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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
11章 変動の鼓動
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不安定な視界

 エクレシア大聖堂の死神(デス)の区画に再び訪れてから随分と時間が経った。

 その間に七人の死神(デュアルヘヴン)やラルクラスに呼ばれた死神は多くのことを行っていた。


 七人の死神(デュアルヘヴン)はラルクラスの要望を受けて赴いた場所から日数は違えど各々がやるべきことを終えると戻って報告をしていた。

 そして、それらを踏まえて情報整理や対策とこれから取るべき行動などを七人の死神(デュアルヘヴン)が戻って来る度にラルクラスを交えて話し合いが行われたことで精密と化して纏まりつつある。

 ラルクラスに呼ばれて死神デスの区画へと招かれた死神達は要望を受けたことで滞在、時には外に出たりと七人の死神(デュアルヘヴン)とは全く別のことを行っていた。

 最初はレナードとダーンが呼ばれたのだが時間が経つにつれてエステルやミゲルといった元七人の死神(デュアルヘヴン)を中心にして特定の分野に精通した専門家プロフェッショナルが10名集められた。

 少ない人数ながらも彼らはラルクラスの要望を一つ一つ片付けていき、間もなく全てを終えようとしていた。




 そんな最中、モルテがランバンからエクレシア大聖堂に戻って来てから15日が経過した。

 途中でラルクラスの要望で外国に二度赴いていたがそれ等を全て解決し終えて4日振りにディオスの容態を確認していた。

「随分とよくなったな。これならもう薬は要らないだろう」

 ディオスの目に光が戻ったことを確認したモルテはもう殆ど無くなっている薬の容器をポケットに入れた。

「はい。でも、まだ周りが揺れているようで……それに、時々ですが何だか前よりもよく見える気がするんですが……」

 失明から回復したディオスが今見えている光景に戸惑っていた。


 モルテは良くなったと言うがディオスの目は周りの光景を揺らいで伝えており、最近になって安定したと思うと失明する前に比べて周りが良く見えるようになったりと差が激しく目と体に負担とストレスを感じさせている。

 ディオスが言う良く見えるというのは、例えるなら遠くの文字が見えるようになったという程度でまだ死神の目が持つ生霊リッチといった普通の人間では見ることが出来ない存在を認識していない。

 それでも遠くが見えるというだけでもディオスにとったら困惑する題材である。


 ディオスの困惑を聞いたモルテは包み隠さずその症状がどういったものか教える。

「死神の目は不可視の存在を見ることが出来るが副産物で遠くの存在も見ることが出きる。とは言えそれは視力がよくなった程度であって困るものではない。しかも眼球に傷が出来たり損失しない限り視力は下がることはない」

 いいこと尽くしだとモルテは言う。

「その副産物に目が慣れようとして周りが揺らいでいるのだけだ。しばらくの間はその状態が続くが日常では問題ない」

「そうですか」

 どうやら重たい症状ではなかったようだが副産物で視力がよくなるのは複雑であると抱くディオス。

「あれ?でも死神の目の初期症状に視力が良くなるものがあるって言ってませんでしたか?それと何が違うんですか?」

 失明した時に聞かされた死神の目の覚醒初期症状の一つと似ていることについて尋ねる。

「初期で良くなった者は力が安定するにつれて視力が悪くなる。言い方を変えるなら元の視力に戻りつつあるがそれまでよりも遠くの存在が見える程度だ。それに失明した者と違い揺らぎがないから体の負担は少ない。それでも目に見えて目が悪くなったということは感じる」

「……そうなんですか」

 モルテの説明にディオスはある程度違うことを理解する。

「しかし驚いたな。死神の目を持っていなかったのは」

 そこにモルテとディオスの会話を聞いていたアルフレッドが意外だと呟く。


 何故アルフレッドがいるかと言うと、ラルクラスの要望を受けてモルテが赴いた場所にアルフレッドがいたからだ。そして、そこであったことを解決して共にエクレシア大聖堂へ戻って来た。

 その直後にモルテはラルクラスに報告する前にディオスの容態を確認したいからと部屋に足を運んだのだ。

 ディオスが滞在している部屋はラルクラスがいる部屋の途中にある為にアルフレッドが気を使ったこととモルテから聞いたことで今の様子を確認したいという思いもあって共に部屋に訪れたのだ。


 モルテが使う死神の武器に触れてからの日数を数えたアルフレッドはモルテに言う。

「それにしても、この状態になるまで随分と時間がかかったんじゃないか?」

「そうか?」

「ああ。俺が今のディオスの状態にまで落ち着いたのが8日くらいで、安定したのは10日だったはず」

「個人差だろう」

 自分の倍かかったディオスと比較するアルフレッドにモルテは個人差の一言だけで終えてしまいディオスの驚く様子を無視する。

「それに、失明をすれば普通のやり方に加えて目を慣らすことも必要だ」

 モルテが言う慣らすと言うのは失明の症状が現れた者に行うもの。

 その方法とはとにかく遠くの場所を見る、本の文字など細かいものを見るという見る行為(・ ・ ・ ・ )をすること。こうして失明した目は薬だけよりもいくらか早く回復する。ディオスもその方法をケエルから教えられたことで実践をして今の段階にまで回復したのである。

「それじゃ失明は遅くなっても仕方ないってことか?」

「そうなるな」

 モルテの説明とディオスの状態からそれなら仕方ないとアルフレッドは受け止めた。


 だが、モルテはアルフレッドの言葉を深く受け止めていた。

 実際に死神の目の初期症状が現れ視界が不安定にまでなるのが平均すると7日ほど。

 だからアルフレッドが遅い言ったことは分かるのだがモルテからしたら今回は早い方であると認識している。

(遅いのは私のせいだろうな)

 モルテの弟子となった死神の殆どは視界が安定になるまで10日以上かかっている。

 その原因は他の死神よりも力が強いことであるとモルテは自覚しているのだが誰にも話していないし言うつもりもなく秘匿としている。


 それでもディオスの今の状態はモルテにしたら一区切り着いたと同じである。

「目が安定するまでは今していることを続けろ。それと先程も言ったが日常では問題ないのだから心配せず普段通り動いても問題ない」

「分かりました」

 アルフレッドが遅い言ったことで不安になっていたディオスに言うとモルテはアルフレッドに向き直った。

「さて、ラルクラスに報告するとしよう」

「ああ。また後でな」

「はい」

 部屋をモルテとアルフレッドをディオスはまだ不安定な視界で見送った。

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