帰れない理由
遅くなってスミマセン。
奇跡的に60人以上が同じ言葉で声を揃えるという現象が起きたが、その内の何人かがモルテの言葉の意図を察してか顔をしかめていた。それがレナードとダーンである。
2人は難しい表情を浮かべていたがもしやと思い理由の一片に触れる。
「まさか、悪魔囲いか?」
「悪魔囲いがどうかしたのか?」
ダーンの言葉に要領を掴めない死神達が多数いる中で数名の死神が理解していき次第に表情が強張る。
この様子にモルテが隠してもどのみち知られることと先程以上の衝撃を告白する。
「悪魔囲いに死神が関わっている可能性が出てきたのだ」
瞬間、意味を理解していなかった死神達が硬直して沈黙する。そして……
「あり得ないだろ!」
「何でそんなこと言うんだ!」
「絶対にないはずだ!」
「根拠はあるのか!」
徐々に状況を理解し始めた死神の一部から追及の為のヤジが飛ぶ。
これでは他の死神までもがヤジを飛ばすと見た七人の死神は死神であるラルクラスとの話を全て明かした。
◆
それはまだ七人の死神が教皇選挙期間でサンタリアのエクレシア大聖堂、死神の区画にいる時のこと。
突然のラルクラスの招集に何かと思いながら集い、そしてラルクラスが口を開いた。
「今回の悪魔の行動をどう思う?」
「どうって、用意周到だった気がします」
「確かにな。悪魔なら長い年月かけてやることが出来るからな」
ラルクラスの言葉に真っ先に答えたのはオティエノとファビオ。悪魔の気長な執着力は侮れないと一致する。
「それに、天族の結界も完全でないということを改めて実感させられた。魔王や悪魔が結界内に潜み続けていたら見つけるのは大変なはずだ」
「天族は見つけ出すことが出来なかったのか?」
「範囲外だったらしい。だが、今回の一件も天族にとっては見捨てがたいことだ。何らかの対応はするはずだ」
予想外の結界の欠点を上げたアルフレッドとハロルドにラルクラスはまだ直接聞いたわけではないがこれからの天族の動きを予想して言う。
「あとは悪魔囲いですね。外にいた死神はあれに手こずったと聞いています」
「そうだな」
今回において死神とヘルミア双方にとって最大の予想外であった悪魔囲いをアイオラが言及したことでラルクラスの表情が一段と険しくなる。
「ラルクラス、遠回しに言うのはよせ。言いたいことがあるのならハッキリと言え」
ラルクラスが何か言うことを避けていることに気がついたモルテが思いっきり踏み込んで促す。
さすがにモルテがラルクラスに敬語を使わず話すことに七人の死神は慣れてしまっていたが、予想以上の踏み込みに戸惑う。
そして、ラルクラスは深く深呼吸をすると本題をようやく口にし始めた。
「悪魔囲いに新たなことが分かった」
「本当ですか!?」
「ああ」
悪魔囲いは悪魔が初めて作り出した結界の類い。その新事実は何かと食い付く領域使い2人だが、甘くはなかった。
「悪魔囲いに死神の領域といくつもの類似が見つかった。恐らく、死神が裏切り手を貸している可能性がある」
その瞬間、七人の死神が動揺する。
「……本当、なのですか?」
「悪魔囲いを調べたレナードと壊す道具を作ったダーンの話しでは領域と似ている部分が目を瞑るにはあまりにも多いらしい。現に道具も領域を壊すことが出来ると言っていた」
「嘘だろ!?」
予想していなかった事実にしばらく動揺し続けたがすぐに冷静になって考え始める。
「仮に死神が手を貸しているとするなら、その死神は悪魔になっている可能性もあるということですか?」
「……そうだな。死神も人間だ。絶望をすればなることもある」
「あるということはなった死神がいるのですね」
「過去に何度かだが」
ヤードの問い掛けに苦渋の表情を浮かべ続けるラルクラス。
ラルクラスもコルクスや天族から聞いただけでしか知らないが自分の代にまさか悪魔化した死神が表に現れるとは思っていなかった。
「それで、私達に何をしろと?」
最悪の、けれどもその可能性が高いことは分かったが、ラルクラスが七人の死神を招集にしてまで話した意図が分からずモルテがためらいなく尋ねた。
「……教皇選挙が終了後、皆にはそれぞれの出身国で悪魔と生霊の被害が増え続けている場所に行き悪魔化した死神の有無を確認してきてもらいたい」
「それって……」
「これは死神の命だ!そして、幾人かの死神、並びに現地の死神にも協力を要請するものとする!」
滅多にないと言われる死神命令に背筋を凍らせる七人の死神。それも別の意味で。
「つまり、教皇選挙が終わっても私達は帰れないのですね……」
ヤードの虚しい呟きに七人の死神の6人が一斉にモルテを恨めしそうに見た。
◆
「なるほどな。だから住んでる場所に帰れないのか」
一通りの話を聞いてまだ混乱しているとはいえ、理解した死神達もいることでようやく考え始めた。
「もしかしたら俺達にも死神からの命令で動かないといけないかもしれないってことか」
「そうだ」
「それはそれで面白そうだな」
「遊びじゃないのよ!それに見捨てることが出来ないのもあるでしょ!」
各々が呟いていたが分かっているとばかりにまた場が静まり返る。
「本当に裏切りがいると思うか?」
「悪魔囲いが領域に近い以上はいると思うべきだ」
「だが、実際に見つけてたらどうするんだ?」
「悪魔になっているのなら刈るしかないだろう」
「やっぱりそうなるか」
モルテとレナードの躊躇ない発言に複雑な心境に陥る死神達。
そこにパーーンと大きな音が響いた。
何かと思い全員が視線を向けると、オウガストが手を叩いた直後のままでいた。
「何を意気消沈させている?死神に呼ばれたらその時はその時だ。それに、今が何をしているか忘れてないか?」
「何って……あ!」
オウガストの言葉に殆どの死神が何故この場にいるのかと忘れていた。
「せっかくの祝いの場だ。不吉なことは今は忘れて楽しむはずだ!」
「そうだな!」
「おう!酒のおかわりあるか?」
「あと料理も?」
オウガストの言葉を切っ掛けに場の雰囲気が変わりだす。
暗くなっていた雰囲気に酒に料理と手が伸び徐々に明るくなっていく。
「まったく、酒や料理には敵わないということか」
「ですがオウガストさんの言葉も一理あります。今は楽しみましょう」
呆れるモルテにアイオラが苦笑いをしながら促す。
「それにしても、何で七人の死神が帰れないってなったんだろう?」
「そんなの決まっているだろ?」
ベルモットの疑問にジョルジュが分かりきっていると言う。
その言葉に多くの死神がモルテを無言で見る。
そのあからさまな視線に加えて酒を飲んだことでの悪乗りにモルテは怒りを僅かに爆発させる。
「貴様ら……」
その瞬間、場が一瞬凍りついた。
ちなみに、唯一の人間であり死神が嫌いなはずのディオスはというと……
(……終わった?)
死神の話だからと気を使わせて部屋の隅で静かに食事を取っていた。




