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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
2章 葬儀屋の仕事
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謎の老人

 アシュミスの空は既に夕空から夜の暗闇へと変わっていた。

「ごめんミクちゃん……じゃなかったミク。まさかこんなに遅くなると思わなくて」

「いいよ。仕方ないから」

「仕方ないって言うけど、まさか花屋を見つけるのにこんなに時間がかかると思ってなかったから……」

 花屋から出るなり謝罪するディオスの言葉に首を横に振るミク。だが、ディオスはものすごく気にしてしおり落ち込んでいる。


 新住宅街における地理をあまり知らないディオスは花屋がどこにあるのか分からず住人に聞きに回った。富裕街や商業街ならどこに花屋があるかは知っていたが何故そこで買わなかったかと言うと、値段が高いことと花束を持って新住宅街まで向かいたくなかったからである。それに、近くで買った方がいいという判断からであったのだが、まさかこれが裏目に出るとは思っていなかった。

 花屋の場所を聞き出せたのはそろそろ夕空になろうとしていた時。言われた通りに向かうも何故か花屋に着けず。おかしいと思って違う人に尋ねると、なんと逆方向。しかも、空は夕空となり早ければそろそろ閉まるはずだと急いで向かい、閉店ギリギリで何とか花束を買うことができた。

 だが、ディオスはこの出来事に自身の計画性のなさとミクに無茶をさせてしまったこと、遅くまで連れ回すことになってしまい落ち込んでしまっていると言うわけだ。


 それからしばらくして、ディオスは花束を携えてカリーナが死んだとされるメログラーノ通りの建設現場へとミクと共に足を運んだ。そこには既に沢山の花束が手向けられていた。

「すごくいっぱいあるね」

「皆、カリーナの死を知って手向けに来たんだと思う」

 ミクの素直な感想にディオスは改めてカリーナが学友達に好かれていたのだと実感しながら花束を手向けた。

「どうしてここで死んじゃったんだろう?」

 ミクは建設途中の建物を見ながらディオスに尋ねるように呟いた。

「多分、自殺じゃないと思う」

「どうして?」

「カリーナは自殺をするような人じゃないってことだよ」

 ディオスの言葉に首を傾げるミク。

「おもしろいことを言うの」

 その時、二人の背後から声をかけてきた者がいた。振り返るとそこには一人の老人が立っていた。

「あなたは?」

「ここの近くにすんでいる者だ」

 ディオスの言葉に老人は近くにある家を指差して言った。

「さっきおもしろいって言いましたが一体何がおもしろいと言うんですか?」

 ディオスは不審そうな目付きで老人に尋ねた。

「なに、今日はこの建物の近くに若い男女か何人も来てな、どうして死んだんだ、どうして自殺したんだと嘆いていた。たが、お前さんは全く別のことを言った。それがおもしろくての」

「そうですか」

 どうもデリカシーをあまり感じられない老人にディオスはいい気持ちがしなかった。

「それで、どうして自殺ではないと言うのか知りたくての。よければ聞いてもいいかい?」

 やっぱり老人からはいい感じはしないが少しくらいはいいだろうと話すことを決めた。それに、自殺ではないという自信もある。

「ここで死んだ俺の学友には自分から自殺する理由がないんです」

「ほう?」

 ディオスの言葉に驚いた表情を浮かべる老人。

「ずっとおかしいと思っていたんです。家族思いのカリーナが家族を嫌っている訳でもないのに誰にも何も知らせずに死んだのが」

 それはディオスがマミューの言葉を聞き疑問に思ったことであった。

「カリーナは俺達学友によく言っていたんです。一人で出来なければ相談してほしいと。それも、よく学友の相談役として話を聞いていたカリーナがです。そんな事を言うってことはカリーナも家族に相談することがあったと思うんです。それなのに家族に何も言っていない。悟られていない。だから俺は自殺はおかしいと思ったんです」

 それはずっとディオスが違和感に思っていたことであった。

 カリーナの母親であるマミューの話を聞いてそれでもどこか不仲な所があるのではないのかとも考えた。けれど、それならマミューがカリーナの様子に『怯えている』というあの言葉の意味がなくなってしまう。

 話を静かに聞いていた老人はディオスに質問をした。

「では、自殺でないのなら何だというのか?」

 ここまで聞くのかこの老人はとディオスは思った。だが、話すのに集中していたディオスは口を止めることはしなかった。

「誰かに殺されたと思っています」

 その言葉に何も言わず聞いていたミクが驚いた表情でディオスを見た。

 老人もさすがに予想外だったのか驚いた表情を浮かべていたがすぐに真顔になり尋ねた。

「どうしてそう思うのか?」

「カリーナの母親からカリーナが怯えていたと聞いたんです。何かに怯えて自殺をする理由が分からない。それに、カリーナなら誰かに話したり記録を付けるはずなのにそれもない」

 マミューの話から全くそのような事を聞いてはいない。だから思った。カリーナはしたくてもそれが出来ないと。それをもしすれば今度は自分だけではなく家族も巻き込まれてしまうと。

「恐らくカリーナは、誰かに見張られ、もしくは脅されて何も出来なくて殺されたのではないかと思っています」

 ディオスは今まで自分が考えていたことをありのままに老人に話した。

「すごいの」

 ディオスの話に感心する老人は賛美を唱えた。そして、薄ら笑いを浮かべた。

「ところで、お前さんには父親はいるのかい?」

「いませんが?」

老人の質問に何故そんな質問をするのか分からないが素直に答えるディオス。

「そうかの。ここまで考えていたのなら少し危ないな。気兼ねなくやれるの」

 老人が一体何を言っているのか分からないと思ったディオスは次の瞬間、目の前が暗くなるのを感じた。

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