チャフスキー葬儀商
ディオスは目の前の建物の外観に圧倒されていた。
「ミクちゃん……」
「ミク!」
「もう一度聞くけど、本当にここ?」
「うん。ここ」
「だけどこれって……」
それは、数ヵ月前まで富裕街で暮らしていたディオスがよく目にしていた建物であった。
「普通の家だよね?」
「富裕街の?」
「うん」
ディオスが目にしているのは富裕街ではよく見る住居であった。看板もなく回りと溶け込んでいて一目で葬儀を執り行っている店とは分からない。それは、元住人であったディオスでさえも分からなかった程である。
「とにかく入ろ」
ミクに急かされディオスは半信半疑のまま店の扉前に来てあるものに気づいた。
「あ、ここに名前が書いてあるんだ」
ディオスが扉の前で見つけたのはチャフスキー葬儀商の名前が刻まれた玄関ポーチであった。
どうしてこんな目立たない場所に目印があるのかと考えながら店内へと入る。
店内に入ると葬儀屋フネーラやトライアー葬儀店とは違う内装をしていた。だが、店内には誰もいない。
「すみません」
誰もいない店内にディオスは叫んだ。すると、向こうの扉から一人の男が店内へと現れた。
「いらっしゃいませ。おや、ミクちゃんではないか。どうしたんだ?おや?」
現れた男、レオナルド・ネフスキー・コクマーはミクに気づいたが、隣にいるディオスがどことなく覚えがあり見つめた。だが、ディオスには覚えがあった。
「お久しぶりです。でいいんでしょうか?ディオスと言います。父の葬式の時はありがとうございます」
「ああ、レオーネ氏の!」
ディオスの自己紹介にようやく思い出したレオナルドは声を上げた。
「なるほど。聞いてはいたけれど、うん。成る程」
ディオスの顔を真剣に見ると首を一、二度頷き何かに納得をするレオナルド。
「それで本日はどういった用件で?」
「師匠から届け物届けに来た」
「モルテが?」
レオナルドの問いにミクが答えるとディオスは素早く持っていた封筒を渡した。
「これです。中身は本と言っていました」
「ああ、これか」
ディオスの言葉にレオナルドはどのような物なのかすぐに理解すると封筒を受け取った。
「それと、一つ伺ってもいいですか?」
「何をだい?」
ディオスはレオナルドに疑問に思っていたことを尋ねた。
「どうして看板をかけていないんですか?」
それは、入る前に思った疑問であった。
「それは、ここが富裕街だからさ」
レオナルドから帰ってきた解答に首を傾げるディオス。
「元々住人であったディオス君も分かるっていると思うがここは元貴族と言われた者達で溢れている。そういった人物、格式や伝統を今なを受け継いでいる者達からしてみれば触れたくないものが近くにあることは堪えがたいのさ」
それはディオスにもよく分かると言うよりも頭の片隅に覚えていた程度の記憶である。今なお格式や伝統にこだわっている元貴族、財閥がいることをしっているからだ。
「だから、富裕街で葬儀商を営む為には葬儀商と分からないようにする必要がある」
「それが看板をかけない」
「そう。そして、店には客をなるべく入れない」
「それは?」
「電話対応と言うかな?店の場所を知られない為の工夫。覚えはあるでしょう?」
「はい。でも、周りは……」
「周りの家々は葬儀商であることを知っています。そして、それが当たり前であると思っている。だから店を営んでいられるのです」
「そうなんですか」
チャフスキー葬儀商の仕組みについて知ることとなったディオス。これは店独自のシステムと周りの理解があるから出来る営業であると考えた。
レオナルドは受け取った封筒を持った片手を上げるとディオスに言った。
「モルテに伝えて下さい。確かに受けとりましたと」
「あ、はい。失礼しました」
「じゃ~ね~」
そう言ってディオスとミクは店から出て行った。
「さてと……」
ディオスとミクがいなくなったのを感じてレオナルドは封筒から本を取り出すと開き、中に挟まれていた封筒を取り出した。そして、封筒の封を開け、中に入っていた手紙を読み始めた。
「これはまた……」
その内容にレオナルドは笑みでも浮かべたいという表情を浮かべた。
「情報次第ですか」
そう呟くと店の扉が勢いよく開いた。
執筆ペースが遅くなりストックがなくなった為にしばらく休載します。次回は6月13日です。




