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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
11章 変動の鼓動
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宴後の朝

 翌朝。

 早朝からサンタリアへ入る門の前には昨日以上の行列が出来ていた。

 その理由は新たな教皇が就任した知らせを聞いた近郊の者や観光客が朝の礼拝で一目見られると考え並んでいる。

 最も、昨日の就任時の御披露目を見ることが出来なかったということもあるが、教皇が朝の礼拝に出席するのは体調不良や視察、長期の行事以外出ることが決まっているようなものであるために無駄足というわけではない。


 そんな長蛇の列に物好きで並ぶ死神がいた。

「そ~れじゃ、こっこまででぇいいなぁ~?」

「ええ、ありがとう」

 サナリアのお礼を聞いたガイウスはすぐに朝の散歩の続きと街の方へ歩いて行ってしまった。


 昨晩の宴は色々あって太陽が昇る直前まで続いた。

 そうなると宴の間や終わった直後に脱落者がいるというものだ。二日酔いに苦しんで脱落するというものに。

 一部の死神はそうなる前に離脱したり明日の用事があるからと早々に退出したが、限度を知らず勢いや悪乗りで続けた死神は天秤の杯の店内で転がることとなった。

 これを危惧していたリーシャが前以て二日酔いに効く薬を余分に買いだめしていたおかげで全員に行き渡ったが、ここで予想外があった。

 予想していた以上の死神が店に残ったことで朝食を作るには材料が少ないということだ。

 それを知った死神達はそれくらいなら気にしないとか別の店で食べるからとリーシャを気遣ったのだが、店の店主であるリーシャがそれを許すはずがなければプライドに関わると猛反発。

 よって、買い出しとその間に店内の掃除を脱落することがなかった死神がやることになったのである。


 そして、何故ガイウスとサナリアがサンタリアの正門にいたかというと、サナリアが前々からサンタリアを観光したいからと天秤の杯での朝食を辞退して列に並び、ガイウスは買い出しや片付けが苦手だからとオスローに押し付けて朝の散歩がてらサナリアを送って行ったのである。



 サナリアと別れて数分後。

「お~い~」

「その妙な間延びした声は……ガイウス、だったか?」

「おぉう、そうだ」

 道なりに進むと早朝だというのにメサが露店を出して商売をしていた。

「どうした?」

「みっかけたからぁ~声かけただけだぁ~」

「そうか。なら何か買っていけ?」

「そっこでそうなるかぁ~?」

「客寄せにはなるだろ?」

「サクラかぁ~?」

「客に進めているだけだ」

 ああ言えばこう言うの繰り返しに苦笑いをしながらもメサがどの様な土産物を売っているのか気になって見ようとした時だった。

「もし、貴方はもしや……」

 ガイウスの背後から誰かが語りかけてきた。

(こっの声はぁ~……まっさかなぁ~)

 しかし、ガイウスは振り返ることが出来ずどうしようかと考えて硬直した。



  ◆



 その頃、天秤の杯では買い出し組が随分前に戻って来た事もあって朝食が出来上がろうとしていた。

「もう少しで出来るみたいだな」

「間に合ってよかったぁ~」

 ファビオの言葉にラウラがカウンターにぐったりと倒れ込む。

「も~、お姉さんに朝からこんな無茶させないで欲しいわよ~」

「何言っている?こっちはおばさんなんだからそう言うものではない」

 ラウラの言葉に反論するエステルだが、何故かエステルもカウンターに倒れ込んでいた。

 そんな師とエステルの様子にハロルドは呆れていた。

「何言っているんだ……」

 見てて醜いと言うよりはどうしようもなく駄目な人間に映ってしまい仕方がない。

「まあ、あの二人が言うことは分からなくもないけど」

 だらけきってしまっている2人の気持ちが分かると言うアルフレッドの言葉にハロルドは驚愕した。

「どうして!?」

「それは中が散らかっていたことと二日酔いで倒れていた者が邪魔だったからだな」

 アルフレッドが説明をしながらも指差した一角には少し前まで二日酔いで倒れ込んでいた死神が椅子に座って呻いていふ様子であった。


 掃除が思ったよりも大変だったのは店内が散らかっていたことに加えて二日酔いの死神が床に転がっていたことだ。

 掃除の邪魔だからと蹴飛ばしたりして退かしていたのだが、それが思った以上の重労働になったのである。


 店内にあるテーブルを拭き終えたオスローは窓の外を見た。

「帰って来ませんね」

「ガイウスか?」

「はい」

 ガイウスの執事であるオスローの言葉にモルテは同じ様に窓の外を見て言う。

「気にする必要はないだろう。迷ったのなら領域を使って戻って来るはずだ。帰ってこないのは時間を忘れているからだろう」

「それならよろしいのですが……」

 ガイウスが戻ってこないことを心配するオスローに対して全く気にしていないモルテ。

 死神だから戻って来れる手段はいくつもある。それに、ゴルフクラブをまだ新しく買っていない為に破壊活動がないことの方が安心であるのが本音である。


 もうそろそろ朝食という時に領域による連絡がモルテに入った。

『モルテ~きっこえるかぁ~』

「ガイウスか?何故領域で連絡を寄越した?」

 ガイウスの名前を出したことで近くにいたオスローが驚いた様子を浮かべたがモルテは気づかずに話を続ける。

『ちぃ~とやっかいなトラブルに巻き込まれてなぁ~、たっすけてくれないかぁ~』

「断る。他を当たれ」

『モルテじゃねえと無理なんだよなぁ~。頼むよぉ~』

「だから他を当たれ」

『場所は「黄金の鐘」だぁ~待ってるぞぉ~』

「待て!黄金の鐘だと!?ガイウス……おい!」

 一方的に助けを求めて話を終らせたガイウス。

 だが、ガイウスの話しに聞き捨てることが出来ない場所があることに唇を噛み締めるモルテとその様子に気がついた数名の死神。

「一体何に巻き込まれた……」

「どうしたモルテ?」

 気になって尋ねたレナードだがモルテは考え込んでしまい耳に入っていない。

 それから数秒後、

「レナード、私に変わってディオスに荷物をまとめるように連絡をいれてくれ」

「は?」

「私はガイウスを連れ帰って来る。リーシャ、私とガイウスの朝食を抜かしてくれ」

「えっ!?ちょっと!?」

 一方的に要求を言ってモルテは速足で他の死神に何かを言うことなく天秤の杯から出て行った。

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