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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
11章 変動の鼓動
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死神の力に触れること

 モルテはディオスに失明の宣告を言うなり近くの椅子に座った。

 部屋に入った時にディオスの目が焦点を合っていないばかりかモルテを見ずに話していた。そして、暗い場所と言った時にどの様な容態であるのかすぐに分かった。

(これだから油断が出来ん)

 ディオスが失明した原因と現在の容態に後悔を抱くもこれからのことを思うと気を緩めることが出来ないと引き締める。


「失……明、ですか?」

 ディオスの震えく声がモルテの耳に聞こえた。

「そうだ」

 ようやく自分の状態が分かったと言うディオスにモルテは慰めを言わず否定も言わない。哀れと思うかもしれないが事実で覆すことが出来ないからだ。

「どうし……もしかして……」

「そうだ。私の鎌に触れたからだ」

 失明の原因を悟ったディオスにモルテは肯定するとその理由を教える。

「死神が具現化する武器はそれだけでも力だ。それを力のない者が触れると身体中に力が流れ込むことになる」

(だからあの時……)

 モルテの言葉にディオスは心当たりがあった。

 触れた瞬間にわけの分からない力が問答無用で体を巡る感覚。あれは死神の力だったのかと理解する。

「それじゃ俺の目は……」

 ディオスが失明した目に手を当てる。触れていることは感じていても見えていない。


 そう思ったのかディオスが悔しがるのを見てモルテは続きを言う。

「だが、同時に邪道にも繋がる」

「邪魔ですかですか?」

「死神の目の覚醒だ」

 死神の目と聞かされたディオスが硬直する。

「死神の目はゆっくりと時間をかけて覚醒するものだが初期段階では二種類の症状が現れる」

「症状ですか?」

「視力が良くなるか失明するかだ」

 失明と聞かされてディオスは自分が失明している意味を知る。

「そうだ。いくら時間をかけるとはいえ覚醒初期は安定しないものだ。その為に目は焦点が合わなくなる。それが一時的にだが視力を良くする」

「それじゃ失明は?」

「失明することは珍しくてな。体が力を押さえ込み、体がそれに適応しようとするのだ」

「つまり、俺が失明したのは……」

「体が死神の力を使えるように変えている」

 無意識の内に条件をクリアしていたディオスとしては凶報であるが死神の武器に触れたら近いうちに死神の弟子と差がないことを今は伝えるしかない。

「そして、死神の武器に触れることが邪道とされているのは時間をかける必要がない代わりに命を落とす危険があるからだ」

「命を……!?」

「そうだ。今までなかったはずの力をその身に宿すのだ。そうすれば反動が現れるものだ」

「た、確かに……」

 まさか自分がやろうとしていたことが命に関わることであり、それによって気を失っていたとなると今にしてみればぞっとしてしまう。

「私があの時に引き離したからよかったものの……」

「すみません」

「まったくだ。あれほど死神を嫌っているのによくも武器を拾おうとしたものだ」

 どうやらあの行為はモルテからしたら不意打ちもいいところで相当してはならないことだったとディオスは改めて理解して頭を下げた。

「だが、2日程気絶するだけでよかったものだ」

「2日!?」

 モルテの言葉にまさかそれだけ気を失っていたことにディオスは驚く。

「忘れるな。下手をすれば命を落としていたのだ。そのことを忘れるな」

「……はい」

 モルテの厳しい口調にディオスは短く返事を返す。

「それに、武器に触れた反動で体に相当のガタがあるはずだ。2日と言ったが下手をすれば一月気絶をしていてもおかしくはなかったのだ」

 これはディオスが武器に触れた直後にモルテが引き離したことが影響している。

 もしも引き離すのに時間がかかっていたらディオスは今度こそ命を落としていてもおかしくなかったのだ。

 それほどまでに死神の武器に触れて死神の目を覚醒させる邪道は危険なのである。


 とはいえ、ディオスは目覚めたばかりで体の疲労もそうとうなもの。これ以上の説教じみた会話は終わりにすると話を切り上げることにする。

「しばらくは安静にしていろ。失明も薬もあるとはいえ時間がかかる」

「はい……えっ、薬!?えっ!?」

 失明に対して薬と言うことにディオスが驚愕する。

「言っていなかったな。初期症状が重かったり長く続く様であったらそれを緩和させる薬がある。先程ディオスの目に落とした薬がそれだ」

「失明って治るんですか!?」

 まさかの展開にディオスは常識はずれであると頭が痛くなる。

 本来失明は一生光が見えなくなるものであるからと受け入れるしかなかったのだが、まさか薬で緩和、言い換えると治ってしまうことに先程までの苦しみは何だったのかと溜め息が出る。

(でも、多分治るのは死神の力だからか?)

 本当の失明なら一生光を見ることが出来ないが死神の力だから一時的なものだからと理解して、悟る。

(それって……俺が死神になるようなものじゃないか!)

 今になって失明した先に思い当たったディオスは今度こそ頭を抱えた。

(死神になるつもりなんてないのに……)

 これは本当に取り返しのつかないところに来てしまったと人生の中で一、二を争う後悔に悩まれることとなった。


 そんなディオスを見たモルテはやはりこうなったかと見つめる。

 ディオスが死神の力の一端を手にしてしまえばどうなるか知っており、そこからどうするべきかまでは予想しきれていない為に今は助言が出来ないが。

 答えを出せるのはディオスだけ。その答えをモルテは待つしかないのである。

 それがモルテが望まないものであったとしてもだ。


「さて、薬はここに置いておく」

 モルテはベッドの近くに置かれたテーブルに薬を置くと椅子から立ち上がった。

「夜だからもう一眠りしろと言いたいところだが、小腹が空いているようならケエルを呼べ。あいつのことだ。今の時間でも食べて良さそうなクッキーでも持って来るだろう」

「はい……え?」

 モルテの提案に快く頷いたディオスであるが、その時に出た名前に心当たりがあった。

 その名前はランバンには居なかったはずだからだ。

「店長、ケエルって名前は……あの、ここってランバンじゃないんですか?」

「ランバンではない。サンタリア、エクレシア大聖堂の死神デスの区画だ」

「やっぱり!」

 ケエルという名前から、もしかしたらエクレシア大聖堂内部にいるのではと思っていたらその通りであった。

「そもそも、どうしてエクレシア大聖堂に!?」

「ランバンであったことをラルクラスに報告する為だ。そうしたらまたここに居ろと言われたのだ。色々と詰めることが出来たからな」

 どうやら死神として滞在しているのだと知るが、一つだけ疑問が残る。

「それじゃ、どうして俺もここに?」

「私の武器に触れて気を失ったの者をラルクラスが見捨てると思うか?」

 どうやらラルクラスの好意によって滞在出来ているのだとディオスは悟る。しかし……

「もっとも、ディオスの滞在はケエルの頼みなのだがな」

「え……?」

 モルテの告白に呆けた時であった。

「ディオス君ーー!」

「うわっ!?」

 何処からともなく現れたケエルが真横からディオスに抱き付く。

 失明しているディオスからしたら不意打ちであり、モルテが言い出すまでタイミングを見計らっていたのではと言いたくなるほどである。

「目が覚めたんだね。よかったよ!」

「ケ、ケエル……さん!?」

 喜ぶケエルに戸惑うディオスという構成を見たモルテは部屋から退場することにした。

「それではケエル、ディオスの面倒を任せたぞ」

「はい!」

「て、店長!?助けてくださいよ!店長ーー!!」

 ディオスの助けを無視してモルテは部屋から出て行った。

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