店長からのお使い
葬儀屋フネーラへ戻るとそこにいたのはミクだけであった。
「お帰りなさい師匠!ディオお兄ーさん!」
「今戻った」
「ただいまミクちゃん」
元気よく迎えたミクに自然と言葉が出る。
ちなみに、ミクがディオスに声をかける際は「ディオお兄ーさん」もしくは「ディオ」と言っている。
これを聞いたファズマは、
「何で俺には兄さんって言わないんだよ?」
と根にもったらしくボヤいてはディオスに小言を言っていた。
すると、ミクが不機嫌な表情でディオスに叫んだ。
「ミク!」
「へ?」
「ちゃん付けやだ!ミクって言って!」
「で、でも、ミクちゃんは俺よりも……」
ミクの要望に困惑してしまうディオス。ディオスとしてはミクは年下で葬儀屋フネーラに長く住んでいるようだから尊重していたのだがそれが気にくわなかったらしくミクから睨まれている。
少し面白いと思いながらもそろそろ助け船を出すかとモルテは肩をすくめた。
「ミクが言っているんだ。そうしてやれ」
「へ?は……はい?」
店長が言うならそうすることにする。出来るかどうかは別であるが。それよりも本当にいいのかと考えているディオスである。
モルテは店内を見回すとミクに尋ねた。
「ファズマはどうした?」
「リチアお姉ーちゃんが来て連れて行ったよ。何だか急いでた」
「そうか」
理由は分からないがどうやらファズマに出来る範囲で何かが起きたのは確かである。どうりでもう一台停めているはずの車が無いわけだと理解した。
「他に変わったことはないか?」
「ないよ」
ミクの返答にモルテはこれからどうするかを考え、すぐにどうするかを決めた。
「ディオス、ミクと共に店番を頼む。その後に使いを頼む」
「使い?お使いですか?」
「それが終わったら今日は自由だ」
そう言うとモルテは店内の奥へと向かった。
一方的に言われて驚くディオスはこちらを見ているミクに気づいた。
「えっと……店番をしようか。ミクちゃん」
「ミクって言って!」
おどおどするディオスにミクはちゃん付けを外すようにと突っ込んだ。
しばらくして、モルテが片手に何か厚く大きい封筒を持ち店内へと戻ってきた。
モルテが持っているものが気になりディオスは尋ねた。
「それは何ですか?」
「書物だ。貴重なものでな、こうして入れて持ち運んでもらう」
モルテは本が入っている封筒を持ちディオスに見せながら言う。
「これを富裕街のチャフスキー葬儀商に届けてもらう。名前は知っているだろう?」
「は、はい」
モルテから渡された本入りの封筒を受け取りながら受けとるディオス。チャフスキー葬儀商はディオスの父親の葬儀を執り行った店だ。
「場所は分かるか?」
「いいえ」
次に尋ねられた言葉に首を横に振った。
父親の葬儀を執り行った店と知ってはいるが場所までは知らない。それを聞いたモルテは溜め息をつくとすぐに気を取り直した。
「ならミクと共に行け。ミク、道案内を頼む」
「店番は?」
「私がいるから必要ない」
「は~い」
ミクは返事をすると外出の準備をする為に急いで店内の奥へと走り出した。
ミクを見送ったモルテは胸ポケットから本が入っていた封筒とは対照的な薄く小さい封筒を取り出した。
「もう一つ、これを郵便局に持っていき出してほしい。代金も渡しておく」
そう言ってディオスに二つの封筒と代金を持たせた。
「さっきも言ったがこれが終わったら今日は自由だ。学友に花を供えに行ってやれ」
最後に言ったモルテの言葉にディオスはこのお使いの意味を悟った。
モルテなりの配慮なのだろう。辛すぎた今日の仕事を早々に切り上げたのだと。
「はい。ありがとうございます」
ディオスは一礼してモルテに感謝を述べたら。
「それと車は使うな」
「分かりました」
そんな会話をしているとミクが元気よく店内へと現れた。
「準備できたよ~」
見るとポシェットをかけていて愛らしい。
「それでは行ってきます」
「行ってきまーす!」
ミクの準備が出来たと見てディオスはモルテに一声かけると頼まれた用件を済ませる為に外へと出た。その後を追うようにミクが追いかける。
二人が外に出たのを見送ったモルテは表情を引き締めた。
「さて、どの様に転がるか」
そう言って仕事場へと向かった。
ヤバイ、執筆ペースが遅いからストックが切れそう……




