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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
11章 変動の鼓動
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予想外の再会 その1

 ガイウスが領域の連絡で指定した「黄金の鐘」はヘルミアの高級街にある最も格式がある宿。宿泊費は当然目を見張るほど高額で泊まれる客など一握りしかいない。

 そんな場所を何故指定したのか分からないモルテは呆れた眼差しで入口から宿全体を見渡す。

「まったく、何をしでかしたんだ……」

 呼ぶなら身の回りのことをする為に付いて来たオスローを呼べとかどうして自分を呼ぶのだと心の中であれこれとブツブツ呟いて、肩に重りが乗った気分で黄金の鐘へと入って行く。


 黄金の鐘のロビーはこじんまりとしていたが、年月と高級品を思わせる装飾品があちこちに置かれている。

 いかにも格式ある宿を思わせるが、モルテからしたら置きすぎるのではと思ってしまう。

 そんなどうでもいいことを思っていると、モルテに気がついたフロントスタッフが声をかけてきた。

「ようこそ黄金の鐘へ。如何致しましたでしょうか?」

「知り合いからここに来るようにと伝えられたのだが」

「こちらに宿泊されているお客様でしょうか?」

「いや。黒髪の男だが見ていないか?」

 ガイウスの特徴を言うとフロントスタッフは考え込み始めた。

「黒髪ですか?……お尋ねいたしますが、モルテ様でしょうか?」

「そうだ」

「でしたらご案内致します。こちらへどうぞ」

 まさかフロントスタッフに名前を知られていると思っていなかったモルテは驚いたが、それでもガイウスの元へ行けるのならと考えず付いて行く。



 案内された場所はロビーから近い場所にあり、フロントスタッフは扉を躊躇いなくノックした。

「お客様をお連れ致しました」

「お通しください」

 扉の奥から聞こえてきた声にモルテは首を傾げた。

 休憩をする様な個室を感じさせる扉にガイウスが何故いる必要があるのかと疑問に思っていると中年を思わせる女の声に疑問が膨れ上がる。

 そんな疑問をよそにフロントスタッフが既に扉を開けて頭を下げてモルテが部屋に入るのを待っていた。

 どうせ中に入らなければ全て分からないと考えることを放棄して部屋に入ったモルテは、扉が閉まる音と同時に状況が読み取ることが出来ず一瞬混乱する。

 部屋は脚の低いテーブルを挟むようにして長いソファーが2つ。

 1つにガイウスが待っていたとばかりに手を振るが、向かいのソファーには中年の男女と若いを僅かに過ぎた男が座り、そこを執事服やメイド服を着た男女が囲んでいた。


 どういう状況なのかと更に分からなくなり疑問が深くなったことで頭を抱えたくなる気持ちを堪えてモルテはガイウスが座っているソファーに近寄った。

「おぉ~うモルテ~、待ってたぞぉ~」

「これはどういうことだ?」

「予想外の再会ってとっころだぁな」

 ようやく助けが来たと喜ぶガイウスとは対称に面倒ごとに巻き込ませてと睨むモルテ。

 そんな2人をよそに女が咳払いをした。

「ガイウス、その様な口調は直しなさいと先程から申しているはずです」

「こっれはぁ癖だから無理だなぁ~」

 女の咎める言葉にヘラヘラと笑ってガイウスはかわす。

「それに、あなたが男を好きになっていたとは思っていませんでした」

「おおぉい、モルテはこっんな成りだがぁ~れぇきとしったぁ女だぞぉ~」

 その言葉には先程まで鋭い目付きをしていた女の表情が驚きへと変わり2人の男と共にモルテを見る。執事やメイドの数人の視線も感じたが、モルテは状況から1つの結論を出す。

「成る程、ガイウスの家族と言うわけか」

「話が早くて助かります。どうぞお座りください」

 ガイウスの母親が肯定を示して座るように促したことでモルテはガイウスと同じソファーに座る。

「私はそこの放浪息子の母、ナミアノ・シュインセル・フォン・ライハード。そして夫のセルファロス・アバイド・フォン・ライハード。そして息子のウェイバー・ユーシャス・フォン・ライハード。ガイウスの弟になります」

 家族の自己紹介をしたナミアノ。何事もなく名乗ったが、モルテは驚いて眉を引き上げた。

「ライハードにフォン……まさか、ガイウスがミゼリコルドの十大貴族の者とはな」

「むっかしのことだがなぁ~」

 予想外の事実に驚愕するモルテをガイウスは何とも思っわず上の空の様に言うと両親が鋭い目付きで睨んだ。


 ミゼリコルドは今では数少ない貴族社会の国である。

 その中でも10の貴族は王家と密な関係を築いており影響力が強い為に十大貴族と呼ばれている。

 十大貴族の歴史は古く、ミゼリコルド建国時、初代国王ハーマルド・ライッセル・セトバルド・ローサルド・エージェルを初期の頃から支え続けた貴族である。彼らはそれぞれが得意とする分野で戦乱と化していた祖国を復興させた。

 その功績から王家と密接となり、貴族内でも発言力がある為に無視出来なくなったのである。

 その内の1つがライハード家である。



 これは本当に面倒に巻き込まれたと理解したモルテはガイウスを睨み付けると今までの話の断片を組み合わせてこれであろうという予想を言う。

「つまり、ガイウスは家を飛び出したと言うことか」

「はい。まさか15年も行方をくらますとは思っていませんでしたが、昨日新たな教皇に見つかるように祈ってもらったかいがあります」

 ガイウスに尋ねたはずなのにナミアノが何故か答えた。しかし、教皇にまでガイウスが見つかるように祈ってもらうのは相当執着していたのだと考える。

 しかし、ガイウスが待ったをかける。

「おぉ~い、俺は家出って行く時~に家督はウェイバーに譲るぅ~って手紙置いたっだろぉ~?」

「あんなもの聞き入れられるはずありません!」

「ガイウス、お前は何故そこまで拒絶する?」

「そ~りゃウェイバーがふっさわしいからに決まってるだろぉ~?」

「私は兄の方が相応しいと思っております。何とぞお戻りください」

 家族総出による説得にガイウスは呆れた様子を浮かべて額に手を当てた。

 どうやらガイウスなりに考えて継ぎたくないというよりは放棄したが家族がそれを受け入れないらしい。

 だが、ここでガイウスも引くわけがない。

「あっのなぁ~、俺以上に出来るウェイバーが家督を継っぐぅのが当然だろうよぉ~。そぉれともぉ、親父は長男だからって理由で継がせたいのかぁ?」

「そうだ」

「はっ!話しにならねえなぁ!」

「ガイウス!」

「ウェイバーもウェイバーだぜぇ~、親父やお袋に言っわれるまぁんまでよぉ~」

「言われているからではありません!家督を継ぐ兄を支えるのが弟である私が出来ることだからです」

「くだらない」

 完全に話が平行線になった時、モルテが水を指した瞬間、場の雰囲気が崩れた。

「そんな話をする為に私を呼んだのかガイウス?家族と話すのなら私は必要ないはずだ。先に帰らせてもらう」

 これ以上付き合うつもりがないと立ち上がるモルテをナミアノが止めた。

「申し訳ありませんが貴女にも用件がございます。ガイウスと別れてください」

「は?」

 ナミアノは一体何を言っているのかと動きを止めて目を丸くする。

「貴女はガイウスとお付き合いをしているようですね。ですが、ガイウスには婚約者がいます。その方の為にどうかお別れください」

 ナミアノが何を言っているのかとそれで理解したモルテはガイウスに目だけを向けて睨み付けた。

 初めから巻き込む気でいるつもりは分かっていたが取り返しの付かない所まで巻き込ませているとは思っていなかったのだ。

「それに、貴方のような女性としての品格を無くした方よりもおしとやかな方がずっとよろしい」

 モルテを始めて見たナミアノの感想が包み隠さず暴露される。


 これにはさすがにモルテは……怒ることなく不敵な笑みを浮かべた。

「最高の誉め言葉だ」

 これにはナミアノの失言で怒るだろうと思っていたセルファロスとウェイバーだが、モルテの予想外の反応に戸惑う。

 モルテはまたソファーに座るとナミアノを正面に見据えて話始めた。

「だが、今のガイウスにおしとやかな女はどうかと思うが?」

「どういうことでしょうか?」

「そのままだ。私からも言わせてもらうがおしとやかなだけではガイウスの性格には耐えられんぞ」

「そんなもの、一つになれば何とでもなります」

「関係は築ける、か」

「そうです」

「……傲慢だな」

 ナミアノと対話をして分かったが、どうやら聞く耳がないと話を勝手に終わらせると改めて立ち上がった。

「帰るぞガイウス」

「おう」

「どこに行くというのですか!?」

「自分の意見を曲げない親元の手が届かない場所にだ」

「そうはさせません!」

 話しは決裂とモルテとガイウスが立ち去ろうとするのをナミアノが周りにいる執事達に慌てて声をかける。

「ガイウスを捕まえなさい!」

 その言葉に場が緊迫なものへとなる。

「息子に対して捕まえるとはどうなんだ?」

「いぃ~つもこぉ~んな感じだが?」

「ないだろ?」

 ガイウスの家族がしでかしたことに疑問を感じるモルテだが、これでこちらも気兼ねなくやれると微笑む。


 だが、モルテは理解していなかった。それがどれだけ甘いことかを。

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