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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
11章 変動の鼓動
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フネーラ家の不幸

 沈黙を破ったのはモルテであった。

「どういうことだローレル!?」

 予想していなかったローレルの言葉にモルテが早口で尋ねる。

 ローレルは高齢になったことで店を手離して息子夫婦がいる首都ランバンに越したのだ。その息子夫婦が事故で亡くなったことをモルテはいくら他人とはいえ聞いてしまったからには聞かずにいられなかった。

「一月前のランバンとセントリード間の鉄道脱線事故を知っていますか?」

「一ヶ月前か?すまない、その時私はシュミランにいない」

「そうですか……」

 教皇選挙の為に一ヶ月以上シュミランを離れていたモルテが事件を知らないことに残念がるローレル。

 しかし、知らないモルテに代わってディオスが答えた。

「確かフェラヴォーイ路線で起きた脱線事故のことですよね?」

「そうです」

「店長、その事故は俺達がプラズィアから帰ってすぐに起きた事故です」

 そう言ったディオスは詳細を知らないモルテに事故のことを教え始めた。


 一ヶ月前に起きたフェラヴォーイ路線鉄道脱線事故はシュミランの鉄道歴史において最大の犠牲者が出た事故である。

 フェラヴォーイ路線とは首都ランバンと古都クシュランエを繋ぐ路線のことであり、セントリードはランバンの隣にある駅である。

 事故が起きた当日はクシュランエで長年続いてきた祭りが行われていた。それに合わせて多くの観光客や見物人が鉄道を利用してクシュランエへと訪れた。

 そして、事故が起きた鉄道はクシュランエからランバンへの最終便であった。

 多くの乗客が乗り満席と言っていい。鉄道は順調に走りランバンまでもうそこまでと来ていた。

 だが、突然の揺れと同時に鉄道は先頭を走る機関車から線路を脱線。そのまま鉄道は地面を走ると大きなうねりを上げて牽引していた車両全てを巻き込んで倒れ込み炎上。

 火の手は徐々に燃え広がりランバンから人が来た時には機関車と2車両が燃え上がっていたという。

 そして火を消火し救出作業に入った時には既に多くの乗客が犠牲となっていた。

 鉄道が脱線した原因は以外にも線路が湾曲に曲がってしまっていたことだ。左右に曲がる為ではなく線路の一つが浮き上がるようにして曲がっていたのだ。

 鉄で出来た線路は道具を使わず人間の力で曲げることは不可能。一体何故この様なことが起きたかは今も分かっていない。



「それが新聞に載っていた全てです」

「よく覚えていたな」

「1週間以上を一面で載っていたのでそれで」

 それでもうろ覚えになるだろうと呆れるモルテだが今回はその記憶力に感謝するべきと思考を切り換える。

「私が補足するところがありませんね。いい従業員を手に入れましたねモルテ」

「ああ。しかし、ローレルはその鉄道に乗っていたのか?」

「はい。運が良かったのか車内から弾き飛ばされ私だけ事なきを得ましたが息子達は……」

 ローレルの悔しがる気持ちが伝わる。

 本当なら死んでもおかしくなかった事故に今日か明日かも分からない高齢が生き残りまだ若い命が失ったのだ。

 残された者としてこれ程までに生きていて悔しいと思ったことはないはずだ。


 ローレルはモルテに顔を向けると聞きたいことがあったと口を開いた。

「……アシュミストでも事件がありましたよね?」

「ネストレのことか?」

 ネストレはアシュミストの死神であったが6年前に人間を殺したことで堕ちた死神となり大虐殺を行った。

「私の弟子、ネストレがとんでもないことをしてしまい申し訳ございません」

「いや、あれは私達の責任だ。ネストレの様子を悟ることが出来なかった。今でも何故かは分かっていない」

「……そうですか」

 気づかうモルテだがローレルは己の弟子がしたことだからとさらに尋ねる。

「事件はこちらでも把握しています。ですが当事者であるモルテ、あなたから全てを聞きたい。隠さず教えてくれますか?」

「いいのか?」

「お願いします」

 ローレルが頭を下げてまで頼んだことにモルテはアシュミスト大虐殺のことを全て話した。


 多くの家族と人間と死神が犠牲になったこと、ネストレが最後に襲った家でモルテが殺して終止符を打ったこと。そして、唯一の生存者となったミクを引き取り今は死神の弟子として、年頃の少女として学園に通わせていることを。


 その全てを話す中でローレルは静かに頷いて聞いた。

 そして、終わった頃に口を開いた。

「そうですか……お陰で今まで溜めていた胸のつっかえが消えました。ありがとうございます」

「礼はいい。私達が、いや、私がネストレをもっと見ていればこの様なことにはならなかったはずだ」

「いえ、ネストレが私の店を継がない意思を示した時に私も把握しておくべきでした。アシュミストに住まう者達に取り返しのつかないことを……師として情けない……」

 握る拳に力が入るがローレルは構わず握り締める。

(いつの時代もほんの小さな出来事にそこにある物は崩れてしまうものだな)

 モルテは懐から懐中時計を取ると時間を確認した。

 時間は既に昼を過ぎていた。

「すみません、取り乱してしまいました」

「いや構わん。こんな話をしたのだ。平常でいれるはずがなかろう」

「そう言われてはどちらが年長か分かりませんね」

 見た目が年若いモルテに諭されて苦笑いをしたローレルは静かに立ち上がった。


「さて、時間に気づかず申し訳ございません。せっかくお越しいただいたのだから昼食はこちらでお召し上がりください」

「いいのか?」

「ええ。寂しい一人暮らしですのでたまには話し相手を交えて食べたいものです」

「そうか。ならばそうさせてもらおう。ディオスもいいな?」

「はい」

 こうしてモルテとディオスはローレルの家で昼食を頂くこととなった。

「それでは今作りますね」

「手伝おう。ディオスは……そこにいても構わん」

「えっ!?いや、俺も……」

「運ぶ時に呼ぶからそれまでゆっくりしていろ」

「……はい」

 まだ料理が不得意なディオスは完全に外されたことでしょんぼりする。

「お客に手伝ってもらうわけには……」

「昼食をご馳走される身だ。手伝いくらいさせろ」

「やれやれ」

 ローレルに無理を通して共にキッチンに入ったモルテをディオスは眺めていた。


 その時、視線を感じてディオスは窓へとゆっくり向けた。

 そしてそこにいたものにまた硬直することとなった。

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