悪魔の道具
時間は遡り夕方のヘルミア。
「教皇は決まらなかったな」
「ああ。だが、まだ首の皮は繋がっているな」
最後にサンタリアから黒い煙が壁よりも高く上がったのを見たミゲルとエジェが短く息を吐いた。
教皇選挙がまだ続くということは死神もまだ無事であることを意味しているからだ。
死神の死は死神にとって避けなければならないことであるからまだ力が使えることは死んでいない証明になる。
それに、教皇が決まったら悪魔の抵抗が激しくなることからまだ決まっていないということは現在ヘルミアにいる死神にとってはありがたい時間なのである。
それは現在ヘルミアにいる死神の気持ちであるが、もう一つの問題を思い浮かべるミゲル。
「……レナードが頼んだ奴は上手くやったと思うか?」
「さあな。まだ向こうと連絡回復してないから知る機会なんてないな」
七人の死神に現状を伝えに行ったディオスの安否が確認出来ないことは死神全員が不安に感じていることである。
特に心配している死神は不安にかられて直接サンタリアへ確認に行くと強行突破を試みる者もいたが、始めから失敗することと人手が足りなくなりつつあるからと悪魔囲いの調査をしていたレナードによって領域で連れ戻された後で鳩の宿にいるオウガストに説得されて渋々諦めている。
「それにしても今日は特に悪魔が多かったな……」
「皆が盛大に暴れたからな」
壁が見えるあまり人が来ない裏路地から出てきた二人は気晴らしにと体を伸ばした。
開門前に出されたエステルの提案は現状が停滞しかけていたことへの不満を抱く死神が憂さ晴らしの如くサンタリアに侵入しようとしていと悪魔を殲滅した。
レナードが悪魔囲いにちょっかい出したことが気にくわない悪魔が止める為にと現れた所を他の死神が刈り取った形なのだが、予想以上の数に半数が対応に回った形であり、もう半分が巻き添えを食らった形である為に悪魔相手に暴れまわった感覚を抱いているのだ。
とは言え、本命は悪魔の視線をヘルミアに向けることなのだから成功したものと思いたい。
「あれは……」
左右を見ていたエジェが壁の近くにいる人の姿をした悪魔を見つけて目を細くする。
そしてミゲルも確認したことで無言で頷くと、領域で一瞬にして移動する。
「何をしているんだ?」
言うだけ言って奇襲のように一撃で命を刈り取る。
これにジト目をするミゲル。
「尋ねておいて答える前に刈るってどうだ?」
「悪いことしている奴は答えないで逃げるだろ?」
「それもそうか」
なら仕方ないとエジェがした行為を肯定へと移す。
「それにしても侵入される前でよかった」
偶然とはいえ少しでも遅ければサンタリアが大変なことになっていただろうと思いながら、悪魔から何かが落ちた音を聞く。
「何だ?」
「これじゃないか?」
聞き慣れない音に首を傾げるエジェを横目にミゲルが黒い塊を拾い上げる。
「これは……見たことがないな」
「本当か!?」
「少なくとも俺の記憶にはないな。エステルとダーンに調べてもらうか」
悪魔が持ってた物はいい気がしないとミゲルは領域を使って鳩の宿へ飛んだ。
* * *
そして夜。
「これが何か分かったぞ!」
黒い塊を手に持ったダーンの言葉に集まった死神が注目する。
「それで何だったかな?」
「悪魔囲いを作り出している道具だ」
「は?悪魔囲いを?」
思っていなかった言葉に驚きが広がる。
「ああ。レナードも見たんだが、この中に悪魔囲いと同じ力が含まれているみてえだ」
「本当かい?」
「ああ。サンタリアを囲っている悪魔囲いと同じ力を感じた。間違いねえだろう」
他の死神が武器や力で悪魔囲いと接触して揺らしたことで思ったよりも早く特性を知ることが出来たレナードはエステルの問いかけに頷いた。
「しかし道具とは。悪魔が作ったことに驚く」
悪魔のことだから道具を作ることはしないだろうと思っていたルーベンの言葉にダーンも頷く。
「ああ。だが奴らもまだ未熟と言っていいがこれは厄介なものだ」
「どんな風に厄介なんだ?」
「使い捨てなんだよこれは。前に見せた欠片と同質だ。使い方は割ることで悪魔囲いを作り出し維持しているんだろうよ。これなら上級や魔王のような力を持たねえものでも可能だが、所詮使い捨てだ。時間切れになるとまた割らねえとならねえ。ミゲルとエジェが刈った悪魔はそれをしようとした奴だろうな」
塊の使い方を予想して説明したダーン。恐らくあっていることに全員が納得して頷く。
一方でミゲルとエジェは本当にタイミングがよかったのだと驚いている。
「それじゃ、その効果が切れたらサンタリアに入れるってこと?」
「そんな都合がいいことじゃねえ。どれだけ持つか分からねえから待つことは出来ねえ」
サナリアの楽観的解釈からの思い付きをダーンは首を横に振って切り捨てる。
「それじゃやはり悪魔囲いを壊す方向になるのか」
「そうなるな。レナードが悪魔囲いを調べたからそれほど時間はかからねえだろう。ベルベット手伝え」
「はい」
これで悪魔囲い対応策が出来ると死神に希望が生まれる。
「ダーン、俺は確認の為に悪魔囲いを見てくる」
「ああ」
ダーンにそう言って立ち上がったレナードに殆どの死神が頭に疑問符を浮かべる。
「目処が立ったのに何でまた悪魔囲いを確認するんだ?」
「実際に通じるかどうか確認する為だ」
目処はたっているが実際に力以外を通すことは確認していない。
しかし、幸いなことに確認するのに相応しい物があるから難しいことはしなくてすむ。
そうしてレナードは数名の死神を引き連れて悪魔囲いへ訪れると、人数分執筆した七人の死神宛の手紙を入れた渡りの伝達文箱を片手に悪魔囲いに干渉。
そして、渡りの伝達文箱に入れていた手紙がないことを確認したのである。




