教皇選挙終了
悪魔の強襲から18日後、教皇選挙開始から24日が経過して最終日。
この日、エクレシア大聖堂から白い煙が上った。それは新な教皇が決まった知らせであり、それを広場から見た群衆は一斉に歓喜を上げた。
新な教皇が決まったのに合わせてラルクラス達は準備に追われていた。最も、準備とは言え身支度であるが。
「ようやく決まったか」
「ああ。長かった……」
管理者が結界を張り直したことにより悪魔の進入がなくなったとは言え、それでもエクレシア大聖堂にいなければならなかった七人の死神は僅かにぐったりしている。
おかげでハロルドとファビオのぼやきを切っ掛けにして他の七人の死神もぼやく。
「何もなく暇だったな」
「まあ、やることがなくなってしまいましたからね」
アイオラとファビオが何もすることがなくなった日を思い出して何とも言えない気持ちになる。
悪魔の強襲があった翌日から七人の死神はサンタリアに潜んでいた残党悪魔を全て刈り取り、また翌日からは各方面への説明や謝罪等を行い続けて8日後、教皇選挙14日目にはやることがなくなってしまったのである。
サンタリアを結界が覆っていることで七人の死神が本来やらなければならないことがなくなってしまったのだが、教皇選挙が終わるまでは滞在しないといけない為に暇となってしまったのだ。
「何でここまで長くなったんだろうな?」
「それはヴァビルカ教皇が辞任したからでしょう」
「それはそれだろう?まさか選挙がここまで長引くとは思わんかったぞ」
教皇選挙が最終日まで続いたその原因を話し合うモルテ、ハロルド、ヤードはようやく暇から解放される喜びよりも何故これほどまで続くことになったのか不思議に思う。
「そこはやっぱりモルテの問題体質じゃないか?」
「うるさい」
そこにアルフレッドが冗談で、けれどもあまりにも的確なことを言ったことでモルテに睨まれる。
「問題体質……もしかして数ヶ月滞在するっていうあれか?本当だったのか?」
「だからこうしてエクレシア大聖堂にいるんだろ?」
「それもそうか」
「貴様ら……刈るぞ!」
問題体質のことをあれこれ話すアルフレッドとファビオにモルテが鋭い目付きで睨んだことでこの話は終了した。
教皇選挙は7日目から大いに荒れた。と言うのもその一端を担ったのがヴァビルカ教皇の辞任である。
ヴァビルカ教皇が生存しているのならこのまま継続してもらおうと思っていた枢機卿団だが、当のヴァビルカ教皇は首を横に振ったのだ。
「お断りします。悪魔の進入を許しただけでなくこれ程の惨事を防げなかった私が何故教皇を続けなければならないのかの?」
と、責任を負うことで辞任すると言い出したのだ。
これに枢機卿団は引き留める為に必死に否定をしたのだが努力が届くことはなかった。
ヴァビルカ教皇はその日を持って辞任。持っていた「鳥の指輪」は今度こそ壊されたことで教皇でなくなった。
ただ、教皇が辞任すると教皇選挙が終わるまで与えられた部屋から出ることと他の者の接触を固く禁じられている。ヴァビルカ前教皇は世間やロード教内においても死去していることが伝えられている為にこのまま一室に閉じ込めることがよろしくなかった。
そこで教皇選挙が終わるまで死神が預かることになったのだが、これまで通りヴァビルカ前教皇はハイエントと共に姿をくらましてしまい現在どこにいるのか分かっていない。
「コルクス、ヴァビルカ教皇に新な教皇が決まったことを伝えてくれ」
『分かった』
ラルクラスの指示に窓枠に待機していたコルクスが黒い翼を羽ばたかせて何処かへと飛ぶ。
これでヴァビルカ前教皇に伝わるだろうが、そもそも何故ヴァビルカ前教皇がいなければならないだろうとぼやく死神はこの場にはいない。
全員がヴァビルカ前教皇の行動についての言及を半ば諦めているからだ。
「それにしても意外だったな」
「意外ってあれか?」
「ああ。まさか枢機卿があれほどヴァビルカ教皇の辞任を止めさせようとしているのが」
ヴァビルカ教皇の辞任発言に必死になって止めようとしていたことについて七人の死神はあまりにも不思議で仕方がなかった。
「ヴァビルカ教皇は慕われていたからな」
「何で慕われているのか分からないな……」
「狸だからな」
ラルクラスの思いもよらない発言にハロルドは頭を抱えた。
死神からは食えない教皇と認知されているヴァビルカ前教皇であるが、ロード教からは慕われていた。
ヴァビルカ前教皇の手腕はロード教を更に発展させて長年続いた戦争を終結させたと世間に認知されているがそれだけではない。
ヴァビルカ前教皇は意外にも枢機卿団以外の大司祭、司祭、助祭、さらには視察に赴いた先での聖職者と触れ合いの時間を長く持ちつつアドバイス等もしていたことで非常に親しみやすい印象を与えたのだ。
だが、死神には教皇就任直後の印象でのやり取りが強いことと手腕だけが知れ渡ったことで皮肉にも好印象を与えていない。
おかげで聖職者からは身近な教皇、死神からは食えない教皇と評価が二分したのだ。
「ですから私は狸という動物ではありませんよ」
そこに扉を開けてヴァビルカ前教皇とハイエントとコルクスが入って来た。
「ヴァビルカ教皇」
「ヴァビルカ前教皇ですよ。もう教皇ではありませんからの」
「どっちでもいい」
「いえ、よくないからの」
ヴァビルカ前教皇の耳にも先程の話が聞こえてたというのに全く気にしない七人の死神。
ヴァビルカ前教皇としては狸発言よりも呼び方に『前』が入っていない方が気になるのだが、これまた七人の死神が気にしないで使うために若干落ち込む。
「それにヴァビルカ教皇はまだやるべきことがあるから前なんて使えないですよ」
「そもそも本当の名前をしっかり覚えてない」
「そうですか……」
ファビオの発言にそれもそうかと思うが、次いで言われたハロルドの発言にまた落ち込む。
「そんなことよりも、何故教皇が決まるまでに時間がかかった?」
「それを私に言わないでもらいたいの?こればかりは出馬している枢機卿にあるのだからの」
教皇選挙があまりにも長すぎることに文句を言うモルテにヴァビルカ前教皇が何とか避けた。
教皇選挙は一部出馬した枢機卿の悪魔化と死去により数が減った。これによりすぐに決まると思っていたのだが、予想に反して教皇選挙も大いに荒れてしまった。
その理由は有力とされていた枢機卿の数が減ったからである。
これにより有力に近くてもどこか欠けていたりそもそも遠かった枢機卿も含まれたことで選挙争いが始まり投票が乱れたのだ。
これによって残った出馬の枢機卿の投票では決まることがなく、結局上位2名による投票で新な教皇が決まったのだ。
各々が今回の教皇選挙について思っていると突然扉が叩かれた。
何かとユーグはラルクラスと視線を会わせると扉を開けて叩いた者を中に入れた。
「どうぞ」
「失礼します」
入って来たのは枢機卿団に属する大司祭であった。
「どうかしたのか?」
「新な教皇より死神殿にどうしてもお頼みしたいことがあると伝えるように参りました」
「頼み?」
新な教皇が何かと疑問を抱くラルクラス。
そして、新な教皇からの伝言を伝えた大司祭の言葉にラルクラスは快く引き受けた。
さてさて、新な教皇は?そして伝言とは?
次回!




