閑話 情報収集へ
それは突然の来客だった。
「ファズマ!」
「リチア!?どうした?」
店の扉を勢いよく開けて息を上げながら入って来たリチアに店番をしていたファズマは驚きながら尋ねた。
「訪ね先の近くで、人が……」
「どうした?」
「自殺、したの……飛び降りて」
「どこでだ!」
「中央住宅街のペスコ通りで……」
興奮しているようで言葉が所々途切れたりかすれたりしているが言いたいことは分かった。人が死んだからそれを対処してほしいと言いに来たのだ。
「なるほどな。だがリチア……」
しかし、ファズマの表情は慌ててはいない。むしろ呆れた表情をしていた。
「それなら現地から電話をしろ」
「電話が近くになかったの……」
「近くで借りたらよかっただろう」
「あ……!」
「あ……!じゃねえ!」
近くにいたのに何故電話をしなかったのか問いただしながらどことなくデジャヴを感じるファズマ。
「だって、死んだ人が出たら店長かファズマに頼るしか……」
「俺の前に警察だろ!店長が聞いたら怒鳴られるけど!」
「それに急いで知らせないとって思って……」
「その間に誰かが警察に連絡をしているはずだから俺の出番はないと思うが?」
ガクリと肩を落とすリチア。残念ながらファズマが言った通りで既に現地では警察が現場検証を行っている頃であった。
「リチアお姉ーちゃん、どうしたの?」
そこにいつの間にいたのか、ミクがファズマに尋ねた。
「切羽詰まって気づくことができることを気づけずにへこんでいるだけだ」
「ふ~ん」
ファズマの言葉に納得するミク。
だが、リチアの話は気になる。こうも立て続けに飛び降りて自殺をすることが気になる。
「リチア、現場に案内しろ。ミク、しばらく店番を頼む」
「は~い」
ミクに店番を頼むとファズマは外出の準備と車の鍵を持つとリチアを連れて自殺があった現場へと向かった。
* * *
中央住宅街ペスコ通りソキラフアパート付近は騒然となっていた。
人が何の前触れもなく落ちてきたのだ。すぐにソキラフアパートから飛び降りて自殺をしたのだと分かった。何故ソキラフアパートから飛び降りたのか分かったかと言うと、付近で高い建物がそこしかないからだ。
だから場は騒然。生々しい傷に肉の塊。悲鳴が上がり興味心で近づいて見てみようとするそういった人達がいる中で冷静に対処をして現場を保存、周りの観覧者を遠ざけた上で遺体の状態を確認したのが二名いた。
「ご協力感謝します」
今は警察が現場検証をしている場で担当警部から感謝を述べられているアリアーナとアンナ。
「偶然近くにいただけです」
「そうそう。それに、誰かがが無意識に遺体に触ったりしたらここら辺を担当している葬儀屋店長の小言を聞かされるし」
「それは言わなくていいのよアンナ」
一言余計に話したアンナに注意を促すアリアーナ。
「それで、状況についてですが……」
二人のやり取りを無視して警部は事件発生時の状況についていくつか質問を始めた。
そんな中で二人はそろそろ解放してほしいと心の中で願っていた。
何故富裕街にチャフスキー葬儀商を構える店員がここにいるかと言うと、店主レオナルドの命で新聞に載っていたカリーナ・リダンについての情報収集を頼まれたからだ。
そんな中で今のところ手に入れた情報はカリーナが中央住宅街ペスコ通りの店で働き、近くに行きつけの店があることが分かっているだけ。
さっそく行きつけの店に向かおうとした矢先に飛び降り自殺。しかも、現場に居合わせてしまった。情報収集だけでも手一杯だったのにこの出来事。本当に、そろそろ解放してくださいと願う。
「アリアーナにアンナ?」
その時、二人に声をかける者がいた。
「何をしてんだ?」
ファズマであった。横には現場まで案内をしたリチアがいた。
「事情聴取よ」
「そりゃ何で?」
「現場を目撃したから」
「なるほどな」
二人の言葉に納得するファズマ。
「だが、それだけじゃねえだろ?」
だけではなかった。アリアーナとアンナが現場に居合わせたのは偶然だろうが、出てきた目的が別にあることを見抜いていた。
「まあそうなんだけど……それより何でここに?それにその子は?」
認めるアンナはファズマの横にいるリチアに気づいて尋ねた。
「リチアは俺の仲間だ。リチアがここで死人でたからどうにかしてくれと頼んで来たから来たんだ」
ファズマの説明にアリアーナとアンナは頷きながらここから脱出する方法を思い付いた。それは全く同じことである。
「警部さん」
アンナは笑みを浮かべてさっきまで自分達に事情聴取をしていた警部に語りかけた。
「多分だけどこの人も近くにいたと思うよ」
「そうなのかい?」
アンナの言葉を全て飲み込んでリチアを見た。
「悪いが当時の状況を知りたい。素直に答えてくれ」
「え!?」
「ああ、君達はもういいよ」
「ありがとうございます」
警部の視線がリチアに向いたのを気にアリアーナとアンナは離脱を始めた。。
「それじゃファズマ、後はよろしく」
「待ておいこら!」
最後にアンナはファズマに捨て台詞を吐いてアリアーナと共にその場を撤退した。
* * *
「それはまた……」
新住宅街ではオスローが今さっき聞いた情報に驚いて小さく呟いていた。
「まさか、父親が行方不明とは」
それはカリーナに関する情報であった。
「他にはありませんか?」
オスローは今回の情報源、世間話が好きな老婆に尋ねた。
「他かい?そういえば、マミューさん困っているって聞いたね」
「困っている、ですか?」
「なんでも、ここ最近、夜に出て行くから困るって言ってたね」
「夜、ですか?」
「そうだよ。まだ若いのに夜に出歩くのはもう少ししてからでもいいと思わないかい?」
「と、申しますと?」
「早く寝た方がいいってことだよ」
老婆がの言いたいことが分かり苦笑いを浮かべるオスロー。
話が脱線してしまってはいるがこれはこれで重要である。お陰で興味深い話を聞けた。決して無駄ではない。
「なるほど。おもしろいお話しありがとうございます」
オスローは老婆に一礼するとその場から離れた。
「さてと、時間までもう少し深追いでもしますかな?」
オスローがもう少しカリーナについての情報が欲しいと思っていた時だった。
「あれ?オスローさん?」
オスローに声をかけたのはアンナであった。
「アンナさんではありませんか」
「オスローさん久しぶりです」
「お久しぶりです。所でアリアーナさんは一緒ではないのですか?」
「アリアーナとは別行動中」
「そうですか」
「もしかして、オスローさんも?」
「も、と言うことはどうやら目的は同じようですね」
まさかの葬儀を生業とするトライヤー葬儀店の社員とチャフスキー葬儀商の店員が遭遇。しかも、目的がカリーナの情報収集とこれまた同じ。
「どうですか?ここで情報交換でも?」
オスローの申し出に頷くアンナ。
オスローは今さっき手に入れた情報を話した。
「こっちは、二週間くらい前に怯えてたって聞いたよ」
次にアンナの番。
アンナはカリーナが行きつけで通っていた店から情報を聞き出した内容をオスローに言った。
「となると、そこが怪しいですね」
「だけど、これは多分目をつけられただけできっかけじゃないと思うよ」
オスローが目を付けて呟いた言葉にアンナが否定する。さすがにオスローはどうゆう意味かと尋ねる目線を向ける。
「と申しますと?」
「うまく言えないんだけど……」
オスローの言葉に腕を組み考え始めるアンナ。そんな時、
「見つけたぞ!アンナ!」
「ファズマ!?」
ファズマの突然の登場に驚くアンナ。
「ちょっと、どうしてここに!?」
「俺も情報収集でここに来たに決まってんだろ!」
「それにしては早すぎる!」
「車使ったからに決まってんだろ!」
「酷い!こっちは公共交通機関使って中央住宅街からここまで来たのに!」
「ひでぇのはそっちだろうが!人に警察の対応押し付けとんずらしやがっただろうが!」
「それは酷いですね」
ファズマとアンナの中央住宅街で起きた出来事の会話に状況は分からないがファズマに同意してつい言葉が漏れてしまったオスロー。
そのファズマはアンナとここにはいないアリアーナの行動に怒り心頭の様子で指を鳴らしていた。
「お陰で無駄な時間を取られたんだ。どぉう責任とってくれんだぁ?」
もはや先程よりも口調が悪くなっている。
「まあまあ、悪意があってやった訳ではないと思いますし、ここは穏便に」
アンナを睨み付けているファズマに落ち着くようにと促すオスロー。
オスローの言葉に仕方なく指を鳴らすのを止めるファズマ。目付きだけはどうにもならないがこれで少しは落ち着いた。
「あーー!!」
その時、突然アンナが叫びだした。
「うるせえ!!」
「ちょ、ちょ、ちょ、あれ!」
注意するファズマをよそにアンナは慌てた様子でとある方向に指差した。その指された方向を目で追い、それを見たファズマとオスローは絶句した。
「なっ……」
「何やってんだあいつは!」
それは、今まさに高い建物から飛び降りようとする人物がいた。
「とにかく止めます!ファズマ君、アンナさん、手伝ってください!」
「言われるまでもねえ!」
「これ以上犠牲者が出てたまるものかぁぁ!!」
オスローの言葉を合図に建物へと駆け出す三人。
その後、ファズマ、オスロー、アンナが急いで建物の屋上へと突っ込み力ずくで飛び降りようとした者を力ずくで阻止。気絶をしていたと称して車でハイネロテ病院まで搬送、保護してもらった後、三人はそれぞれ手に入れた情報を交換してそれそれの店へと帰って行った。
本編の背後ではこのようなことがありました。




