秘密の中庭内での処理
遅くなって申し訳ないございません
全ての悪魔が死神と枢機卿によって全滅した秘密の中庭では事後処理として様々なことが行われていた。
「ヴァビルカ教皇、死神、此度のこと今一度詳しく教えいただけないでしょうか?」
ヘイゼルを初め教皇選挙に出馬、不出馬の枢機卿がヴァビルカ教皇とラルクラスに問い詰めている。
今日の教皇選挙は悪魔の襲撃によって中断しただけでなくそれによって枢機卿が数名亡くなっている。
過去に何度か悪魔がエクレシア大聖堂を襲撃して惨事に陥ったことが記録に残されているが、今回ほどの惨事は今までにない。
その為に枢機卿は全体の把握を知りたく必死であり、ラルクラスとヴァビルカ教皇もそれを知って覚悟していたのか淡々と話をする。
とはいえ、理解するかどうかは別であるが、ラルクラスは死神として死神を指揮する必要もある為に途中で抜け出してヴァビルカ教皇に任せるつもりである。
* * *
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
ディオスは目にした存在に悲鳴を上げてしまう。
「おぉ~い、静かにしよぉ~なぁ?」
「そうだな」
悲鳴を上げる原因となったガイウスとジェンソンは騒がしいなと思うがディオスはそれどころではなく、しかも目の焦点が合っていない。
「ななななな……何なんですかそれぇぇ!?」
よく見るとガイウスとジェンソンは無傷であるのに体の至るところが返り血で汚れている。一部を除いた死神や七人の死神も悪魔を刈り取る際に血が付着しているがそこに悲鳴を上げたのではない。
ガイウスが手にするゴルフクラブは血が滴り落ちてくの字に曲がっており、ジェンソンの死神の武器である釘バットは折れておらず刺さっている釘もそのまま、けれどもそれ以上に血が付着している。
何も知らなければ二人組の殺人鬼である。
「ほらそこ、手を休めないでください」
そこに完全に引いてしまっているディオスと疑問符を浮かべるガイウスとジェンソンにリーシャが声をかける。
「なあ、俺達もやらないと駄目なのか?」
「殆ど二人が刈ったんでしょ?」
「そ~んなに刈ってないがぁ~」
「おうよ。それか外に行かせてくれ」
ここで言う外とはエクレシア大聖堂の外、広場のことである。
ラルクラス達が動き出す直前に七人の死神が潜んでいた悪魔を刈り尽くしてはいたが不安があるからと司祭辺りに全てを押し付けていたのだ。
幸いと言っていいかヘルミアにいた死神が全力で抑えてくれたことと魔王サルガタナスが秘密の中庭内でしか悪魔を召喚しなかった為に大きな被害が出なかった。
とは言え、それは今のところはであり、もしかしたらまだ悪魔か潜んでいるかもと逃げるようにして外へ出たい所だが……
「嘘言うな!」
「このままじゃ終わらないんだから動いて!」
疲れているからやりたくないという表情を浮かべるガイウスとジェンソンだがオウガストとリーシャに説得されて渋々後片付けへと移る。
「あ、ディオス君は休憩してていいよ」
「でも……」
「こういう片付けは出来ないからいいの」
ケエルの加護以外何も力がないディオスは戦力外通告されている為に何もすることがなく困っている。
秘密の中庭に散乱した悪魔の遺体は今回の騒動の殆どを秘匿にしていた死神が責任を持って行うこととなってしまった。
ロード教は教皇選挙期間ということもあり一部の者以外の出入りが禁止されている。しかもこの件で例外は認められないからと目を付けたのが死神の特権である。
死神は事情によって教皇選挙期間中の出入りを禁止されていない。それも死神が承認をすれば七人の死神でも入れる。つまり、七人の死神でない死神も許可が降りれば入れるのだ。
よって死神が後片付けをする羽目となったのである。
人員はレナードがヘルミアまで飛んで死神を連れてくるというもの。
おかげで……
「何で俺もやらねえとならねんだ?」
「散々暴れたんでしょ?」
「ぐっ……年寄りを何だと……」
「ヴァビルカ教皇と遊んでたのよね?そんな元気があるのなら片付けも簡単でしょ?」
片付けの直前までヴァビルカ教皇に喧嘩を売っていたダーンがレナードによって連れてこられたベルモッドの眼光に文句を言いながら後片付けを行っていた。
* * *
「途中からだったがそんなことが……」
別の場所でさ七人の死神を相手にミゲルとエステルが今回の騒動について話をしていた。
「これは興味深い。もしかしたらこれから先も起こるかもしれないな」
「そんなのは懲り懲りだ」
新な歴史の幕開けに興奮する二人にハロルドが毒づく。
「けれど、モルテが戻って来ません」
アイオラの発言に全員が穴を見る。
「モルテは無事なんだよな?」
「ああ」
魔王サルガタナスを刈ったのはレナードといった領域使いから聞かされているが一行に穴からモルテが戻って来ない。
そこにディオスも近づくと穴を見た。
「店長……」
「怪我で動けないのかあるいは……」
あまりにも戻って来ないことに心配していると、突然目の前を黒い塊が穴から出てきた。
「えっ!?」
黒い塊は宙で一回転すると七人の死神の前に着地した。
「モルテ!」
「店長って、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
モルテの帰還に七人の死神が喜んだのも束の間、またディオスが叫んだ。
「うるさいぞ」
「な……何なんですかその格好!?」
咎めるモルテだがまたしてもディオスはそれどころではない。
モルテの格好はローブや服がボロボロで頭から足まで血塗られており赤黒く染まっていたのだ。完全にホラーである。
「返り血だ」
「どうやったらそんなに浴びるんですか!?」
あり得ないと叫ぶディオスだが七人の死神や死神はなんとも思っていないのか別のことに注目する。
「本当に魔王を一人で倒したんだな」
「言っただろう?私が刈ると」
「それでも強敵だったはずですが?」
「……まあ、強かったな」
「何だ今の間は?」
話は魔王サルガタナスについて。黒竜を倒すのに六人の七人の死神が苦労したのを魔王をモルテ一人で倒したのだ。
魔王に近い黒竜を六人、魔王を一人ではどれ程の苦難か想像出来るはずだ。
「ところでモルテ、怪我は?」
「怪我などどうでもいい!」
モルテの服装から心配してアイオラが言うが、何かに触れたのか突然モルテが不機嫌になる。
これには全員が何かと驚く。
「ど、どうしたんだモルテ?」
「決まっているだろ。前髪を切られた!」
モルテが言うとおり右目を隠していたはずの前髪が斜めにすっぱりと切られていた。
ちなみに、右目を覆っていた眼帯の代わりに今はローブの布で隠されている。
「そんな前髪くらいで……」
「よくない!」
「いやだって、前髪は……」
「いいはずないだろ!」
予想以上の拒絶反応に言及していたアルフレッドを含めて全員がモルテの前髪に触れるのはやめようと心に誓った。
その後、秘密の中庭は数時間をかけて綺麗に片付けられると簡単にではあるが今回の騒動で亡くなった枢機卿及び一般人に弔いの祈りが捧げられた。




