大苦戦
「店長!」
「動くな馬鹿!」
モルテが魔王サルガタナスと共に穴に落ちたのを見たディオスは慌てて駆け寄ろうとするもユーグに頭を押さられ、直後に二人の頭上を悪魔が滑空した。
「くっそ!」
ユーグは立ち上がると襲いかかってくる下級悪魔からディオスを守る為懸命に鎌を振るう。
自分では対応する術を持たないディオスを守りながら襲ってくる悪魔を死神になったばかりのユーグには負担が重いどころではない。
幸いにしてユーグがまだ対応出来ない中級・上級悪魔は枢機卿や七人の死神とやり合っているためにどうにかなっているがこのままではいずれ詰むことも理解している。
どうにかしてディオスの安全を確保しなければならないと考え始めると、突然感じなれている領域が二人を覆った。
「ユーグ、ディオス、無事か?」
「は、はい!」
「ユーグ、さっきはよくやった」
「偶然です」
魔王サルガタナスの攻撃で混乱に陥ってしまった為に確認が出来ていなかったが、ラルクラスが領域を展開しながらディオスとユーグを悪魔から保護したことで二人の生存を知ることとなる。
「こっちだ」
ラルクラスは領域を展開したままヴァビルカ教皇とハイエントの元に連れて行く。
「ハイエント」
「ラルクラス。ユーグとディオスも無事だったか」
「はい」
「ハイエント、ヴァビルカ教皇、二人を頼む」
「分かりました」
そう言ってヴァビルカ教皇はディオスとユーグを悪魔の攻撃から守る為に結界を張った。
「死神、俺も戦います」
「ユーグはハイエントと共にディオスを守れ!階級が乱立しているこの中に飛び出せば死ぬぞ!」
「俺も戦う気でいるが?」
「それはユーグが対応仕切れない悪魔が襲って来たら頼む。ハイエントが飛び出したら誰がヴァビルカ教皇が抑え込んでいる悪魔を刈り取るんだ!」
ユーグでは中級・上級を刈り取るのは困難だと断言したラルクラスであるが、冗談かそれとも空気を読まずに参戦する気満々であったハイエントに思いっきり嫌な顔をしながら釘を刺して制することとなった。
ちなみに、ヴァビルカ教皇はラルクラス達が話している間も襲いかかってくる悪魔を結界や浄化、力の制限などの天眷術を使って動きを制限したり捕まえたりしている。
それは他の天眷者である枢機卿も同じであり、出来るだけ悪魔の動きを止めようとしていた。
「天眷・我らは害する者達から信じる者達を守らねばならない!」
天眷術が唱えられると階級に関係なく悪魔が結界の中に閉じ込められる。
そうした結界がいくつも出来ているのだが、悪魔の数が多くいくつも閉じ込める為の結界を張ることが出来ない。
「ササイ殿、シャルマン殿、カルミニアン殿、何故悪魔になどなってしまわれたのですか?」
一方で親交していた者が悪魔に成り果ててしまったことを哀れむ枢機卿もいた。ヘイゼルもその一人である。
「先程も申したはずです。我々は真実を知った。その真実の為にこうして悪魔となった。それに後悔はない」
口調はヘイゼルが知るササイそのものであるが思考が違うことにヘイゼルは胸が痛くなる感覚を抱く。
「貴殿方が何を知って真実と言うかは分かりません。しかし、それは悪魔になってまで真実を貫くものなのですか?」
「そう判断したからこうして対立しているのではないか?」
「故に我々はここにいる。ヘイゼル殿、まさか臆しているのか?」
シャルマン、カルミニアンまでもが悪魔になってよかったと言う発言にヘイゼルは首を横に振った。
「私は貴殿方の気持ちを知りたかったまで。残念です」
どうやら説得しても無意味であると悟りヘイゼルは天眷術を唱えた。
「天眷・我は害する者を許すまじ!」
その瞬間、光の輪が3体の悪魔を捕らえにかかるもすんでのところで避けられてしまう。
「なめるな!」
「その天眷術の意味が分からなくなったとでも思っているのか!」
そうして枢機卿と元枢機卿の攻防戦に発展していった。
枢機卿が何故悪魔を相手しているかと言うと、死神である七人の死神が黒竜と魔王サルガタナスを相手にしていて刈り取ることが出来ないからである。
「くあっ!」
「ハロルド!」
「領域展開!」
黒竜に斬りかかったハロルドだが鱗の固さに致命傷を与えられず吹き飛ばされてしまった。
そこを目掛けて黒竜がブレスを吐いた為にオティエノが慌てて領域で防ぐが、何十人といる枢機卿が天眷術で力を制限しているはずなのにその効果が全く出ていないほど力が強い。
「硬いみたですね」
「ハロルドでもあれだけってなると厄介だな」
モルテが魔王サルガタナスと共に穴に落ちてしまった今は残った七人の死神の中でハロルドが刈る鋭さが強いのだが、どうも鱗が邪魔で通用していない感がある。
「ヤード、糸で何とか出来ないか?」
「無理です。あれは触れなければなりませんし、この巨体を縛ることも不可能です」
「それなら墓地でやったことをすればいいだろう?」
墓地でヤードが悪魔に触れた訳でもないのに束縛出来た理由はアイオラとハロルドがヤードが作り出した力の糸を悪魔に付けたからである。
しかし、ヤードは首を横に振った。
「あれでも無理です。鱗からでは効果はないでしょうし強度にも問題があります。そもそも私の糸は強度が極端に弱いんです。悪魔2体を同時に縛ったのも時間稼ぎの為。私では糸を用いても刈り取ることは出来ません」
ヤードの言葉に糸に頼るのは不可能であるということに七人の死神は手詰まり一歩手前まで来ることとなった。
「まずいな……」
今の状況にハイエントは歯を噛み締めた。
乱立状態となった現状ではこちらが不利になりつつあることが分かってしまう。
「……仕方がない」
あることを決めたラルクラスは気持ちを固めると、近くで空間が歪むのを感じ取った。




