悪魔囲い完全破壊
時間は少しだけ遡りヘルミア。
サンタリアを囲む悪魔囲いに入っていたヒビがとうとう全体に広がった。
「よし」
「ここまでは順調にいったねおじいちゃん」
悪魔囲いの状態にダーンとベルモットがこれまでの成果に表情が綻ぶ。
何しろ初めて作った悪魔囲いを壊す死神道具二種類が今のところ問題なく機能しているのだ。
作動させたことで改良点はあるが、それでも悪魔囲いが壊れつつあることは大きな成果であり、残るは完全破壊である。
「だが、これでこの程度の威力となると時間がかかるな。出力を最大にする」
そう言ってダーンは悪魔囲い壊せる君の威力を最大にする。
どのみち最大出力での確認もするつもりであったから壊れることなど考えていない。
すると、悪魔囲いのヒビがさらに細かなものとなり、次の瞬間には完全に粉々となって砕けた。
「よし!」
「やった!」
『壊れた!』
『よっしゃぁぁぁ!!』
「やりましたね!」
幾日も力を蓄えて頑丈になっていた悪魔囲いがとうとう壊れたことに領域を伝って分かるほどに歓声が上がる。
だが、
「まずいな」
唯一レナードだけが渋い表情を浮かべていた。
「レナードどうした?」
「何がまずいレナード?」
「もしかして悪魔囲いを壊したから悪魔が!?」
「それは予想の範囲内だ。現に集結して向かってきているがそれじゃない」
「なら何だってんだ?」
レナードが言った言葉の意味が分からないオウガストとダーンとベルモット。
「もしかして、サンタリアかい?」
「ああ」
「はぁ?」
エステルがヘルミアでなければサンタリアであると言ったことにダーンは呆けるが、レナードが領域を使ってどこかを見ていることに気がつく。
「サンタリアはどうなってますか?」
「エクレシア大聖堂の内部、恐らく教皇選挙が行われている場所だな。悪魔が大量に出現した」
「それなら七人の死神で何とか出来るだろう?」
「その中にドラゴンと魔王がいると言ってもか?」
「ドラゴンと魔王!?」
「何と!?」
「おおい!?」
「ええっ!?」
まさかの強敵に元七人の死神とオウガストと悪魔と対峙した経験が少ないも存在がどういったものか分かるベルモットが驚く。
「七人の死神はそっちに付きっきりで悪魔は枢機卿が対処している」
「これは難儀なことだな」
現在エクレシア大聖堂が置かれている状況にエステルは深刻な状態であると決める。
魔王と魔王格の上級悪魔が出現したとなれば、いくら資格に当てはまって七人の死神になった死神でも魔王とやり合うことなどないからどういった戦いかたをすればいいのか分からず苦戦するはず。
それに加えて悪魔の数である。命と肉体の繋がりを刈り取ることが出来る死神が動けないとなると天眷者である枢機卿では荷が重い。
ならば七人の死神が数人抜けて対処をと考えても魔王やドラゴンを相手にしてしまえばそれは悪手になってしまう。
もしも死神であるラルクラスが動いてくれたら状況が変わるだろうがそれをしたら悪魔が増えるのではないか。
そもそも死神がサンタリアを囲っているのに加えて隠し通路もラルクラスの指示で悪魔が作り出したものも全て塞いだはずなのにどこから侵入して教皇選挙の場に侵入出来たのかと疑問に思う。
「もしかして、八方塞がり?」
「もしかしてもなにも八方塞がりだな」
「どうしてそんな余裕に言えるの!?」
「余裕など持っていない。いたって深刻に考えているとも」
エステルの言葉通りレナード、オウガスト、ダーンも深刻な表情を浮かべて悩んでいる。
「それに、不思議なことにサンタリアを囲っている結界が完全なものになっている」
「は?」
何を言っているんだとエステルの言葉に疑問を抱くが、気がつけば確かにサンタリアを囲んでいる結界が不安なものではない。
「何で結界が安定してがんだ!?」
「私が知るわけないではないか。だが、考えられることとすれば新たな教皇が選ばれたことくらいだ」
「もしかして、悪魔の侵入を防ぐ為」
「かもしれないな」
結界が安定していることにそうであると予想する。
「だが、結界が安定しているとは言うがこのままでは新たな教皇の命も危ない」
「そうだな」
新たな教皇が生れたことは嬉しいが、これで悪魔は死神と教皇の二人を狙うことが決まったことも意味している。
深刻に考える一同だが、レナードだけは悪魔囲いを破壊する際にずっと領域を使ってエクレシア大聖堂内部を見ていたから全体の状況が分かっている。
分かっているのだが言った直後に暴走を起こしかねない死神がいることと本来ではあり得ない事情に敢えて口を閉ざしている。
「いっそのこと、私達も行くかい?」
「何処に?」
「死神がいる場所に」
「エクレシア大聖堂内部に入るのか!?」
「そうだ。教皇選挙が行われている場所に」
エステルの提案に驚くオウガスト。だが、それはあまり気が進まない。
「正気ですか?」
「正気そのものだ。悪魔囲いが破壊された今は私達でもサンタリアに入ることが出来る。それに、レナードなら領域であっという間に飛ばしてくれるさ」
最後の衝撃発言にオウガストはレナードを見ると、無言で頷ずかれたことで疲れが溜まる感じを抱いた。
「さすが<領域の魔術師>だ……」
もうレナードには領域で出来ないことがないのではないかと思ってしまうオウガスト。
その後、オウガストが許可を出したことでレナードが人選。幾人かは希望したこともあり多くの死神を連れて行くこととなり、残った死神は集まりつつ悪魔を刈る為に待機することとなった。
* * *
そしてエクレシア大聖堂の秘密の中庭。
ラルクラスが感じ取った空間の歪みから慣れ親しんだ死神の武器二種類が姿を現した。
「そぉ~れっと~」
「おりゃぁぁぁ!」
そして、二人の死神が近くにいた悪魔を思いっきり吹き飛ばした。




