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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
12章 覚悟と霊剣
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いなくなった理由

 その日の夜。

「それで、何で帰って来んのが遅くなった?」

 本日の仕事一段落して片付けを終えた後、夕食を取ってしばらくするとファズマがディオスに尋ねた。

「えっと……どう説明すればいいんだろう……」

 ディオスの反応は目に見て分かるほど難色していた。

 別に話すこと自体は難しいことではない。しかし、ディオスからしたら難しいのである。

 そのわけは遅くなった原因を話すべきかどうかだ。


 ディオスがアシュミストに戻るのが遅れた原因はモルテの死神の武器に触れたことで気を失ったからだ。

 その行いは死神の目を覚醒させる邪道と呼ばれる方法で命を落としてもおかしくはなかった。

 その結果、ディオスは気を失い、気が付くと失明していた。そして回復するまでの間をエクレシア大聖堂で過ごしていたのだ。

 モルテの弟子に当たるファズマとミクにこの話をしたところで問題はないことは分かっている。しかし、ディオス個人としては出来る限り、これ以上死神の関わりに足を振り込みたくないという思いから話すことを渋っている。


 一体どこまで真実を隠そうか悩んでいると向かいから鋭い視線を感じて顔を向けた。

 そこにはずっとこちらを鋭い目付きをして見ているファズマの顔があり、その気迫に気持ちが後ずさる。

 これは早く帰れると言わなければ何か言われるとディオスは話ながら教える範囲を考えることにした。

「ランバンで色々あったんだ」

「ランバン?」

「ランバンって首都だよな?何があった?」

 ディオスの言葉に首を傾げるファズマとミク。しかし、そこでファズマが慌てて口を動かした。

「いや、その前に何でレナードマスターに連れていかれた?」

「そっか、何処に行くか俺も教えられていなかったから伝えることが出来なかったんだよな」

 そもそもディオスが半月開けた原因、レナードが何処に連れていったのか気になったファズマの言葉にディオスはまずはそこからと気づく。

「新しい教皇に呼ばれてエクレシア大聖堂に行ってたんだ」

「はぁ!?」

「……ん?」

 ディオスの告白に驚愕するファズマとどう言うことかと首を傾げるミクと反応が別れた。

「ねえ、どうして新しい教皇がディオを呼んだの?」

「えっと……お互いに色々とお世話になったから、かな?」

 ミクの疑問にディオスはその切っ掛けとなった出来事をどの様に説明しようかと悩み、最後に疑問符を付けた。

 その言葉に頷きながら聞いていたミクであったが、あることを思い出して前のめりになる。

「もしかして、前にいなくなってたのって師匠の所に行ってたから?だから新しい教皇と知り合ったの?」

 エクレシア大聖堂に教皇ときたらそこにモルテが呼ばれて行っていたことにミクは気がついた。


 ミクが言っているのはサンタリアで教皇選挙が行われていた期間であり、モルテは死神デスであるラルクラスに呼ばれてエクレシア大聖堂に赴いていた。

 その期間中、ヘルミアにいる死神は元より全死神では対応出来ない事象にただの人間であったディオスがエクレシア大聖堂にいる死神デス達にヘルミアとエクレシア大聖堂で起こっているであろう出来事を伝える為に赴いたのだ。

 それは見事に達せられたことで翌日には暗躍していた魔王サルガタナスをはじめとした悪魔は死神と天眷者によって全て刈られ取られた。


 その事を知らないでいたミクはディオスが数日間何処に行っていたのか気になっていたが、お土産にと渡された菓子ですっかり忘れていた。

 ちなみに、ディオスがお土産にと持ってきた菓子はエクレシア大聖堂の管理者である天族ケエルが大量に作って渡した物である。

 故に、追及がディオスにとって図星で口を閉ざしたことミクが頬を膨らませる。

「ディオだけずるい!ディオだけ師匠に会いに行って!」

「いや、それは……ファズマ、教えてななかったのか!?」

「あのな、ミクにあれ言ったら心配するに決まってるだろ?それに、こうなる」

「……確かに」

 ミクが機嫌を損ねたことで助けを求めたディオスであるが、ファズマも言えるはずないと言う。

「ファズも知ってたの!?ずるいー!」

「ずるいって言うけどなミク、ディオスは命懸けのことを頼まれたんだ。そんなもんをミクに教えると思うか?」

「心配し過ぎ……あたしだって師匠の弟子なのに……弟子なのにぃ……うわぁぁぁん!」

 ディオスがエクレシア大聖堂に行っていたことをファズマが知っていたと知ったミクが頼りにされていないと感じて泣き出した。

「ミ、ミク!?」

「あのな……」

 この反応は想定していなかったとディオスは戸惑い、ファズマは呆れる。

「だってぇ、ディオばっがり師匠といてぇ、ずるいぃぃ!」

「そう言われても……」

 矛先が自分に向けられていることにディオスはどうしたらいいのかと頭を抱える。


 モルテと行動を共にしているように見えるのは悪魔や生霊リッチの事件に巻き込まれて助けられたりしている時だけ。

 けして意図して行動を共にしているわけではないのだが、ミクからしたら事が起こる度にディオスがモルテといることが不満であるのだ。

 それが半月も戻って来なかったということが最長記録になる為にミクの不満は不機嫌となり嫉妬へ変わり涙を流すことに繋がった。

「ミク、不満は分かったが泣くのをやめろ」

「だっえぇぇ、うぐぅっ……ずるいもん……」

 モルテのことになるとどうも普段見せる様子から幼くなりすぎて手が負えなくなるとファズマも頭を抱えた。

「ファズマ……」

「謝る必要ねえぞ。バレるのは分かってた。それが早まっただけだ……」

 予定ならモルテが帰って来た頃にそれとなく教えるつもりであったのだが、新しい教皇にディオスが呼ばれたことが誤算であったとファズマは隠すことを今になって諦めた。

「ミクが思っている通りだ。ディオスはレナードマスターに頼まれて店長の所に行ったんだ!だがな、それは俺やミクや死神じゃ出来ねえことで仕方ねえことだ。だから泣くな」

 ミクの頭を撫でながら泣き止ませようとするファズマ。レナードから話を聞かされた際に相当苦しんでいた。

 何故死神の弟子ではなく力を持たないディオスが命をかけなければならないのかと。だからこそ重大なことを教えるられず頼られていないと心配しているミクの気持ちが分かる。

「ディオだから?」

「ああ。不満だろうが仕方ねえことだったんだ。それに、いつか俺らも必要とされる。そん時まで頑張ればいいんだよ」

「……うん……」

 言葉で促してようやく納得したことと落ち着きを取り戻し始めたミクに安心するディオスとファズマ。


「しっかし、ミクが泣くと思わねかったぞ」

「……むぅ。ファズの意地悪」

「何処がだ?」

 ファズマの茶化しにミクが食い付くが、ファズマは既に次の行動に移っていた。

「続きをって言いたいところだが、あいにく時間だ。ディオス、話しの続きは明日にでもいいか?」

「明日?」

 そう言われてディオスは時刻を確かめる為に時計を見た。

 時刻は深夜を回っていたが、それでファズマが話しを明日に伸ばすとは思えない。

 すると、ディオスの疑問を読み取ってかファズマが先に答える。

「これから出掛けてくる。悪いがミクを寝かせてくれ」

「え?出掛ける?今の時間何処に!?」

「エノテカーナだ。面倒なことになっててな。どうなっているか聞きに行ってくる」

 外出の支度をあっという間に終わらせるとファズマはディオスとミクに向き直った。

「それじゃ行ってくるが気を付けろよ」

 そう言って早足でリビングから仕事場へとファズマは出て行った。

 取り残されたディオスはファズマがどうしてエノテカーナに行くのか理由を聞いていない為にまだ目が赤いミクに安心尋ねる。

「ミク、アシュミストで何かあった?」

 ファズマがエノテカーナに行く理由は数少ない。そして、深夜の時間帯に行く目的は一つしかない。

「うん。今ね、アシュミストで怖いことが起きてるの」

「怖いこと?」

「ファズの話しだとね、悪魔か生霊リッチか分からないけど関わっていると思うって言ってた」

「つまり、死神が動くには十分の事件で既に動いているってことか」

「うん。ファズはね、師匠の代理で死神集会に出てるんだよ」

 死神が集まる死神集会。ファズマがエノテカーナに行く理由が当たった。

ミクが泣くじゃくってしまうのはモルテにベッタリで今まで甘えないようにしていた反動です。

どうかうるさいと思わないでください。

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