猫が駄目
ディオスの首を絞めている尻尾に突然、斬撃が飛び込むと切り裂いた。
「ニャァァァァァ!!」
尻尾が切り落とされたことで大きな悲鳴を上げる悪魔。
それと同時に束縛から逃れることとなったディオスが地面へと落下するが、寸での所で今度は背後から首を締め付けていた尻尾と同じ太さの紐が背後から巻かれ、そのまま後へと引っ張られると地面に放り投げられた。
「ゴホッ……ゴホッ……」
「間一髪だったわね」
尻尾から解放されてむせるディオスを庇うようにしてモルテとテレーザがそれぞれの死神の武器を手に持ち前に立っていた。
「て……店長……」
「……まったく、何故お前は……」
「どうして……」
「ディオスが宿に戻っていないからだ。探して正解だった」
呆れるモルテと戸惑うディオス。
モルテはこれからやろうとしていることにディオスを巻き込ませないようにとランバンにいる死神に預けようと宿泊している宿へと向かった。
だが、宿にはディオスとオスローが帰って来ていないと知ると大急ぎで探して現在に至る。
「けれども、モルテが思った通りになったわね」
「ああ」
そんな2人をテレーザは仲がいいのだと思う。
しかし、モルテとテレーザの視線は常に悪魔へと向けられている。
「ニャーー……!!」
「あれが一連を騒がしている悪魔でいいようね」
悪魔も切られた尻尾を掴んだまま常にモルテ達を睨んでいる。
「あと少しというところを……」
「これ以上死人を出させるわけにいかないからだ」
そう言ってモルテの視線は別の方へと向けられた。
「そこにいる奴、出てこい!」
モルテの言葉と視線にディオスは反射的に振り向いた。だが、そこには何もなく、あるのは出番を待つ列車の車両のみ。
「隠れていることは分かっている。元々は死神であろうものが悪魔から人間を救わんばかりか悪魔と手を組むなど……」
その時、モルテは声をかけている場所めがけて鎌を振るうと斬撃で車両を真っ二つに切り裂いた。
「いい加減に出て来い!ローレル!」
「え!?」
モルテが口にした名前にディオスは驚愕した。
土煙が舞い車両の鉄が音を立てて派手に落ちる中、その人物は腕で防ぐ格好をしてそこにいた。
「驚きました。まさかバレていたとは」
煙が収まるとローレルは腕を下げてゆっくりとモルテ達の元へと歩いて来た。
だが、モルテはローレルの足元目掛けて斬撃を放ち動きを止める。
「それ以上近付くな!」
「モルテ……」
睨み付けるモルテと悲しい眼差しを向けるローレル。
「何故ですか?」
「それはこちらの台詞だ!何故貴様がこの場所にいる!」
「それはディオスさんを見かけたからですよ。この様な時間に何処に行くのかと後を付けたのです。ですが、悪魔に襲われそうでしたので助けようとしたのですが、私よりも早くモルテが助けたのです」
偶然ですよと言うローレルだがモルテの目は険しいままである。
「何故この様な時間外に出た?」
「このように年老いた身です。何故かは分かりませんが歩きたくなるものです」
昼間には体を酷使させるなと笑い話をしていたが今は全く真逆のことを言う。
だが、モルテの追及、責め立ては終わらない。
「茶番はよせ。そもそもランバンで会った時からおかしかったのだ」
何がと思うディオスと優しそうな表情を浮かべるローレルがモルテを凝視する。
「ローレル、お前はその様な話し方はしなかったはず。本来の口調は砕けていたからな」
「そんなもの、ランバンに来てからこうなったのです」
「コーヒーの味も変わっていた。前は渋みが強かった。だが今回飲んだコーヒーに渋みはなく苦味だけだった」
「久々に入れましたからね。それに、息子夫婦から渋すぎると言われたので入れ方を変えたのです」
どれもランバンに来てからの変化だと断言するローレル。
だから、モルテはローレルでは言い訳出来ない決定だを繰り出した。
「それに貴様は……ディオスと同じで猫が苦手であろう」
「えっ!?」
「そんなこと……」
「いや、少しばかり違うな。ディオスは本当に猫が苦手なのだろうが貴様は猫に近づくこと、近づかれてはならないはずだからだ」
モルテの口から出た言葉に驚愕するディオスとローレル。
「どういうことですか店長!?それよりも、どうして俺が猫が苦手って分かったんですか!?」
「知らないだろうが、猫を見ていた時のディオスは動きがぎこちなかったぞ」
モルテに猫が苦手であると気付かれたことに仰天するディオスだがモルテは口元を緩めていた。
「だが、お陰で思い出すことが出来た。ローレルも猫が苦手、触ることが出来ないことを」
「どういうこと、モルテ?」
先程よりも自信が感じられるモルテにテレーザが尋ねる。
「ローレルは猫がいる場所ではくしゃみをするのだ。聞いたことはないか?猫が多くいる場所に稀にくしゃみをし続けたり目が痒くなる人間がいる話を?」
「そういえば聞いたことがあるわね。でも、それがどうかしたの?」
「猫がいる場所でそういった症状が出る理由は猫のフケだ。猫のフケはとにかく細かくてな。人間の体内に入ると稀にだがそれを異物と捉えてくしゃみや痒みを起こす。ローレルはその稀な人間だ」
モルテの解説になるほどと理解するディオスとテレーザ。
一方でローレルは首を横に振った。
「それならここの医者に……」
「不可能だ。その体質は簡単に治るものではない。まして、今の時代に治療法は確立していない。貴様が長い間猫の近くにいてもそういった症状が出なかった理由は一つ。人間から悪魔となったからだ」
悪魔となってしまえは死神とは違い体が全く別物となる。そう考えると体質が変わったことに納得がいく。
モルテの鋭い目付がそのままローレルを貫く。
「……いつから私が猫が駄目と?」
「貴様がアシュミストを離れた後、ネストレから聞かされたのだ。ローレルがそれを隠していることもだ」
ローレルが猫に近づけないことを知るモルテはその切っ掛けを話した。
もしもネストレからローレルが猫が駄目と聞かされていなければ、例え初めからローレルが悪魔になっていると気がついていたとしても追い詰めるには決定的なものが足りず手こずっていたはずだ。
だからモルテは知っていたが故に切り札として秘匿して、切り出したのだ。
元アシュミストの死神である暴挙を止める為にその師に仕えた弟子を、暴走を止める為に命を刈り取ったネストレの名を使って。




