仕事場の公開処刑
ファズマはコーヒーが入ったカップを店内のテーブルに置くとディオスにすすめた。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
出されたコーヒーにディオスは礼を述べると置かれたカップを持ち、コーヒーを飲んだ。
ファズマはマオクラフが持っていた封筒の中身を見ながら大人しく椅子に座っているミクの隣の椅子に座った。
「確かにクラウディアさん所の紹介状ですね」
「あの……」
思った以上においしいコーヒーを飲んでいたディオスが尋ねようとした。
店長の態度からして何か事情があると思ったのだ。その事情がよろしくない事ならディオスは自身の気持ちを我慢して葬儀屋フネーラへの就職希望を諦めようかと考えていた。
「ああ、店長の事は気にしなくていいです。むしろ、原因は店長にありますから」
ディオスが何を言いたいのか感じ取ったファズマが説明を始めた。
「店長、あまり人を雇いたがらないんです」
それはさっきの態度を見たから知っているから分かるとディオスは無言で頷いた。
「それを心配した職安、クラウディアっていう人が勝手にここを紹介しているんです」
だからか帰れと言われたのかとディオスは納得した。
そもそも、勝手に紹介しているとは……職安、それいいのかと突っ込みたくなる。
「何度も下げてほしいと頼んでるんですが下げてくれないんです」
「多分だけどね、師匠がしょーかい状捨てるからマオのおじさんが持ってたかもね」
(俺、とんでもない場所に来たかもしれない……)
一通り聞いた話に本日二度目の後悔をするディオス。気晴らしにおいしいコーヒーを飲むが気分はよろしくない。
何故なら、ディオスの向かいには店内と仕事場であろう場所を遮るカーテンが開けられていて、そこに店長モルテが天井から吊るしたロープで逆さに縛りつけたマオクラフと言う郵便配達人を睨んでいた。
どこの公開処刑かと叫びたくなる光景だ。
モルテは逆さまに吊るしたマオクラフに鋭い視線を向けていた。
「あの~?俺、そろそろ仕事に……」
「どうして昨日渡さなかった?」
「仕事に……」
「渡さなかった?」
「行かせてください~」
「渡さなかった!」
態度を崩さないモルテにマオクラフはしょうがないなという様子で溜め息をつくとゆらゆら揺れながら理由を話始めた。
「渡したら捨てただろう?」
「否定はしない」
「だから俺が持ってた~それと、今日渡したらモルテがどんな反応するか興味があった~」
モルテの尋問にマオクラフは反省の様子を見せず何故か楽しそうに話している。そして、カバンに手を入れて看板を取り出した。
「どっきり成功~!」
大成功と書かれた手作り看板を見せてピース。
「ふん!」
次の瞬間、モルテはマオクラフに向けて思いっきりアッパーをかました。
マオクラフは見事に頭を天井に突入し、下半身をゆらゆらと揺らした。
「ええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
人間離れした離れ業とその光景にディオスはこれでもかと言わんばかりに叫んだ。
「またか……」
「まただね」
その光景にファズマとミクが冷静に呟いた。
よくある光景なのかとディオスは衝撃を受けた。
「自分から飛び込んだ」
「マオのおじさんすごいね」
(ちょと待ったぁぁぁぁ!!)
だが、ファズマとミクから呟かれた言葉にディオスは突っ込みを心の中で入れた。
(あれ自分から突っ込んだって言わないだろ!?何で自分から突っ込むんだよ!そもそも、これがここの日常なのか?てか、子供がいるのに見せていいのか?教育によくないだろ!!)
あらかた心の中で突っ込みを入れた。そもそも自分から天井に突っ込む理由が分からない。
少なくとも自分は葬儀屋に面接に来ているのだ。下手な事をして落ちたくないとディオスは突っ込みを口に出さなかったのだ。
だが、表情はひきつっており、ミクへの突っ込みは本人を見て言っていたためにそれとなく向かいに座っていたファズマは感じ取っていた。
ディオスは空になっているはずのカップを口につけて改めて思った。
(やっぱり、希望先間違えたかも……)
人間、危機に陥れば何でも出来ると誰かが言った言葉を思い出し、それを実践した自分を恨んだ。