翻弄
倉庫から大急ぎで飛び出したディオスは周りを見渡し悪魔がいないことを確かめると出口がある方向へ走って行き、途中で道を曲がってある程度の場所で足を止めた。
そこで深く深呼吸をすると壁に掛けられていた道具をあえて派手に落として金属音を上げた。
予想以上に響いた音にビクリと肩を上げて驚いたディオスであるが、その狙いがすぐに実現する。
「見つけたニャー!」
道具が立てた金属音に釣られて目的であった頭だけの悪魔が自分から姿を現した。
「ニャニャニャニャ!そんな音を立ててどうしたニャ?怖いものから逃げ切って安心してたかニャ?」
ディオスが取った行動を悪魔は逃げ切ったことによる気の緩みでドジをしたと思い込む。
「ちなみに聞くけど、その怖いものって何?」
「怖いものは怖いものに決まっているニャ!」
ディオスは悪魔から距離を取る為にゆっくりと後退しながら話しかけたが、それに釣られて悪魔も付いて来る。それでも一定の距離は開いている。
「例えば?」
「ニャーとかどうニャー?シャー!」
「自分でそう言う!?」
乗りで威嚇をした悪魔に自覚をしているのに隠す気がないということにディオスは驚く。
「ニャ?そういえばあの男はどうしたニャ?」
よく見るとディオスと共にいたオスローがいないことに悪魔が気が付く。
「まさかお前を置いて先に逃げたかニャ?それともお前を囮にしたかニャ?」
オスローはディオスを見捨てたと思いケラケラと笑いだす。
実際はディオスが自ら囮を願い出たことでオスローは反対したのであるがそれを教えるつもりはない。
「勝手に言ってろ悪魔!」
そう言うとディオスはその場から大急ぎで走り出した。
「逃がさないニャ!」
ディオスが走り出したことで悪魔は追いかけ始めた。
ディオスはとにかく追って来る悪魔から逃げるように走る。
その目的は二つ。
一つ目は可能な限りオスローから引き離す為。
悪魔をオスローが隠れている場所から遠ざければそれだけで運動音痴であるオスローでも逃げることにある程度の余裕と時間が生まれる。
これはどれだけディオスが悪魔から逃げ切れるかにもよる。
だからこそディオスはその為の工夫として手当たり次第に走って逃げているわけではない。それが二つ目である。
ディオスはまた走る勢いを出来るだけ殺さず、けれども出来る限りの最小限に車両倉庫の角を曲がった。
車両倉庫は倉庫や車両が似たような形である為に初めて訪れた者には何処にいるのか分からなくさせてしまう。
「待つニャー!」
顔だけの悪魔は浮いているにも関わらずスピードを一定のまま曲がってディオスに迫る。
「ニャニャ!もう少しで追い付くニャ!」
距離にしてみたら先程よりも近くなっていることで悪魔が笑う。
しかし、ディオスは悪魔の声に慌てることなく次の曲がり角も曲がった。
オスローから借りた悪魔・生霊用の閃光手榴弾を使えば目眩ましになって悪魔から逃げるのは容易い。だが、それを何度も使用すれば数が少ない閃光手榴弾はすぐにでも尽きてしまう。加えて何れは閃光手榴弾の明かりに悪魔がなれてしまうのではと懸念している。
故にディオスは本当に追い付かれて手がない時、一度だけ閃光手榴弾を使わないと決めていた。
それではその手とは何か。ディオスは既に悪魔から遠ざかる為の策の準備が出来ていた。
「ニャニャニャニャ!」
悪魔の笑い声が今までで一番近くなったことでディオスは初めて振り返った。
悪魔は笑いながらその距離を狭めている。何となく税所の時よりも早く感じたディオスは策を弄し始めた。
走りながら倉庫の壁に立て掛けていた鉄の棒を纏めている紐を力任せに引っ張った。
すると、掴み所を狙っていた為に結び目が解かれ纏められていた鉄の棒が金属音を立てながら散り散りに落ちる。
「ニャー!?」
その突然のディオスの行動と出来事に悪魔は驚きの声を上げた。
丁度鉄の棒が落ちてきたタイミングは悪魔が通るタイミングと同じであった。その為に悪魔は降り注ぐ鉄の棒を掻い潜る為に初めてスピードを落として回避しながら懸命に進む。
やっとのことで鉄の棒から潜り抜けた悪魔は目前にディオスがいないことに気が付く。
「お、おのれぇ……」
ただの人間にしてやられたという悔しさが悪魔の中に沸く。
「許さないニャ!許さないニャ!後悔させてやるニャー!」
その場で叫ぶと悪魔は先程よりもスピードを上げてディオスお追いかけ始めた。
ディオスを見失ってから最初の別れ道で左右を見回し人影や気配がないかを見る。
「見つけたニャー!」
そして、猫の目で遠くまで逃げて丁度曲がり角を曲がったいるディオスを見つけた悪魔ますぐに迫る。
「もう逃がさないニャ!」
悪魔の怒りは意外にも頂点に達していた。
悪魔が迫っていると声で気がついたディオスは確かめるように一瞬だけ振り返るとすぐに走ることに集中し始めた。
「待つニャー!」
必死に逃げるディオスとそれを追いかける悪魔。距離は次第に縮まり、ディオスはまた曲がり角を曲がった。
「ニャニャ!」
ディオスが曲がったのを見た悪魔はこれを好機と捉えた。
ディオスは悪魔と違って曲がり角ではスピードを落とす。一定のスピードを保ったままの悪魔はその必要がない為にすぐにでも追い付く。
ここがチャンスと悪魔はスピードを上げた。
そして……バン!という音と冷たく細い鉄の棒が悪魔の顔に直撃した。
「ニャァァァァァ!!」
そして、悪魔は明後日の方向へと飛んで行った。
「……上手くいった……」
ディオスは痺れる両手にくの字に曲がった鉄の棒を握ったまま安堵して肩を落とした。
ディオスは曲がり角を曲がるとすぐに地面に散らばっていた鉄の棒を一本握って悪魔が来るのを待ち構え、そろそろと踏み込んで振るったのだ。
悪魔が予想していない自ら討って出るという博打にディオスは見事に勝利したのだ。
とはいえ、逃げる為にはどうしても必要であったと自分に言い聞かせるが本来これは正真正銘追い込まれた時にすることであり一度しか使えない。もう二度と使えないのだがディオスはそれでもいいと思っている。
「それにしても、悪魔ってかったぁ……」
遂に痺れた両手が限界に達してくの字に曲がった鉄の棒を捨てた。
ディオスが車両倉庫にあるものを駆使して悪魔を翻弄出来た理由は逃げ回る場所を限定的に絞ってひたすらに地理と何処に何があるのか記憶してその上でどうすれば悪魔と距離を放すことが出来るかと考えていたのだ。
自分とオスローが逃げ切る為に車両倉庫の地理を覚えたディオス、ディオスを追いかける為に集中して周りを疎かにした悪魔では如何に力の差があれどこの様な結果になった理由を悟ってしまう。
「とにかく逃げないと……」
走り続けて疲れた体に鞭を入れた時であった。
「うわっ!?」
突然目の前の倉庫が木の欠片を巻き上がらせながら壊れ、そこから二つの影、モルテとローレルが鎌を振るいながら現れたのだ。
モルテとローレルは倉庫を壊してもなおお互いの死神の武器である鎌を振るい続け、鍔迫り合いの末に距離を開けた。
その時モルテは狙っていたようにディオスの前に着地すると庇うようにして立った。
「無事かディオス?」
「は、はい!」
突然の出来事とモルテの問いかけにディオスは慌てて返した。
その時、
「ニャー!痛いのニャー!」
ディオスが飛ばした筈の悪魔が牙を尖らせて飛んで来た。
「邪魔だ!」
それに気がついたモルテはタイミングを見計らい悪魔をローレルに向けて思いっきり蹴り飛ばした。
「ニャァァァァァ!!」
モルテに蹴られてクルクルと頭を回転させられた悪魔は自分から立ち直ることが出来ずそのまま飛ばされ、ローレルは頭を小さく動かして回避した。
「ニャァァァ!お、お前、相棒をぉぉぉ……」
そして、遠くからガシャーンと音が響いた。
猫の悪魔がギャグになっている件について。
最初は自由気ままなはずだったのに……これはもう中級ということにしました。
ただ、こんな調子だからかネタを考えていると某妖怪の地縛霊猫が突然頭に浮かんで時々「カモーン!」と口ずさんでいます。
……申し訳ございません。




