悪魔の誘い込み
ディオスとオスローは女の子と共に駅前にいた。
「来ませんね」
駅の出入口から外に出て来る人を見ながらディオスが呟いた。
夏とはいえもう秋が近付きつつあり僅かに日が沈むのが早くなったことで辺りはすっかり暗くなっていた。
「もしかしたら本日の鉄道ではないのかもしれませんね」
「ちがうもん!ママはくるもん!きょうかえってくるっていったもん!」
「ああ、すみません」
女の子の否定する言葉に軽率でしたとオスローが謝る。
とは言え、オスローがそう思って言ってしまうのも仕方のないことである。
女の子を駅前に連れて来てから随分と時間が経っている。
女の子を一人にしておくわけにはいかないとディオスとオスローがずっと駅から出て来る乗客達を見送るが一行に女の子の母親らしき人物は現れず、女の子も駆け出す様子を見せない。
途中でお腹が空いたとオスローが近くの売店で軽めの夕食を購入して食べたりもしたが、その間も辺りを見渡せどいない。
そして、とうとう最終鉄道が到着して乗客が駅から出て来るが、女の子の母親は現れなかった。
駅の内外の人間が徐々にいなくなっていくのを見てディオスはオスローと話し始めた。
「何かあったんですかね?」
「あったのでしょう。ですがそれが何かまでは分かりませんね」
「ママ……」
最終鉄道にも乗っていなかったことで女の子はすっかり落ち込んでしまっていた。
「もしかしたら、迷子になっている間に到着した鉄道に乗ってたんじゃ?」
「可能性としてはありますね。念の為他の駅で何かなかったか聞いてきます」
「お願いします」
そうして駅にいる駅員から情報を聞きに行ったオスローを見送る。
女の子の母親探しに賢明に動き出すディオスとオスロー。
そんな2人の様子に女の子はディオスの手を握った。
「ありがとう、おにいちゃん」
「どういたしまして」
笑顔で答えたディオスであるが既に頭の中ではどうしようかと考え始めていた。
他の駅で何もなければ今後の問題は女の子のことである。
女の子は自分の家を覚えているかもしれないがどの辺りかを覚えていなければ帰すことが出来ない。
警察に尋ねて女の子を探している母親、もしくは家族に引き渡せればそれでいい。
しかし、もしも女の子を探していなければ警察に預けることになるかもしれないことを思う。
そうした場合に女の子はどう思うのかと心配になる。
赤の他人のはずなにの深く肩入れをする必要などないのに真剣に悩むディオス。
その時、
「ママだ!」
突然おんなの子が声を上げた。それも先程まで沈んでいた声ではなく明るい声である。
「ママーー!」
「あ、ちょっと待って!」
突然手を放して駆け出した女の子にディオスは戸惑った。明らかに駅とは別の場所へ向けて走っていたからだ。
少しだけ駅員と話しているオスローを見たが女の子を見失ってはいけないとディオスは追いかけ始めた。
◆
しばらくして、女の子は駅の裏、車両が収納されている車庫で足を止めた。
後を追っていたディオスも女の子が止まったことで足を止めたが表情は険しいものであった。
「どうしてここに来たの?」
ディオスの口調は今まで通りであるが声は先程までの優しさがなく鋭い声となっていた。
女の子を追いかけていたディオスは途中でいくつもおかしいことに気づいたのだ。
最初に気がついたのは女の子に追い付けないということだ。
最初は駅の周囲で人を避けながら走っていたから仕方がないと思うが、徐々に人がいない場所に出ても全く追い付くことが出来なかった。
しかも、長い距離を走っていたのに女の子は疲れた様子を見せていない。
そして、駅の車庫に着いた時、そこから入るであろう入口に警備をする人間がいなかったのだ。
もうこの時点でディオスは分かっていたのだ。女の子は母親を見つけていない。いや、母親は初めからいなかったのであろう。いない人物を女の子はずっと探して追いかけていたのだ。
では何故女の子は車庫へと走ったのか。
今までの流れと関わりから考えられることは一つしかなかった。
途中で違和感に気がついて止まって逃げてもよかった。しかしディオスはそうしなかった。自分が行おうとしていることが自滅に繋がることも理解していた。けれども知らないままではいられなかった。
己が抱いた疑問が正しいことを確認する為にあえて追いかけることにしたのだ。
ディオスは背中を向けたままの女の子に語りかけた。
「君は、悪魔じゃないのか?」
その言葉に静寂が生まれた。
元々音を出すような物がないことで暗闇と相まって緊張感が増す。
そして、亀裂が生まれた。
突然ディオスの首に細い紐のような物が締め付けられた。
「ぐっ……!?」
「せいか~い!」
もさもさした紐に首を締められたディオスはそのまま足から地面が離れ、いつの間にか女の子は振り返って不敵な笑みを浮かべていた。
首が苦しく何とかして逃げ出そうと閉めている紐を握るが全く弛む気配はない。
「あ~、こんニャ口調は疲れたニャ……」
よく見ると女の子のお尻から尻尾が生えており、その尻尾がディオスの首を締め付けていた。
「な……」
「ニャ?」
「な、なんで……おれ、を……?」
苦しいながらも声を上げた出して問うディオスに悪魔が微笑んだ。
「それはお前を殺す為だニャ」
「だから、なん、で……」
「分からないかニャ?お前はニャーの正体に気づいていたのだろ?」
「おれ……が……?」
「そうニャ」
自信満々に言う悪魔にディオスは何のことか分からなかった。
「おれが……いつ?」
「そこまで言うつもりはニャい……ニャ?」
そこで悪魔は気がついた。
「お前、はもしかして……気づいていニャかったのかニャ!?」
ディオスが全く気がついていなかったという事実に悪魔は取り乱し始めた。
「ニャんということニャ!お前が気がついたと思ったから、死神に教える前にと思っていたのに知らなかったのニャーー!?」
「だ、から、いつおれが……」
悪魔の言葉に言い返そうとしたディオスだが、気がついてしまった。悪魔の正体を。
「もしかし、て、あの時の、ねこ……か……?」
ローレルの家にいた時にずっと外から見ていた猫。それが悪魔であることにディオスは気がついた。
しかし、言ったことが良くなくディオスの首がさらに締め付けられた。
「ぐっ……」
「ニャー……正解ニャ……ニャ~まさか気づいてニャいのニャんてニャ……ニャんでニャーを見てたんだニャ?」
ディオスに尋ねる悪魔であるが、ディオスは首が更に締め付けられたことで声を発することが出来なくなっていた。
「まあいいニャ。ここで気が付いたのニャら殺すニャ」
悪魔は舌舐めずりするとディオスを見た。
「バイバイニャ」
悪魔はディオスを絞め殺す為に尻尾に力を入れた。
ディオスピーンチ!




