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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
10章 教皇選挙(後編)
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予想外の結末

 黒竜はまだ生きていた。意識を頭部にだけ集中させたことで力は削減しても意識だけは保っていた。

 七人の死神(デュアルヘヴン)は完全に刈ったと思っており生きているとは思っていない。見つけた死神デスは先程から様子を伺っていたようだが倒されたと見て違う場所を見たことで見つめられていることにも気が付いていない。

 黒竜は今ある力を振り絞ると頭だけで死神デス目掛けて突撃する。

「何!?」

「しまった!」

「まだ生きていた!?」

 黒竜の頭だけが動き出したことに七人の死神(デュアルヘヴン)は愕然するが誰も動くことが出来なかった。

 黒竜の頭の近くにいたアルフレッドとハロルドは足場がないために駆け出すことが出来ず、オティエノとファビオは不意打ちで気が付くのが遅れ、アイオラとヤードはブレスを全力で展開した領域で防いだことによる疲労で動きが鈍い。

 完全に6人の七人の死神(デュアルヘヴン)が対処出来ないタイミングに黒竜の頭が動き出したのだ。


死神デス!」

 七人の死神(デュアルヘヴン)の叫び声でユーグと話していたラルクラスは黒竜の頭だけがこちらに向かって来ていることを初めて知った。

 黒竜は気づかれても止まることはなく、これで死神デスを喰えると口を大きく開けた。

 驚愕するディオスやユーグの声、戸惑うヘイゼルの息遣い、息を飲む七人の死神(デュアルヘヴン)の緊迫感、それら全てを感じながらラルクラスはゆっくりと歩き出した。危機迫っているというのにその動きはラルクラスだけがスローモーションの様にである。

 緊張も緊迫も抱いていないラルクラスは歩んでいた足を止めると流れる動作で右手に死神デスを象徴するものを握りしめた。

 その途端、秘密の箱庭全体に今にも押し潰れそうな力の圧力が敵味方関係なく襲い掛かった。


  * * *


 モルテは叩きつけられた壁の欠片に埋もれていたがあっという間に出てくるなり魔王サルガタナスに鎌で斬りかかるがあっさり避けられるも懸命に食らい付く。

「無傷か?驚いた。今ので何ともないのか」

「負傷して欲しかったのか?」

「まさか。今ので負ったら面白くない!」

 些かおかしいとも思いならも魔王サルガタナスはモルテとの戦闘を楽しんでいた。

「それに、あの程度で貴様が動けぬとも思っていたからな!」

「それは光栄だな。こうしてまだ貴様を刈り取り続けられることが!」

 モルテが振るっていた鎌がついに魔王サルガタナスを捕らえ睨み合う。

「そうだな。そうしたいところだがここまでとしようではないか」

 そう言って魔王サルガタナスは左手が裂けた口でモルテを喰らおうと伸ばすが、気がついたモルテがとっさに後退したことで左手の口は悔しそうに歯ぎしりをする。


 魔王サルガタナスは先程放った暴食乱用(グラトニーアビュース)が不発に終わっただけでなくサンタリア上空にまで飛ばされていることを既に感じ取っていた。

 これ以上モルテとやりあっていたら七人の死神(デュアルヘヴン)に上が制圧されるだけでなく死神デスを殺すことが出来ない。そうなってしまえば長い時間をかけてようやく実現した死神デスを殺すチャンスがなくなってしまう。

 何としても殺すにはしつこく付きまとうモルテを倒さなければならないと喰らうことにしたのだ。


「初めて見るはずだが避けたか」

 完全に不意打ちであったはずなのに避けられたことに驚く魔王サルガタナス。

 だが、これで迂闊に近づかないだろうと思っていると、予想に反してモルテが急接近、そのまま鎌と左腕の攻防戦がまた始まった。

「この手を恐れないのか?」

「そんなもの喰われなければどうとでも思わんし何とでもなる」

 モルテにとって左手の口は恐怖ではないことを突きつけられる魔王サルガタナス。

「それなら喰われろ!」

 魔王サルガタナスは左手で鎌を掴んでそのまま強奪スナッチで存在ごと喰らおうとする。

 だが、モルテが咄嗟に鎌を消失させると左拳が魔王サルガタナスへと向けられる。

 しかし、二度も同じ手を食らうまいと魔王サルガタナスは体を捻らせて避けると、左腕を伸ばしてモルテが突き出した左腕を捕らえる。しかも、左手が完全にモルテに触れている。

「捕まえた!」

 これで勝ったと魔王サルガタナスはモルテを喰らいにかかった。

 だが、モルテは領域で強奪スナッチに対抗すると右手に鎌を握りしめて魔王サルガタナスの左腕を切り落とそうとせずに近づいて一閃する。

「くっ!」

 慌てて避けた魔王サルガタナスだが左腕でモルテを捕まえていることで防ぐことが出来ないばかりかそれをしていることで避ける動作に制限がかかってしまっていることで動きにくくなっている。

 仕方ないと魔王サルガタナスはモルテを捕まえていた左腕を解き放つが、それをモルテは狙っていた。

「はぁぁぁぁぁ!!」

 モルテが振るう鎌が魔王サルガタナスを左肩から胴体へと深く切り裂き今度こそ両腕を失った。

暴食乱舞(グラトニーロンド)!」

 だが、魔王サルガタナスは至近距離から力の帯を解き放った。

 力の帯はモルテを切り、貫いた。だが、その内の一本がモルテの眼帯を前髪ごと切り裂いた時、異変が起きた。

 魔王サルガタナスに強力な圧力がかかったのだ。

(何だ、これは……!?)

 強力な圧力の正体はあまりにも強力で膨大な力。その力に驚愕していると、気が付いた時には体が細かく切り裂かれていた。


  * * *


 圧力がかけられている中でラルクラスは手にした死神デスを象徴する大鎌、死神の鎌(デスサイズ)を振るった。

 直後、口を開けてラルクラスを喰らおうとしていたドラゴンの頭が四つに裂け、そのままラルクラスを通り越して床へと落ちた。

 ラルクラスが死神の鎌(デスサイズ)を納めると同時に秘密の箱庭全体にかかっていた圧力が嘘のように消え去った。

「す、すごい……」

「何、今の?」

「これが……死神デスの力……?」

「圧倒的じゃないか……」

 自分達が対峙しても鱗が硬く刈ることが困難であったドラゴンを正面から迎え撃ちたった一振りで鱗ごと切り裂いたラルクラスの実力に七人の死神(デュアルヘヴン)は脱帽する。

 ラルクラスは力の圧力に動きが止まってしまった死神と枢機卿に大声で叫んだ。

「何をしている!ドラゴンは刈られた!残すは悪魔のみ、一体も逃さずに刈り取れ!」

 ラルクラスの言葉に我に返った死神と枢機卿が近くにいた悪魔を捕らえ刈り始めた。

 秘密の箱庭の悪魔討伐はもう少しで終わろうとしていた。


  * * *


 モルテは細かな肉片が散らばる地面を歩くと器用に頭だけを残すことに専念するも動けなくなった魔王サルガタナスを見下ろした。

「粘ったな」

 床に転がった首から上の頭と成り果てた魔王サルガタナスは忌々しそうにモルテを見る。

「まさか、これほどの力を隠し持っていたとは……」

「死神は目が悪いわけでもないのになぜ眼鏡をかけたり隠したりするか最もな理由を知っているか?」

 モルテは知らないだろうなと思いながら魔王サルガタナスにその理由を言う。

「死神が強すぎる力を押さえ込む為だ。例えなくても抑え込むことは出来るが苦労するのだよ。だから死神の力が常に強い目を隠しことで力を抑え込んでいるのだ」

「はは……なるほど。つまり貴様はその目を眼帯で隠すことで抑え込んでいたのか」

「眼帯を切り裂いたのがお前の運の尽きだ。それに、眼帯がなければ先程のように力が膨れ上がるのでな。私とていきなり外されては力の抑制が上手くいかん」

 そう言うモルテは今も右目を閉じたままという徹底的である。それだけに力が膨大なのである。

 それを聞いた魔王サルガタナスは徐々に苦々しい表情を浮かべた。

「貴様は本当に何者だ?そうか、初めから気づくべきだったな。俺の攻撃をまるで知っているようであったこと。それにその力は……」

 魔王サルガタナスがいいかけたその時、モルテは鎌を振り下ろし命を刈った。

「それ以上は言わせん。他の魔王に知られる訳にいかないからな」

 もう聞こえない魔王サルガタナスに言うとモルテは深く深呼吸をすると深い思考に落ちる。

「今の私はただのモルテだ。エーラを旅する死神。それ以上でもそれ以下でもない。それが私だ」

 モルテは力を抑え込んだままゆっくり右目を開けた。その瞳は青く今のモルテとは真逆の優しさで輝いていた。

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