魔王の力
魔王サルガタナスは己に課せていた制限を解放した。それは目の前にいる強敵と定めた死神を葬る為に。
その死神、モルテは魔王サルガタナスが振るった腕によって出来た頬の傷から流れ出る血を拭うと目を離さず睨み付ける。
そして、魔王サルガタナスは解放した力をモルテへと放つ。
「喰らってやろう!喰らってやるぞ!暴食乱舞!」
魔王サルガタナスから現れた幾つもの力の帯は地面を喰らいながら直線上になって向かうが、モルテは素早く上空に逃げてこれを回避。
だが、そのまま直線に進むことなくまるでモルテの後を追うようにして曲がる。
モルテはそれが予想出来ていたのか驚く様子を見せず領域を足場にして回避行動を何度も取る。
「面倒だな」
思っていた以上に付いてくる力の帯にモルテは回避を止めて迎え撃った。
力の帯はモルテが振るった鎌によって呆気なく崩れたが、これを待っていたと魔王サルガタナスが叫ぶ。
「喰わせろ!」
モルテが止まった所に魔王サルガタナスは先程とは比べ物にならないほどの砲口を放った。
すかさずモルテは斬撃を飛ばして砲口を切り裂きそのまま魔王サルガタナスへと飛ばす。
だが、
「いっただきま~す!」
魔王サルガタナスは力で巨大な口を作ると本物の口と連動して斬撃を一口で喰らった。
「ふ~旨かった。それではまた暴食乱舞!」
好物を食べたようにして喜ぶ魔王サルガタナスはまた力の帯を放った。
だが、今度の暴食乱舞は数が多く力も何故か上昇している。
「喰らったか」
モルテは斬撃の力を自分の力を向上させた魔王サルガタナスを睨みながら力を高めた鎌を振るった。
「ほう」
一瞬にして見切ったモルテは真正面から迎え撃ちこれを全て切り裂く。
「驚いたな。今のを避けずに刈るか」
「あんな錆びたもの、避けるまでもない」
モルテからしたら力は強いが消して打ち消せないものではない。出来るからやったまでのと。
「ならば暴食乱舞!」
「それも刈り取れる!」
魔王サルガタナスが放った力の帯を切り裂こうとしたモルテ。だが、力の帯は軌道を変えてモルテから背後にある壁を喰らい始めており、徐々に空間が広くなっていく。
「まずい!」
それをする魔王サルガタナスの意図かモルテはいつの間にか叫ぶと大急ぎで力の帯を刈り始めた。
この上は秘密の箱庭で今も多くの人間がいる。これ以上空間が広がってしまえば東塔が陥落する。
いや、東塔が陥落するのが先かモルテが開けた穴がさらに広がって誰かが落ちて来るのが先かの時間の勝負も含まれていることに気付く。
「余所見はいけないな~」
こうした流になることを狙っていたという様子でタイミングを見計らった魔王サルガタナスが膨張させた左腕を思いっきり振り下ろした。
モルテは力の帯を刈る為に幾つもの斬撃を一瞬にして放ってからそのまま鎌で防御して膨張した左腕を受け止めた。
「まだ隠し玉を持っていたのか」
完全な不意討ちであった筈なのに防がれたとなると魔王サルガタナスはさらに力を解放する。
「それじゃ、この余計な力もらうか!」
モルテは急いで魔王サルガタナスから離れたが徐々に体に力が入らなくなるのを感じた。
モルテは逃げようとしたがいつの間にか魔王サルガタナスの手が鎌を掴んでおり逃げることが出来ず力を奪われていく。
「奪取……いや、強奪による強制摂取か……!」
魔王となった悪魔は本来あった領分の力がさらに強力なものとなる。
魔王サルガタナスの力が膨らみつつあるのは魔王としての特権を使ってモルテから力を奪っているからと分かる。
「どうだ、苦しいか?」
「……全くな」
勝ち誇る笑みを浮かべた魔王サルガタナスだが、モルテはそれに負けず、むしろ何も思っていないという様子で鎌を消して束縛から逃れると硬化していない無防備の腹に向けて回し蹴りを食らわせた。しかも、足には死神の力を纏わせている為に鋭い切れ味付きである。
よって、魔王サルガタナスの腹はザックリと切られ血が吹く。
「ぐっ!?」
たまらずモルテから遠ざかった魔王サルガタナス。傷は意外に深かったがすぐに力を使って塞ぐ。
まさかの反撃に頭に血が上るが、突如あることに気がつき一気に下がる。
「貴様……何故気づかなかった。強奪を何故知っている?」
「知っていたら悪いか?」
強奪は物欲の魔王にしか出来ない領分。それを知っている死神はそういない筈なのにモルテは知っていた。モルテがそこら辺にいる死神でないことに気がついたのだ。
「何者だ貴様は?」
「私はモルテだ。モルテ・アストロ・ケセド。<悪魔殺し>の異名を持ち、魔王サルガタナスを刈る死神だ」
モルテは鎌を構えて魔王サルガタナスを睨み付ける。
その素直なまでの宣言に魔王サルガタナスは笑い出す。
「ははははは!これはいい!こんな死神は初めてだ!それならこれはどうだ?」
喜びを抱いたまま魔王サルガタナスは左腕を上へと向けた。




