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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
10章 教皇選挙(後編)
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捕らえる者

 ハロルドが放った斬撃により中級悪魔が全滅する様子をちょうど他の中級悪魔を刈り終えたヤードが横目で見ていた。

(これはまた派手にやりましたね)

 幾つもの斬撃が瞬く間に中級悪魔を全滅しただけでなく石壁にも亀裂を入れていく様をヤードはこれに類似した威力の攻撃は何度目かと思う。

 どうもハロルドは気持ちが切れると思いきり攻撃を放つ癖があるようだ。

 これを沸点が低いと言っていいのか分からないが、これらの攻撃が悪魔に通じなかったり避けられなかったりしたのを今のところ見たことがない為に少なくとも沸点が低いと言うよりは力の差を見せる為の一撃、もしくは見せしめの様なものではないかと考えている。


 そんな一撃を放ったハロルドは騒音を聞いて階段から降りて来た中級悪魔とそこに少ないなからも混じっている下級悪魔を途中からだが領域を展開して寸断する。

 十数体程侵入を許したがお構い無しと床に刺さったままのハルバードを引き抜くとすぐに悪魔に振るう。

 これならすぐにハロルドが参戦すると見たヤードは意識を3体の上級悪魔へと向ける。

(アイオラは目であの瞬間を見ていたのかもしれません)

 アイオラが投げ飛ばした上級悪魔がハロルドがハルバードを降り下す所にタイミング良く投げ込まれたのは魔眼によって知っており、見計らったからでないかと予想する。

 それを知っても上手くいくかどうかは別であり、出来たのは偶然と思われる。

 そうして思考が終わるとまた新たな疑問が生まれる。

(それにしても、アイオラがあの様な技を使うのを見たのは初めてです)

 今までアイオラの戦い方は後方で弓を使い力を放つか懐に入って月鎌ハルパーで切り裂くかのどちらかである。それが敵を投げ飛ばす方法を使うのが初めて見たと思うヤード。


 実はこれには裏があり、モルテがアイオラに教えたのである。

 教皇選挙が始まる前にモルテがアイオラの戦い方に一つのアドバイスをしたのである。それが体格を無視した投げ飛ばしである。

 モルテ曰く、

「懐に入るのが上手いのにもったいない」

 とのことで数時間で教えたのである。

 アイオラとしては戦いの幅とどこか欠けていた対応がこれで解消されると戦うことが出来る人間ならではの問題が解決したことを喜んだものである。

 その後、何故今まで使わなかったかというと、アイオラが納得した域に達していなかったからである。僅か数時間の教えと七人の死神(デュアルヘヴン)としての役割を割いての練習となると時間はそうないもの。死神とはいえ一瞬にして身に付ける身体能力はない。

 よって納得したのが日ノ出前であり、実践で試したのが今回が初めてなのである。



 そんなことを考えてしまった為にヤードに隙が生まれた。

「お留守になっているぞ」

 声をかけられて気がついた瞬間、銃を握っていた右手が触手に巻かれる。

「くっ!嫉妬はもう1体いたということですか」

 気を反らしすぎたと悔しがるヤードを右手がヤモリの手の様な形に異形化した嫉妬の上級悪魔が不敵に笑う。

「よくやった!」

「これで奴は動けまい!」

「ヤードさん!?」

 ヤモリ手の上級悪魔の発言に流れが変わったと喜ぶ2体の上級悪魔とヤードが捕まったことに驚くアイオラと真逆の反応を示す。


 そんな反応を気にせずヤードは表情を静かに変えてヤモリ手の上級悪魔を睨む。

「捕まえたのはこちらです!」

 ヤードは動く左手をクイッと小さく動かす。その途端、ヤモリ手の上級悪魔が異常を感じとる。

「な、何だ!?」

 ヤードの右手を付かんでいるはずの手が徐々に締め付けられてゆき触手が緩む。

 この気を逃さないとヤードは一瞬にして死神の武器をしまうと出来た隙間によって触手から脱出して、再び銃を出現すると引き金を引いた。

「小癪な!」

 ヤモリ手の上級悪魔は体を反らして避けるも片手だけがその場から動かず未だに締め付けられたままである。

「貴様、何をした!?」

「何もしていません。ただ捕まえただけです」

 そう言って今度は左手を思いっきり引っ張ると、ヤモリ手の上級悪魔の手がヤードへ引き寄せられることで大急ぎで踏ん張る。

「楔よ、纏い貫け!」

 小さく呟くとヤモリ手の上級悪魔の体が締め付けられる。糸や針金のように細く強靭でありながら正体は純水な死神の力であり、それが内外を巡って動きを制限し、やがては完全に行動不能にする。

「うっ……ぐっ……」

 内部にまで浸透した違和感しかない死神の力が気持ち悪く感じてのたうち回りたいところなのに体が言うことを聞かないばかりか呻き声しか声を上げられない。

 そんな状態のヤモリ手の上級悪魔を見たヤードは素早く左手を引く。

 途端にヤモリ手の上級悪魔に巡らせた力が鋭い刃のように体内を綺麗に切り裂く。肉や臓器などお構い無く裂き、ついに心臓をも幾重にも裂く。

「がはっ!……ごほぉっ……」

 体の機能がしなくなったヤモリ手の上級悪魔は口から何度も血を吐いて意識が遠のく中で悟る。

 死神によって殺され本当の意味で死ぬことを。

 ヤードは無言無表情でヤモリ手の上級悪魔に張り巡らせた力を解除した。その途端にヤモリ手の上級悪魔は前のめりになって倒れ動くことはなかった。


 その一部始終を見ていたもう1体の嫉妬の上級悪魔が動揺していた。

「何だ、あれは……」

 ヤードの異様としか言えない攻撃。あれは捕まえることだけではなく殺すことも含まれた戦法。

 力を糸にして粘着質が含まれたそれを銃を使うことで巧妙に隠して己が持っていきたい状況へと誘導している。

 糸に捕まったら内外関係なく捕らえられるそれは非常にまずいものであると悟る。

「くそ!」

 もしかしたら既に捕まっているのかもしれない。そう考えると巻き添えで殺すしか方法がないと歯噛みする。

 その途端、真横から刃の閃光が光ったのを見て大きく飛んで後退する。


「惜しかった……」

 アイオラが嫉妬の上級悪魔の隙を見つけて付い攻撃が避けられたことを悔しがる。

(ですが、流れはこちらに傾いた)

 ヤードが上級悪魔に向けた攻撃は残り2体の上級悪魔にとてつもない衝撃を与えて慎重にさせたはずと考える。

 時間はまだ稼げる。

 そう考えてアイオラは間合いを保ちながら2体の上級悪魔と睨み合った。

もしかしたら七人の死神(デュアルヘヴン)の中で一番むごい攻撃手段を持つのがヤードの気がしてならない

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