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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
11章 変動の鼓動
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引退した死神のその後

 昼食後、モルテ達は食後のコーヒーを飲んで一息入れていた。

「ふう、久し振りに昼食を食べて満腹です」

「そうか。それにしては随分と少なかったようだが?」

「この歳になると食が細くなるんです。加えてこの暑さですから余計に」

「なるほどな」

 昼食時、ローレルは小皿に盛られた昼食を時間をかけて食べていた。それだけで足りるのかと疑問に思ったモルテであるが歳を理由にされては納得するしかない。

「それにしても、本当によく食べましたね。ここにいる若い者よりも多く」

 そう言ってローレルは今の発言で困った表情を浮かべたディオスを見た。

 ローレルが言った通り昼食はモルテが人一倍食した。

 極端な話し、昨日のレストランでもそうだがモルテの食欲がフネーラ家の食材を使いきらなくてよかったとディオスは心中で思っている。

「朝と昼の食事は多く取ることに越したことはないからな」

「だからって、食べ過ぎだと思いますが?」

「いつもこれくらい食べているだろう」

「そうですけど……それでも食べ過ぎです」

 モルテは朝と昼の食事を多くとるが夜は極端に食さない。この差にディオスは食べ過ぎから夜の食事を多く取らないようにしているのではと考えている。


「初めてお会いして食事をした時も人一倍食べていましたね」

「あれか。あれは朝食を抜いて腹が減っていただけだ。今にして思えばあそこの宿の食事は口に合わなかったな」

「はははは。それは不幸としか言えませんな」

 どうやらアシュミストでも昨日のレストランと同じ様なことがあったのだとディオスは知る。

 その時の事を思い出しながらローレルは笑ったがモルテはうんざりと肩を落とした。

「しかし、あの宿は泊まることを重点にしていたので食事は二の次だったはず」

「みたいだな。お陰で改革時に潰れた。食事を手抜きにした金額を懐に入れていた様でな」

「それはそれは」

 さらりととんでとないことが話された気がしたが2人の表情は涼しいものそのもの。


 しかし、その表情からモルテは個人的に真剣な話しへと変えた。

「しかしローレル、夏だからとは言え食べることを疎かにするな。この時期に野菜と適度な肉類を取ることは体に必要なことだ」

「ははは、ご老体の体を気づかうのですね」

「気づかうもなにも、路面鉄道で会った時に体型が変わっていて気づかなかったんだぞ」

「そんなに変わっていますか?」

「変わりすぎだ!」

 実際にモルテが記憶している8年前のローレルの容姿は劇的に変わっている。

 8年前は年齢とかけ離れたがっしりとした体型に肉付きであったが、今は痩せてしまい年相応となっている。

「しかし、それと食事と関係が?」

「おおありだ。食べなければこのまま痩せ細るぞ。それに、食料庫にトマト以外の生野菜がないのもどうかと思うが?」

「この歳で食が細いので買溜めをしても一人暮らしなので痛めてしまうだけです」

「食べきれる分だけを買いその都度手に入れればいいだろう?」

「それでは何度も足を運ぶことになりますね。年寄りとしては大変なことだ」

「日課とすればいいだろう?聞いた話しによると外に出て散歩などを日課にすると健康でいられて長生きするらしい」

「何年も生きられるわけではない年寄りに長生きとは……やれやれ」

 健康を気づかうが故に無理を言うものだと呆れるローレル。

 だが、モルテとしては至極真面目なので熱を入れて話しているのを隣に座っているディオスが感じ取っていた。


 いつまで続くのかと考えた瞬間、ディオスの背筋がゾワッと震えた。

 そのままディオスはゆっくりと顔を動かして視線を木最初に気がついてからずっとそこにいるそれに向けた。

(何でまだそこにいるんだよ!)

 ずっとこちらを見ている存在にディオスは呆れと嫌気を抱いた。

「どうしたディオス?」

 そんなディオスの様子に気がついたモルテがローレルとの話しを中断して何かと問いかけた。

「て、店長!?な、何も……」

 慌てて何もない素振りをするディオスだが、モルテはディオスが見ていたそれに気がついて見た。

 胴体は長く大きな目と尖った耳を持つ。そして、尻尾の先をくるりと曲げて塀の上に座りながらこちらを見る生き物。

「猫か?」

 その瞬間、ディオスの体が僅かに震えた。

 猫はモルテが気づいたからか体を起こすとすぐさま塀から飛び降りて菅田を眩ませた。

「あの猫は事故の後にこの付近に住み着いた猫でして、どういうわけか家の敷地によく訪れるのです」

「そ、そう、だったんですね……」

 それならずっと塀の上から家の中の様子を伺っていたのは慣れ親しい場所に突然訪れた見知らぬ人間が誰なのかと観察をしていからだとディオスは固い表情のままその様に納得するが、このままではまずいと頭を振るい話しを自ら変えることにした。


「あの、ローレルさんって元々は死神だったんですよね?」

「そうですが急にどうしましたか?」

 突然のことに何かとローレルが首を傾げる。

「えっと、今まで考えたことがないんですが、引退したでいいんですか?元死神ってその後どうなるのかなと」

「なるほど、確かに私のような隠居と会わなければ考えもしないことですね。モルテの弟子でないのが惜しいくらいです」

「そ、それは……」

 死神が嫌いだから弟子になりたくないですと言えないディオスは苦笑いを浮かべるしかない。

「一線を退けた死神は自由ですよ。ですが、殆どは私の様に現役の死神に積極的に手を出しません」

「それはどうしてですか?」

 頼まれたら手を出して助けるようなものを思い浮かばせていただけに返ってきた答えに意外と思う。

 そこにモルテが理由を言う。

「肉体的衰えもあるが最大の理由は現役の死神に全てを任せているからだ」

「はい。今を担っている死神がいるからこそ私達は彼等が困らない限り手を出すことはありません。それに、私達が積極的にあれこれと言って困らせたりしてしまえば彼等の為にもなりません」

「つまり、任せる一方で見守っているってことですか?」

「はい。その為に現役の死神も私達に頼ることが殆どないのです」

「なるほど」

 道理でアシュミストで引退した死神を見ないわけだと納得する。

「しかし例外もいる。ダーンは一線を退けたとは言え道具作りで手助けをしている。他にも死神集会の場所を提供したり情報を集め提供したりと別方面からこちらを助けている元死神もいるのだ」

「ええ。皆好きでやっていることですからね」

 引退してもなお死神として関わりを持っていることにディオスはそういうことだと記憶する。


「それと……」

『モルテ聞こえる?』

「すまない」

 ローレルが言いかけたその時、突然テレーザから領域を使った連絡がモルテに入った。

 モルテは一声謝罪を口にするとすぐにテレーザと連絡を取り始めた。

「どうした?」

『モルテ?よかった。緊急よ、フィリポが負傷したわ。それも勤務中に。恐らく生霊リッチか悪魔によ』

「何!?」

 連絡の内容にモルテは椅子から立ち上がった。

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