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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
2章 葬儀屋の仕事
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逃げる者

 苦なく体を捻らせケラケラと笑う愚者にディオスは目の前の存在が人間てはないと悟ってしまった。

 認めたくないことである。目の前の存在は完全に化物である。そんな存在は幼少期のお伽噺や説教の際に出てきたブギーマンを信じていた程度であり現在は全く信じていない。だが、目の前の存在はまさしくそのお伽噺、もしくはそれ以上に怖い存在、この歳でそういった類いを怖いと思ったのも初めてである。

 人間がしたことなら手順を踏めば何とかなったかもしれない。しかし人間とは思えない目の前の存在が人殺しをしたとなったら手順は元より信じてもらうまで時間がかかるし信じてもらえない方が大きい。それも、現在ディオスの立場にならなければ一生理解してはもらえない。

 だから言える。目の前の存在は明らかに手に負えない、逸脱した危険な存在であると。

「おや?怖いか?恐怖におののいているのか?実に愉快!おもしろい!おもしろいの!!」

 ケラケラと笑う愚者にディオスは恐怖を隠して叫んだ。

「誰が……」

「ダメ!」

 そんなディオスを今まで無言で様子を見続けていたミクが腕を引っ張り叫んだ。

「食べられる」

 引っ張られたことでミクの言葉が耳に入ったディオスは何を言っているのか一瞬分からなかったがすぐに思いついて愚者を見た。

 愚者は何度も『喰った』と言っていた。何を食べるのかは分からないがここで愚者の挑発にのったら危ないことであると悟る。

「おや。乗ってこんか。おもしろくないの」

 自身の思惑に乗ってこないディオスに愚者はつまらないと表情を浮かべたがすぐに笑い出した。

「まあよいか。ここで死神どもに存在を知られたら困るし、ここで始末するかの」

 愚者の言葉に殺されると感じたディオスはミクの手を強く握った。反射的にミクもディオスの手を強く握る。

「まずは、加護が邪魔な娘から……」

「逃げるよ!」

 愚者か言い終わる前にディオスはミクの手を引いて全力で走り出した。

「逃さんのう!」

 得物を逃してたまるかと愚者は二人の後を追い始めた。

 ディオスはミクの腕を引きながら後を見て、愚者が追いかけるて来るその様に驚愕した。

「何なんだあれぇぇぇ!?」

 愚者は足は動かしておらず地面についていない。宙に浮いて後を追い、見る見るうちに距離を詰めていく。

幽霊(ゴースト)だったのか!?」

 浮いているから幽霊。というのも安易だがそれしか思い当たるものは存在しなかった。

「うん。生霊(リッチ)だった」

「生霊!?幽霊じゃなくて?いや、生霊も幽霊か?って、何であれを生霊って……ああ!今はいい!」

 ミクの言葉に混乱しているディオスさらに混乱を起こし思考を停止する。

「第一、俺は幽霊なんて見たことない!」

 迫り来る愚者を背中に感じながら現実逃避を始めるディオス。幽霊や生霊と言った不可解には無縁であったから言えることであるのだが、残念ながら愚者に追いかけられている時点で現実逃避というものは無意味である。

「あたしは見たことあるよ」

「えぇぇぇぇ!?ミクちゃんって霊感持ち!?」

 そんなディオスにミクがさらに追い討ちをかける。

 どうやら今日のディオスは何かと驚くことが多く叫びっぱなしである。

「随分と余裕のようだの」

「って、話してる暇なかったんだ!!」

 二人の会話に余裕があると見て愚者がさらに速く二人に迫りくる様にディオスは悲鳴を上げた。

(まずいとかそんなものじゃない!どうすれば……)

 追いかけてくる愚者にディオスは降りきれないと焦り始めた。

 生身と霊体では疲労というものがあるのかは分からないが少なくとも霊体にはないと考えている。だから、疲労で動けなくなったら捕まる。その前にどうにか出来ないかと考えるも何も思いつかない。

「終わりだぁぁぁ!!」

 愚者は腕を伸ばせば届く範囲まで追い付き追いかけている二人に腕を長くして伸ばした。

 その時、その間に建物の隙間から何者かが割って入った。

 愚者は追いかけるのが楽しくその存在に気づくのが遅れ腕を伸ばしたままその存在に近づいてしまった。

「そ~おれ!」

 その存在は異形の愚者に驚くも臆することなく持っていたゴルフクラブで愚者を勢いよくスイングした。直撃を受けた愚者は弾き飛ばされるように追って来た道をそのまま戻るように飛ばされ建設現場の建物に突っ込んだ。

「ナイスショット!」

 ゴルフクラブを持った存在、ガイウスが遠目からその光景を目にしていた。

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