閑話 それぞれの後始末(ヘルミア)
遅くなって申し訳ありません!
「どういうことか説明なさい!」
ヘルミアの宿、黄金の鐘の一室でナミアノが対面している男達に怒鳴った。
その男達はというとナミアノの怒声に狼狽えていた。
「ですから申した通りです」
「訳が分かりません。それでどうして私達なのですか!」
ナミアノの言葉に仕方ないと男達は訳を話始める。
「住人から貴女方が街中で暴れていたという目撃情報があります。これについては間違いありませんか?」
「知りません!」
キッパリと関係ないとしらを切るナミアノに男達の1人の額に青い筋が浮かぶ。
「その際に2人組の男を大勢で追いかけ回し、その際に民家の屋根に穴を空けているというのは?」
「屋根には確かに上がりましたわ。けれども、穴が空いたのはその家の屋根が脆いからです」
「おい、普通屋根に上がることなんてしないだろ!大体、どうやって上がったっていうんだ!」
ナミアノの対応に頭にきたと額になんぼんも青い筋を浮かべた男が噛み付く。
ナミアノと対話をしているのはヘルミアの警察である。
早朝にモルテとガイウスを追い回していたナミアノ達の行動を聞き付けて駆け付けた頃には追いかけていた2人は既に逃げ切ってしまった後でナミアノを含むライハード家の面々が悔しがっているところを事情聴取として捕まえたのである。
ただ、ライハードの姓がある為に事情聴取は警察署ではなくライハード家が泊まっている黄金の鐘の一室という待遇である。
一方のナミアノを含むライハード家はというと、ガイウスをまた逃したばかりか逃走に手を貸したモルテに心底頭に来ていた。
「大体、私達が2人を追いかけて何がよろしくないといいますか?」
「いくつもの屋根を壊し、もう少しで一般人を怪我させていたという自覚がないのか?」
ライハード家が暴れまわったルート、得に屋根は酷いものであった。
一部の屋根は剥げてしまっていて、まるでその場所で思いっきり踏込みをしたように垂直であった。しかし、一番酷いのは屋根の穴であり、いくら住居に住まう者の話で腐っているから近いうちに修理をする予定だったらしいが、それでも穴を空けたばかりか骨組を一本壊すのはどうかと思われる。
「第一、私達にこんな話をしていていいの?」
この場にモルテとガイウスがいないのはおかしいだろうと抗議するナミアノ。
「現在全力で捜索しています。見つかり次第事情を伺います」
「まあ、それなら私にも教えてくださいね」
「調子に乗るな!」
ガイウスを逃して荒れていた心に僅かに落ち着きがの思った瞬間に静止される。
「しかし、調査次第になりますが損害を起こしたのはほぼあなた達でしょう。その場合は賠償金を払ってもらいます」
「何故ですか!?」
「調査次第です。それまではこの宿にいてもらいます」
一刻もガイウスを捜したくて仕方ないナミアノだが警察はそれを許さず、結果として10日間の外出を禁じられることとなる。
* * *
そんなライハード家の様子を調べてきたルーベンが領域を使ってオウガストにその一部を教える。
「そうか。これは手を打たないといけませんね」
既にモルテとガイウスはヘルミアからいない。しかし、そうとは知らない警察やライハード家は血眼になって探すはずとオウガストは考え込む。
「一先ず事案の重要性を低いものにしないとな。ルーベン、いつも通りに頼む」
『ああ』
「問題はライハード家だな……」
ルーベンの話からガイウスがミゼリコルドの十大貴族の出身であることには驚いた。だからこそ権力を使ってしまえば恐ろしい。
とはいえ、場所は国外である為に自重はすると思えるが念には念をである。
「情報操作か……」
これはライハード家が警察に解放された段階で伝えることにする。まだ時間があるからしばらく考える暇がある。
「しかし、こんな騒動になっていたとはな……」
メサから連絡が来たのはモルテとガイウスが異渡り扉でヘルミアから出て行った後であった。
その間は時間があったはずなのだが、賭けで熱くなった賭博者が賭けに勝ったとか何とかで屋台に押し寄せて来た為に連絡が遅くなったのである。
「レナードを経由して注意をするか」
流石に教皇選挙期間中に人目を気にして悪魔の対処をしていたのに、いざ終わったら人目を気にせず派手に動き回るのはどうなのかと思い、これらのことはレナードに伝えると決めたオウガスト。
なお、2日後の深夜に気絶をしたディオスを抱えてヘルミアに戻って来たモルテに驚いたものの街で起こしたことについて注意をしようとしたところで、何処からともなく出現したケエルによってうやむやにされることになり、しかもその後はモルテとしばらく会うことがない為に結局オウガストが直接注意を言うことがない。
一先ずルーベンにそうするようにと伝えると現在滞在している一組の死神の元へと向かう。
「まだ続いているのか……?」
階段を上がり一室に近づくと声が聞こえてきた。
「全く反省していないなお前は!」
「その羽むしり取るぞ!」
『取るなーー!!』
まだ続いていたとオウガストは扉をノックして入ることを伝える。
「失礼します」
「オウガストか」
部屋にはレナード、ダーン、ミゲル、ベルモット。そして、天井から逆さ吊りされている死神の使いで人語を放すカラスのコルクスがいる。
「まだ続けていたのですか」
「続づかない方がおかしいだろ」
「話には聞いていたけどここまで頭に来たなんて生まれて初めてよ」
コルクスの目的からしたら全く関係ないレナードとベルモットであるが近くにいた為に首を突っ込んだのである。
そもそも何故コルクスがいるかというと、ラルクラスから今回の教皇選挙に対してのダーンとミゲルに慰謝料を届けに来たのだが、その間にあったやり取りで4人の死神を怒らせることとなり、天井から吊るされているのである。
コルクスの上から目線は多くの死神から制裁を加えられているとはいえ全く治ってもいなければ改善もされずそのままである。
こうしてひとしきりの説教を終えるとレナード達はコルクスをどうするかと考え始める。
「どうする?」
「……薫製にでもしてみるか?」
『何……!?』
「それいいですね」
『待ておい!!』
「オウガスト、薫製していい場所あるか?」
『人の、いや、カラスの話を聞けーー!!』
「それならこの場所で領域を展開して煙を充満させればいいだろう」
「その手があったな!さすがレナード!」
『だから聞けーー!!』
「そうとなれば準備だ」
コルクスに加える制裁が決まったことで死神が瞬時に動き出す。
「木はどうする?」
「調理用の薪がありますが?」
「あれ材木がな……伐採してくるか?」
「それがいいな」
『だから聞けーー!!』
コルクスが悲鳴を上げるも、やはり死神は無視して応じようとはしなかった。
◆
そして夜。
「……遅いから来てみれば……」
コルクスの帰りが遅いとラルクラスの頼みで鳩の宿に訪れたユーグが見たものは、一室の中で領域が展開されていて、さらにその中でコルクスが煙に炙られている様子であった。
「ユーグか」
「お久し振り……でもないですか」
昨日会ったばかりのレナードとユーグは短く会話を交わした。
「それで、コルクスはどうして煙入浴を?」
『にゅ……よ……ゴホッゴホッ』
「煙入浴、面白いなそれ」
「まあ、いつものことと思いますが……」
冗談をミゲルは面白いと捉えてくれたが真面目に対処しようと気持ちを変える。
「コルクスがまたやらかしてしまい申し訳なさございません」
「ああ、それはこうして薫製にすることで解消しているから気にするな」
「多分木の匂いがすると思うから」
「それか煙だな」
どうやら現在も続いている制裁でいくらか気持ちがよくなっていると悟る。
そもそも、レナード達としても煙の中に閉じ込めているとはいえ本当に殺す気はない。
コルクスは死神の使いであるから煙の量は少なめにしている。
とはいえ、煙は相当に危険なものなのだが、その中でも今もなお生きているコルクスはどうなのかと疑問が浮かび上がる。
「それで、コルクスの制裁にはあとどれ程?」
「今夜一杯だな」
「分かりました。それまで思う存分どうぞ」
『なっ!?お……おい、ユーゴホッ!ユーグ!何をいっゴホッゴホッゴホッ!!』
ユーグは助けてくれないと知ると抗議するコルクスであるが煙によってむせてしまう。
「それで、ユーグさんはコルクスの様子を確認しに来ただけですか?」
「いいえ。レナードさんとダーンさんに死神から伝言を預かってきました」
「ラルクラスからか?」
教皇選挙が終った直後だというのに、意外なこともあるものだとレナードとダーンは話を聞く。
「それで、ラルクラスは何と?」
ダーンの質問にユーグは一語一句間違えずに言う。
「『これからの対策について話し合いたい。ぜひ訪れよ』とのことです」
「それはまた……」
ラルクラスの伝言にミゲルは表情を強張らせた。
ミゲルが記憶している限り継承の儀と教皇選挙期間以外に死神が死神を呼んだ事例は数度、それもある事態に関係していることのみ。
(今の時代に起こるというのか?)
僅かな者しか感じられない予兆にミゲルは見定める姿勢に入り始めた。




