した。

「……いつの間に覚醒したんだ?」

 モルテの弟子として長く経験を積んだファズマはディオスの動きがかつて死神の目が覚醒した時の自分と酷似していることを思い出していた。

 だからこそ、いつディオスの目がいつの間に覚醒したのか疑問に思っている思う。

「ランバンかサンタリアで何かあったのか?」

 死神の目が覚醒してしまう時期があるのその時しかなく、アシュミストに戻って来るのが遅くなったのは目が安定するまで動けなかったのではと予想する。

 その大まかな予想は当たっているが、ファズマがそれをディオスに言うつもりは今のところない。

「買い物が終わったら聞くか」

 今は残っている仕事を終わらせてしまおうと手を動かし始めた。

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