変化の変わり目
レナードが悪魔囲いに干渉したことで渡りの伝達文箱に送られてきた手紙を七人の死神全員が確認した。
「レナードならやると思っていたが、確認に渡りの伝達文箱を使うとはな」
レナードなら他の領域使いでは不可能であることを僅かな時間でやってのけると分かっていたモルテは口元が綻ばせてこの成果を喜ぶ。
「これで連絡手段が回復しましたね」
「特定の時間にレナードが干渉することで何とかなったな」
先程上がっていた連絡手段がこうもあっさり、常時ではいかないが外と連絡が出来ることが大きいと手紙の内容を見たアルフレッドとヤードの表情も綻ぶ。
一方でオティエノとファビオは複雑な表情である。
「さすが《領域の魔術師》だ。やることが大きい」
「正直、実力差がここまで開くと開き直るしかないな……」
今回初めての悪魔囲いに対応してのけたレナードとの実力の高さに今回七人の死神として呼ばれた領域使い2名は深く溜め息をついた。
レナードが確認と称して確立させた悪魔囲い干渉方法は手紙がなくなっていることが確認されて既に領域でヘルミアにいる死神に成果が伝えられる。
その報告にダーンやエステルといった死神がこれからやろうと予定していることが大幅に広がったことに喜ぶ。一方ではオティエノとファビオと同じ一部の領域使いがレナードの実力差を改めて認識してしまったことで肩を落として開き直ろうと必死なのは余談である。
「次に干渉するのはいつだ?」
「今から20分後です」
手紙に記された時間と今の時刻を懐から取り出した懐中時計で確認をしたハロルド。
あまりに微妙な時間にラルクラスはすぐに書けてしまえる状況とまとめを思い浮かべる。
「それならヘルミアの状況が伝わったこととこちらの状況……ヴァビルカ教皇のことは伏せて書いてくれ」
「分かりました」
まだヴァビルカ教皇の生存を知らせるわけにはいかないとラルクラスの指示でアイオラが既に取り出した手紙に素早くペンを走らせる。
「死神、こうなってしまっては私の生存を秘匿する意味は既にないと思いますが」
「いや、ヴァビルカ教皇の生存はこちらの切り札の一つ。まだ外の死神に隠す必要がある」
切り札と言う言葉にヴァビルカ教皇は首を傾げる。
「切り札ですか。しかし、一つと言うことは他にもあるようですな」
「とぼけないでくれ。あなたも感ずいているはずだ」
「ははは!見破られていましたか」
ラルクラスの指摘に観念したと悪戯したように笑う。
ラルクラスは意識をヴァビルカ教皇から七人の死神へと向け直した。
「恐らく状況はこちらに大きく傾いている。外の死神と連携して悪魔を抑え込む」
「大きく出たな。だが、それを決める時間はあるか?」
「彼がここに来たことで悪魔もこれからのことを変更しなければならない状態になっているはずだ。時間はある」
「そうか」
僅かに揺さぶってみたハイエントだが、ラルクラスの思いきりに微笑む。
連携となるとヘルミアの死神と連絡のやり取りをしながら決めるのだから時間がかかる。しかし、情報はその分多く決めることにおいてはそれほど時間はかからないはず。
これに必要なのは時間ではなく決まった後の連携と対応である。
アイオラが手紙を書き終えて渡りの伝達文箱に入れたのを見届けて、心の内に一つの想いを秘めながらラルクラスは真剣な眼差しを七人の死神に向けた。
「それで、今までの情報からどう思う?」
悪魔の次なる行動。その行動次第でこちらも出方が決まる。
「恐らく一般人の襲撃と教皇選挙に出馬している関係者を早期に決めさせるはずです」
この中で特に観察眼が優れているオティエノの発言、その予想外の一言に数名が仰視する。
「教皇を決める!?」
「どうしてそんなことを!?」
「向こうの対応がこっちにバレたとするなら、悪魔は今回における目的の一つ、息がかかった枢機卿を教皇にするために急ぐはず」
「つまり、教皇選挙を終わらせる為に動くか」
既に有力者の中に悪魔の息がかかった枢機卿がいるのだから決まるのは時間の問題であり、死神と天眷者によって深刻なことであるから悪魔にとってしたらこの上なく重い一撃を入れられることとなる。
「有力者の票はまだ均一だから時間はあるだろうけど、裏工作をされたら終わりだ」
「つまり、決まるまでに阻止しなければならないのか」
悪魔が枢機卿と何処かで接触をしているなら既に行っているはず。
いや、悪魔も対応を決めかねているのなら希望として一度目は大丈夫なはず。
そう考えてラルクラスはオティエノに問う。
「オティエノはこれに対してどの様に動くのが最適と思っている?」
ラルクラスの指名にオティエノは内に蓄えていた提案を全て言う。
その提案はヘルミアから送られてきた手紙を通して何度も細かいところが変わるも大前提の部分は変わることなく全て通ることとなった。




