無茶と気丈
会議室は一変して潜んでいた悪魔と力に飲み込まれた者達の血の海と化した。
「大丈夫?」
「……大丈夫、です」
気にかけるオティエノにディオスは深く被ったフード越しから頷く。
目の前で起きた出来事を堪える為と死神であるラルクラスの弟子ユーグとして演じているから気丈に振る舞うが、オティエノはそれが無理していることとすぐに分かる。
何故なら、ディオスにユーグの代わりをやってもらうと言い出したのがオティエノであり、見たくないと思う来事を想定していたからだ。
「この状況で無茶するなとは言えないが辛くなったら言ってくれ。最善の努力はするから」
「そこまでしてもらうつもりは……」
「言うことを聞け」
「……分かりました」
きつめの口調で言って頷いたディオスに安堵したオティエノは改めて会議室の様子を見る。
会議室は途中から多くの異形と化した悪魔の遺体を対応、処理と捕らえた関係者を天眷術で悪魔の支配から解放しようとする枢機卿。そして、ラルクラスに一連の事情を問う数名の枢機卿と分かれている。
「枢機卿も驚いているな」
あまりにも騒然とする中で独り言の様にボヤくオティエノ。
死神程ではないが悪魔がいるというのに力が強い天眷者である枢機卿が気づかなかったり力に飲み込まれた理由にそれぞれ一つだけ心当たりがあった。
(やはりいるのか?)
この場にはいない、けれども驚異的な存在にオティエノは静かに振り返るとディオスに語りかける。
「ディオス、これから更に厳しい状況になるはずだ。だから俺達の指示には必ず聞いてほしい。君の為にも俺達の為にも」
「……分かりました」
オティエノの言葉に一瞬飲み込めなかったディオスだが、ゆっくりと消化をして、理解して頷いた。
「待たせたな二人とも」
丁度その時、枢機卿に説明を終えたラルクラスと隣をモルテが共に歩いて来た。
「店長……」
ディオスはモルテを見ると複雑な心境を抱いてポツリと呟く。
殆どの悪魔を刈ったのはモルテである。初めの人形の時もそうであったが刈ることに躊躇いがないのだ。鮮血が吹いてもなお一心不乱に刈り取る様は初めてディオスがモルテを怖いと思った瞬間であった。
「死神、枢機卿は?」
「話には納得した。協力してもらうこととなった」
「そうですか……場所を外してもよろしいですか?」
「許可する」
枢機卿団の対応を聞いたオティエノはラルクラスに許可をとって枢機卿団にしてもらうことを伝えに行く。
「オティエノが戻ってたらすぐに行く」
モルテとディオスにそう言うとラルクラスは気を使ってかその場を離れて悪魔の亡骸へと向かう。
「……店長」
ディオスは改めてモルテを見た。モルテの表情は至って普通。普通過ぎて何故かと疑問に思う。
そこから何も言えなくなり、モルテが逆に尋ねる。
「どうした?私が怖いか?」
「……初めて怖いと思いました」
「そうか」
躊躇するが本心を伝えたディオスの言葉をモルテは静かに聞き入れた。
「怒らないんですね」
「事実だろう。それに、私は悪魔に容赦しない」
「それはどうしてですか?」
「悪魔にいい思いがないからだ」
恐ろしいとまで思った背景に悪魔を毛嫌いする気持ちが含まれてたことを理解する。
「話は変わるが、まだ行けるか?」
突然話を変えたモルテにディオスは何かと驚くが、すぐにオティエノが尋ねたことと同じことと理解して頷く。
「行けます」
「……そうか」
モルテの目からしてもディオスが強がっていることが分かる。先程の話に加えてなのだから相当堪えていると思ってしまう。
「二人とも話は終わりだ」
そして、タイミングを見計らっているんじゃないかと思いたいところでラルクラスが声をかけてきた。どうやらオティエノが話を終えて戻って来るところである。
そうしてすぐに戻って来たオティエノは枢機卿との話の結果を伝える。
「枢機卿にはやってもらいたいことを伝えました。準備が整い次第始めるそうです」
「そうか」
こうして小さな最悪の芽を摘むことが出来たが、まだ摘み残している芽がある。
「次に行くぞ!」
そう言って会議室から出て行く四人。
次の場所へと走る中、オティエノはモルテに語りかけていた。
「モルテ、彼だけど相当なものだね」
「どこがだ?」
声は小さいがモルテの耳にはちゃんと入っている。
「普通なら人が斬られるのを見慣れていないと悲鳴を上げるたり立ち竦んだりするはずなんだ。だけど、彼はそれらに当てはまらない。慣れているって言ったらいいのか?こんなことに巻き込ませて何だけれど、とにかくユーグの代わりを十分以上にしてくれているよ」
モルテが人間の姿をしたまま刈った悪魔を見た時の反応がオティエノからしたら普通でないと思っていた。
「……そうか」
それに対するモルテの反応はあまりよろしくはなかった。




