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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
10章 教皇選挙(後編)
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力の制限

 その頃、秘密の中庭に出来た穴の底では悪魔が潜む為に創った空間でモルテと魔王サルガタナスが戦いを繰り広げていた。


 悪魔が潜む為にと言うが狭くはなくむしろかなり広い。その広さは東塔がすっぽり入ってしまいそうな広さであり、まるで長い年月をかけて地下を広げたと思われる。しかも、上を見上げても秘密の中庭を照らしている明かりが見えないこともあってかなり深い場所にある。

 まるで数が多く巨大な悪魔、例えるなら魔王サルガタナスが召喚した黒竜が潜んでも問題ない広さと高さを兼ね備えた潜む為の空間。

 地下深くにあった為に天眷者では気づくことが出来ず、管理者ケエルも異常を感じても見つけ出すことが出来なかった場所である。

 そんな場所をよくモルテが鎌を振り下ろしただけで出来た穴で繋ぐことが出来たと思われる。

 しかし、そのお陰でモルテは魔王サルガタナスを引き込んで誰の邪魔を受けるとなく一対一で対立しあうことが出来ている。


 モルテと魔王サルガタナスは地下空間で領域と瞬間移動を使い不規則に消えたり出現を繰り広げながら鎌と腕をぶつけていた。

「驚いた。これ程粘る死神がいるとはな」

「減らず口を!」

「驚いているし誉めているんだ。喜んだらどうだ?」

「嬉しいわけあるか!」

 高速で振るわれていく鎌と腕だが両者の攻撃は全て防がれておりどちらも致命傷を負っていないばかりか怪我一つ負っていない。

「しかし久しく感じていない刺激だ。ここまで俺を追い込んだのは人間の街を下の悪魔を引き連れて襲った際に一人で俺を刈りに来た死神以来だな。それと匹敵……いや、それ以上か?」

「貴様……」

 当時のことを持ち出されては当事者であったモルテが大人しくしていられるはずがない。


 大勢の住人と同胞の死神が死んだ出来事は世間では他国にそそのかされて起こした反乱軍の事件として片付けられている。

 当時の世界状況は不安定で戦争や反乱が平然と行われていたから他国が原因と言われても正面から対立しない限りは問題がなく使われていた。国民の不安を減らしたり煽ったりする為に許可なく使われている辺り当時は相当世界が混沌としていることが分かる。

 真実を知る死神にその対応は複雑なものであり、結局指揮を取っていた悪魔を逃がすこととなった苦い結末である。


 当時の元凶が目の前にいるとなるモルテの気持ちは決まっていた。

 当時の事件に携わった当事者と作して死んでいった死神に向けた弔い合戦、七人の死神(デュアルヘヴン)として死神デスラルクラスを守る為に戦うことを。


 決意に固まったモルテが繰り出す斬撃と攻防を繰り返す魔王サルガタナスは徐々に疑問が浮かび上がり頭から離れられなくなっていった。

(何だこいつは?)

 魔王サルガタナスはモルテの異常を感じ取っていた。

 最初に比べて速さ、力、鋭さが増してきているのだ。一つにまとめるなら動きが良くなりつつある感じである。

 そしてついにモルテの攻撃が魔王サルガタナスの腕を掠めた。

「チッ!」

 掠めただけであることに悔しがるモルテだが魔王サルガタナスからしたら驚愕でしかなく、死神の攻撃であるから例え掠めただけでも相当なダメージである。

 モルテから遠く離れて間合いを広げると魔王サルガタナスは疑問をぶつけた。

「貴様、手を抜いていたのか?」

「……そうなるな」

 魔王サルガタナスの言葉にしばらく考えたモルテは隠すことなく肯定した。

「普段から力を制限しているからな。こうして徐々に体を慣らしていき力を解放しているのだ」

「何の為に手を抜く?」

「手を抜いているのではない。制限しているのだ。ここで生きる者達が力ある者に依存せず自らの力で立ち向かう為にだ」

「……くだらんな」

 モルテが言っている意味が分からない魔王サルガタナスは吐き捨てた。

 力があるのなら弱者を貪り従わせればいいだけのこと。好き勝手出来ることが特権であるし弱者が多いのだから使い捨てていけばいいこと。

 痛くも痒くもなければ弱者を何にも思わない。それが魔王サルガタナスの考えだ。


「弱者は弱者らしくくたばっていればいいことだ!」

「違うな。強者に立ち向かう力を付けてこそ人間は飛躍する。私はそういった者達を見続けてきた。だからこうして見守ることに徹している」

「ならば何故俺の前に立ちはだかる?」

「決まっているではないか。邪魔をさせない為にだ!」

 その時、モルテは地面を蹴って魔王サルガタナスに詰め寄りながら鎌を振るった。

 今まで以上に速い動きに魔王サルガタナスは遅れてしまい慌てて後退する。

「遅い!」

 モルテは斬撃を放ち魔王サルガタナスの右腕を切り落とした。

「何!?」

 防ぐために腕を固くしたはずなのに斬撃だけで切り落とされた魔王サルガタナスは驚愕する。

 速さだけでなく力も上がっていることからどうやら格段に力を解放していることが分かる。

「ならばこれでどうだ!」

 しかし、魔王サルガタナスもやられっぱなしというわけではない。

 残った左腕を伸ばしてモルテの顔面めがけて殴り付けた。

「ぐっ……!?」

 拳は右頬を殴り付けてモルテを吹き飛ばすが、何とモルテは飛ばされる直前で左腕をしっかりと掴んでいた。

「図太いな」

 左腕も切り落とされる前に離れなければと瞬間移動をしようとするがまたしても移動することが出来ない。

「またか!」

 どうもモルテが触れている限りは瞬間移動が出来ないことを悟る。

「なめるな!」

 すかさずモルテは腕を引いて魔王サルガタナスを引き寄せると鎌を振るった。

「甘い!」

 鎌の軌道が胴体であることを悟った魔王サルガタナスはからだ全体を硬くして鎌を弾きとばすと腕を膨張させてモルテからの束縛を解く。

「力を制限しているのはこちらもだ。ここまで追い込んだのだ。特別に見せてやる!」

 モルテの実力を評価した魔王サルガタナスは本来持つ魔王の力を解放した。

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