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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
11章 変動の鼓動
461/854

閑話 お見舞い(死神と天族)

大幅に遅れて申し訳ございません。

当初予定していた文章量を大幅に超えての投稿です。

(……疲れた)

 ディオスはテーブルに伏して深く溜め息を吐いた。


 先程までヴァビルカ前教皇やアロイライン教皇とルナマリアといった天眷者と尽きない話をしていた。

 しかし、アロイライン教皇が休憩時間が過ぎても戻らないからと秘書が迎えに来た直前にヴァビルカ前教皇とケエルは姿を一瞬で消してしまい、アロイライン教皇は秘書に連れられてこの日も物足りなさをかもし出しながら部屋を出て行った。

 秘書がいなくなったことでヴァビルカ前教皇とケエルが一瞬にして部屋に現れたものの、直後にヴァビルカ前教皇を探しに来たハイエントによって何処かへと連れ去られてしまい、話し相手が減ったことと時間的に区切りがいいからとルナマリアが明日も訪れると言って部屋を出て行った。

 こうして天眷者がいなくなったことで先程まで昔話やロード教の歴史や教えに加えて身の回りの出来事や恋沙汰がないかと散々聞かされて対応に困った挙げ句に話が尽きないことで口が疲れたディオスはまだ回復しきっていない体力を消耗し過ぎていた。


「疲れているみたいだけど大丈夫?」

「大丈夫じゃないです」

 口直しにと茶葉を替えて果物を入れてフルーツティーにした紅茶をカップに注いだケエルはぐったりしてしまっているディオスを心配する。

「一先ず休んだらどうかな?」

「そう、させてもらいます」

 ケエルの提案にディオスは慎重な動きでベッドへと向かう。


 普段のディオスならここで無茶をするはずなのだが、とにかく体が疲れて休息を欲している為に寝ることにしたのだ。

 この様子を見ただけでも邪道をしたことで体力の消耗が相当のものであったことが分かってしまう。


 何とかベッドにたどり着いたディオスはそのまま横になると身動き一つ取ることなく、間もなくして寝息を立てた。

 その様子をずっと見ていたケエルは淹れたばかりのフルーツティーを夜に出すことを決めた。

 なんせ、昼は天眷者であるが夜はまた別の存在がディオスの様子を見に訪れるからだ。



  * * *



 そして夜。


「話には聞いてたが本当に見えていないないんだな」

「はい」

 失明していることに対する質問にディオスは素直に答えた。

 何しろ声の主はディオスが知っている人物であるからだが、尋ねてきたと言うことはその事実を今日知ったこと、言い替えると昨日はいなかった人物なのだ。

「だけど、よく死神の武器に触れようと思ったな」

「知らなかったんです……」

 好意でするつもりがまさか一時的に失明することになるとは本末転倒とも言えることにディオスの表情が僅かに歪む。

「……知らないのなら仕方ないとは言いがたいけど……」

「オティエノ、責めている様に聞こえるからその辺りでいいだろ?」

「別に責めているつもりはないんけどなファビオ。それに、きつめの口調で話すのはハロルドくらいだろ?」

「どうしてそこで僕の名前を出すんだ!」

 ディオスの失明への話し方にファビオが気にして注意を言うと、今日初めて訪れたオティエノがハロルドを巻き込んだ。


 そう、夜には七人の死神(デュアルヘヴン)、時々死神(デス)であるラルクラスやその弟子であるユーグが訪れてディオスと話をしに来るのだ。

 昼間のヴァビルカ前教皇やアロイライン教皇といった天眷者の時もそうであるがこうした行動はディオスの頼みではなく好意で訪れているのだ。

 しかし、死神デス七人の死神(デュアルヘヴン)と天眷者には予定というものがある。天眷者である彼らは仕事の合間を縫って訪れ、死神デス七人の死神(デュアルヘヴン)は昼間にやっていたことに句切りを付けて訪れている。

 時間帯が違うだけであるが上手くバランスを取ってディオスの元へ訪れているのだ。


 そうしたことを何となく感じ取っているディオスは内心ではありがたいと思っているのだが、時に困る話は止めてほしいと思っている。

 そのいい例が死神関連の話である。

「所でファビオの所は白だったんだよな?」

「ああ。一応2日余分にいたけれど悪魔が単体で事件を起こした以外はなにもなかった」

 ハロルドの問いかけにオティエノは自国の大都市を調べたことを教える。

 その間、ディオスは話を聞き流していると、そこにケエルの声が聞こえた。

「お茶とお菓子のお変りいるかな?」

「……あ、ああ」

 戸惑うファビオの声にケエルが昼間に作って淹れ直したフルーツティーをカップに注ぐ。

 その直後、オティエノ、ハロルド、ファビオが何とも言えない様子でケエルを凝視する。

「ところで、どうして天族がここに?」

 ハロルドとファビオからディオスのことだけでなく天族であるケエルが面倒を見ているということに何の冗談と思っていたオティエノであったが、実際に訪れたらいたことに驚き、秘匿とされているはずの天族がこんな場所にいていいものなのかと2人と同じ疑問を抱いて尋ねる。

「ディオス君の面倒を見る為だね」

「いや、それは2人から聞いているんだが、天族は普段は姿を現してはいけないと聞いているんだがこんな場所にいていいのか?」

「問題ないよ。上にもちゃんと通してあるから」

「上……」

 何だか妙に現実的な言葉が出たとディオスを含めた4人が茫然とする。

「後は僕がお願いしたからだね」

「うわぁ~……」

 次に出た言葉には4人同時に呻き声を上げた。

 ディオスの世話をする為のお願いが通るのはどうなのかと天族に対して何故か心配になるが通ること自体が異常にも感じる。

「ディオスに随分ご執着のようだけど?」

 今までの話からオティエノはディオスに対してケエルが肩を入れすぎているように思えた。

 ただ、ケエルの要望が通った時点でもしかしたら他にもいる天族全体がディオスという一個人の人間に肩入れしているのではと考える。


 実際にそれは当たっているとも言える。

「まあ、ディオス君は珍しいからね」

「珍しい?」

「気づいているかな?ディオス君がいるだけで力がいつもよりも安定して振るえるってこと?」

 ケエルの何げない言い様の指摘に七人の死神(デュアルヘヴン)3人が驚愕の表情を浮かべたがディオスだけは何なのかと困惑している。

「あの、力が安定するって、どういうことですか?」

「説明するね」

 長い話しになるからとケエルは椅子に座ると4人に話す。

「ディオス君はね、僕達の様な力を持つ存在にとって居心地がいい存在なんだよ」

「居心地、ですか?」

「そう。僕達は普段から力を抑え込んでいるんだけれどその制御が楽なんだ」

「そうなんですか?」

 ケエルの言葉にディオスは七人の死神(デュアルヘヴン)に尋ねた。

「確かにその通りだな」

「そこの天族が言う通りだ。不思議に思っていたけれどディオスの近くだと妙に抑え込んでいる力の制御が楽なんだ」

「楽と言うよりは安定していると言った方がいいな」

 オティエノ、ハロルド、ファビオもケエルの言葉に同意する。

 しかし、その言葉はディオスに混乱と困惑をもたらした。

「どうして俺がいるだけで?」

「体質だよ。それもかなり強いね」

「体質?」

「そう。生まれつきかどうかは分からないけれど力を持つ僕達からしたらすごく引かれてしまうんだ。だから悪魔や生霊リッチといった人間の存在を逸脱した存在も知らないうちに引き寄せられるんだ。心当たりないかな?」

 悪魔と生霊と聞かされてディオスは記憶を掘り起こして、頭を落とす。

「心当たりがありすぎます」

 そんなディオスのリアクションに相当苦労をしたんだなと想う七人の死神(デュアルヘヴン)

「しかし、そんなことよく分かったものだな」

「君達の倍生きているからね」

 ファビオの呟きにケエルは笑みを浮かべて答えた。


 ディオスは何でそんな体質をしているのかと嫌気がさす。出来ることなら普通の人間でいたいと願うのに許されない。

 そんな気持ちを感じとったファビオが今の気持ちを吹き飛ばす話へと切り替える。

「そういえば、モルテから聞いたんだが、ディオスは猫が苦手って本当か?」

「何で知ってるんですか!?」

「いや、モルテから聞いたっていったんだけど……」

 どうやら掴みは成功したとファビオは小さく拳を握る。

 そして、その掴みはケエルの心をも掴んでいた。

「ん?それはどういうことかな?」

「モルテから聞いただけで俺も分からないんだけどそうらしい」

「店長、どうして教えたんですか……」

 まさかファビオに教えていると思っていなかったディオスはモルテを恨む。


 そのモルテは現在エクレシア大聖堂にいない。手伝いを頼まれて外国へと赴いておりいつ戻って来るのな分かっていない。

 ただ、そのことはディオスに予め教えているが、猫に関しては初期段階からエクレシア大聖堂にいたハロルドとファビオと情報交換をしている時に言っていたのだ。

 だからこの場でディオスが猫を苦手としているのを知っているのがハロルドとファビオだけである。


「猫の何処が駄目なんだ?」

「駄目っていうか……噛まれたトラウマでちょっとだけ……」

「は?」

「ん?」

「何だそれ?」

「噛まれた?」

 ディオスの口から語られた猫が苦手な理由に部屋にいた全員が疑問符を浮かべる。

「何それ?」

「普通猫って爪で引っ掛けられて嫌いになるんじゃないのか?」

 斜め上をいった理由に呆然となる。

「その、噛まれたのが小さい頃だったんですよ。子猫を撫でていたら突然噛まれて痛かった思い出が……」

「それって甘噛みじゃ?」

「それだったら小さな頃でも痛いって思うか」

 どれ程小さい頃かは分からないが子猫なら甘噛みしてもおかしくないと思う。

「今は俺もそう思うんですが猫を見るとその時のことを思い出して……」

「ああ、これは完全にトラウマだな……」

 包み隠さず教えてくれたディオスの言葉にハロルドは心の中で御愁傷様と伝える。

「それで、七人の死神(デュアルヘヴン)は犬と猫どっちが好きかな?」

「は?急に何を?そもそもどうして犬猫限定なんだ!」

 その時、何を思ったのかケエルが質問をしてきた。

 一体何故とハロルドが目を見張ると、

「俺は犬だな。」

「俺もだな」

 オティエノとファビオが即答で犬と答える。

「それでハロルドは?」

 「何で話しに乗っているんだよ!」

「気になったからだな」

 ケエルの話しに乗ってしまったオティエノとファビオに突っ込みを入れたハロルド。しかし、ハロルドとしても聞かれたことに答えないということはしない。ただ、それが他と真逆であったとしても。

「ディオスには悪いけど僕は猫だ。大体猫は……」

 その瞬間、犬猫闘争へと発展した。


 言い出しっぺのハロルドは少し前のやり取りの払拭と言い訳として言ったのだろうがそれが火を付けることとなって犬派であるオティエノとファビオと討論をすることとなった。

 ただ、その元凶であるとも言えるケエルはその様子を静かに見守り、ディオスはどうすることも出来ず関係ない振りをして聞き流すのであった。

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