新な教皇
大司祭が訪れてから15分程が経った頃、部屋に突然レナードが現れた。
「待たせたな」
「遅いぞレナード」
「これでも急いだ方だ」
「まあまあ」
現れるなりモルテから文句を言われるレナードだがアイオラが仲裁する。
現状死神で唯一天族が張る結界をものとせず行来出来るレナードは何故かアシュミストに戻った筈のディオスを連れて部屋へと訪れたのだ。
当のディオスはまたエクレシア大聖堂、それも死神の元へ連れて来られた理由が分からず戸惑っている。
「あの……どうしてまた……」
「説明は準備をしながら話す。アイオラ」
「ええ」
レナードによって拉致同然の如くアシュミストからヘルミアを経由してエクレシア大聖堂へ連れて来られてすぐに、何故か僅かに装飾が異なる黒いドレスを着たモルテとアイオラによって隣の部屋へ連行される。
「ええぇ!?だ、だから説明を……」
「するから喚くな」
「ごめんねディオス君。時間がないから大人しくしてて」
「じ、時間って?って、服は脱ぎますから勝手に脱がさないでください!それと見ないでくださいーー!」
隣部屋の扉が閉まるった直後に聞こえたディオスの叫びに残された男衆は苦笑いを浮かべた。
「時間がないからって、強引だな」
「どんまい」
現在置かれているディオスの状況を思いながら憐れみを抱く。
「それじゃ俺は行くぞ」
「ああ。後でな」
そう言ってレナードは頼まれたことが終わったからと領域を使って部屋から消えた。
それから数分後……
「終わったぞ」
部屋からモルテとアイオラ、そして七人の死神以上にぐったりした様子の正装姿のディオスが出て来た。
そのあまりにもぐったりした様子に心配になる。
「おい、今からそんな顔して大丈夫か?」
「大丈夫って言うよりも短時間で準備させられた方が……」
ディオスが何を言いたいのか分かり全員が納得する。
正装とはいえ着替えるまでに時間がかかる。それを数分で、しかも女性二人が手伝ったとなると羞恥心とかそういった気持ちに傷がつく。まさしく今のディオスがそんな状態なのだ。
「それで、理由は聞きましたがどうして俺が?」
ディオスはこの話題を深く追求されたくないために話をエクレシア大聖堂に呼ばれた理由に変えた。
「心当たりあるだろ?」
「ないです」
アルフレッドの問いに即答したディオス。その反応に全員がモルテを見るが、モルテは諦めろと雰囲気で伝える。
ディオス本人に自覚はないが、死神、天眷者にとってしたら大きな働きをした人物と認識されている。
死神が悪魔に振り回される現状を打破したり天眷者にも悪魔の存在を認知させる切っ掛けを作ったりとしたのに心当たりがないというのはどうなのかと問い詰めたくなるのだが、ディオスとしては何となく外堀が埋まりつつあることを感じている。
と言うのも騒動終結後にレナードに連れられてアシュミストに帰ろうとした時、
「死神になるなら待っているぞ」
「何を仰いますか。天眷者としての素質もあります。なるなら天眷者です」
「それは今回の働きからだろう?なるなら死神だ」
「いえ天眷者です。天眷者になるのなら大歓迎です」
と、ラルクラスとヴァビルカ前教皇から勧誘された為に出来れば関わりたくないと思っていたのだ。
ディオスの無自覚に殆どが溜め息をつくと仕方がないと切り替える。
「行けば分かるが、新な教皇が聞いたら哀れだな」
新な教皇が是非にと呼んだのにこの事を知ったらとハイエントが未だに頭を抱える。
「さあ、ディオスの準備が済んだんだ。新な教皇を祝福しよう」
ラルクラスの掛け声にハイエントを覗く全員が移動を開始した。
◆
秘密の中庭では新な教皇が決まったことに合わせて枢機卿団が今かと待ち構える。
その様子を見られるテラスにラルクラス達は構えていた。
「直ってる……」
「そう言えばディオスは初めてか。ここはどんなに壊れてもすぐに直るんだ」
「それってもしかして……」
秘密の中庭が初めて見た時と同じことに驚くディオスだが、ファビオの言葉に天族でエクレシアのの管理者ケエルが関わっていることを悟る。
「それにしてもこんな場所に領域で飛ぶなんてな」
「ここに領域か自力で登る以外に辿り着くことが出来ない」
「つまり死神の為の場所ですか」
秘密の中庭にテラスがありその理由に納得するアルフレッドとアイオラ。
「……と動作は以上です。分からないところはありますか?」
「大丈夫です」
新な教皇が現れない時間をヤードがディオスに死神としての動作を教えていた。
ディオスも新な教皇を見る以上はしっかりすることと失礼がないようにとしっかり覚えた。
「そろそろ来る」
そこに魔眼で新な教皇の様子を見ていたオティエノが声をかけると全員が静かになった。
秘密の中庭をつなぐ扉が開いたことで出馬していた枢機卿が一斉に静かになった。
そして、そこから出て来た新な教皇にディオスは驚いた。
(あの人……)
新な教皇は白い祭服を着たまま祭壇に上がると前もっていたヴァビルカ前教皇に一礼した。
それが終わった時、テラスにいた死神側は一斉に膝まずく。
ヴァビルカ前教皇は新な教皇に向けて片手を上げて言葉を贈る。
「今より貴方は新たなロード教教皇として長きにわたる険しい道のりを歩むことになるでしょう。しかし忘れてはなりません。貴方には支える者がおります。そして我らが主を支える天族もおります。貴方は如何様な先導者になることを望みますか?」
ヴァビルカ前教皇の問いに決まっていると新な教皇は答えた。
「私は勇気を振るい鼓舞する者達を支え新たな未来へとつなぐことを望みます。それがヘイゼル・フロイエン・アンバルド改めアロイラインが教皇として望むことです」
接戦を繰り広げた教皇選挙で新たに選ばれた教皇はヘイゼルであった。
ヘイゼルが新たにアロイラインと教皇名で名乗ったことと答えに一つ頷いたヴァビルカ前教皇は近くに控えていた枢機卿の一人から箱を受け取るなり開けてアロイライン教皇へと向けた。
「貴方のお心よく分かりました。この指輪をお受け取りなさい。新な教皇よ」
ヴァビルカ前教皇に差し出された指輪をアロイライン教皇は先導者の証である「羊飼いの指輪」を右手人指し指にはめた。もう一つの「鳥の指輪」は後日作られてアロイラインがに届けられる。
「新な教皇を祝福してここに賛美を!」
ヴァビルカ前教皇の言葉に枢機卿団が一斉に立ち上がるとアロイライン教皇を祝福して讃美歌が唱えられた。
祝福の讚美歌はロードが故郷を思って称えた曲。
それは如何なる場所でも故郷とそこにある風景を忘れずにいる為に歌われた。
その歌は今、新な教皇が誕生日した時に歌われている。
伴奏がなくアカペラではあるが乱れることなく歌われていると、祭壇に光が射し込んだ。
ただ、天井にガラス窓や吹き抜けや照明器具はない。光が突然現れて射し込んでいるのだ。
その光から突如輝く翼と人の形をした天使が降臨してアロイライン教皇の頭上で止まった。
「まさかこれが……」
「驚いた……」
まさか天族が現れると思っていなかった七人の死神とユーグ、ディオスは驚いている。
その間にも天族は両手を広げるとアロイライン教皇を光に包み込んで加護を与えた。
「これがまさか……」
「そうだ」
何かを言おうとしたオティエノの遮りラルクラスが肯定する。
その間にも枢機卿団が唄う讃美歌が秘密の中庭に響き渡っていた。
さあ歌え、さあ歌え、我が祖国の我が故郷。
褒め称えよ、褒め称えよ、我が祖国の我が故郷。




