加護の賜物
「ディオス!?」
「て、店長!?」
部屋に入って早々、モルテとディオスの驚きから始まった。
「店長?」
「確かにモルテは今葬儀屋の店主しているって言ってたな」
何故かユーグによってベットに押さえつけられている格好の少年改めてディオスの発言にそういえばとモルテの現在の職業を思い出す七人の死神。
ちなみに、ディオスが何故ユーグに押さえつけられているかというと、体内の血が少なく貧血ぎみのはずなのに起き上がろうとするのを力ずくで止められていた途中だったからである。
そのユーグもモルテとディオスの最初の発言に驚いて硬直していたが、死神でラルクラスの弟子だからか隙あらば逃れようとするディオスの気配を察しては捕まえる手腕を繰り広げている。
驚きの色を浮かべたモルテが周りを無視してディオスが寝かされているベットまで駆け寄った。
「何故ここにいる!それもあの隠し通路を通って!?」
こうやって正面から向き合ってしまえばディオスがこの場所にいることが嘘ではないことが分かる。加えて今の状態だ。先程の話しでもしかしたら死んでいたかもしれないのだ。
だからモルテはディオスが例え理由があれど訪れたことを快く思っていない。
「ここに来るなど馬鹿げている……ただの観光で笑えることではない。それに、店番をほっとくのは見捨てられん!」
「おい!」
「ちょっと待てよ!」
せっかく心配したのだと聞こえていたのにどうして店番とアルフレッドとファビオが同時に突っ込み、全員が目を点にする。
「何でそこで店番なんだよ?」
「働いている者が少ないからに決まっているだろ」
「それでも休暇ってものがあるだろ?」
「突っ込むところはそこじゃない!」
ファビオの追及がこのまま流れるのを感じたハロルドが突っ込むも効果はいまひとつ。
「葬儀業は人間が亡くなれば休暇などないのだ。突然亡くなった時に誰もいないから引き取れないとなれば笑えんだろう」
「どれだけ厳しい環境だよ。俺が言えたことじゃないけど」
方や葬儀業、方や新聞記者。どちらも下手をすれば休暇など潰れてしまう職業だ。それでも有給休暇というものがあるのではないかと思う。
「それに、私の店は3人で切り盛りしているのだ。私が抜けている所をディオスまで抜けてしまえば回らんでのだ」
実際はミクを入れれば4人なのだが、ミクは春から学園に通い始めた為に数には入れていない。
「どれだけ少数なんだよ……」
「脱線し過ぎだ!」
モルテの職場事情の告白に落胆するファビオ。それを冷たい目をしながらハロルドが突っ込みを入れる。
ハロルドの突っ込みで話が区切られたことでモルテの視線は改めてディオスへ向けられた。
「しかし、今回は今までの様に無事にすむという話ではない。結界が弱まっている期間、死神は弟子をサンタリアに一人で送り出す気はない。力を持っていない関係者は特にだ。アイオラが時を見なければ悪魔に殺されていた。レナードやアドルから聞かされなかったのか?」
モルテの厳しい表情と言葉は天族ケエルと類似している。だからこそディオスは深刻さを理解していた。
アイオラが魔眼でディオスを見つけたから助かったと死神は思っているが、話しはそれほど簡単なものではない。その事実を知っているのは恐らく管理者で天族であるケエルのみだろう。
ケエルが見た光景ではディオスは死んでいた。それも悪魔に見つかってすぐに。
それでは今後に影響するとしてアイオラに魔眼で伝えるも別の場所へ赴いてしまった為に仕方なく保護。しかし、それで死ぬ未来が変わったわけではなく先伸ばしにされただけ。
ディオスと話し考えた末に加護を与えて死の未来が大幅に変わるように手を加えて、今ディオスが生きている未来となったのだ。
また、加護に至っては個人の気持ちと別の理由があるのだがそれはケエルの心の中へと納められている。
ディオスは貧血ぎみながらも頭を回転させて説明が最低限で終わる言葉を言う。
「レナードさんの頼みで俺はここに来ました」
「何?」
「レナードさんだけじゃないです。ヘルミアに集まっている死神から頼まれたんです」
ただ誤って隠し通路に踏み込んだものと思っていたが、予想していなかった人物、及び大多数の死神からの頼みで訪れたと言ったディオスに全員が驚く。
「隠し通路はレナードさんから聞きました」
「そういえば管理者の結界を無視して隠し通路を全て把握したと言っていたな……」
「さすがは《領域の魔術師》、実力が桁違いです」
隠し通路の真相がレナードからと聞かされたラルクラスは8年前の話を思い出して、オティエノは自身でも出来ないことをあっけなくやってしまうことに頭を抱えた。
落ち込むこととなったラルクラスの様子にハイエントは溜め息をつくとディオスに尋ねた。
「それで、向こうの死神が君を危険な目に合わせてまで伝えたいこととは何だ?」
「順を追って説明します」
そう言ってディオスは上半身を起こしたままレナードから聞かされたこと全てを話した。
それは思ったよりも長く深刻なものであり、部屋にいた全員が驚くことばかりであった。
「何てことだ……」
「外と連絡が着かなかったのはそれが原因か」
「それにサンタリアで行方不明事件が起きていたなんて」
「これは警備員の方が怪しい。調べる必要がある」
各々が話しに衝撃を受けて口にする中、全てを受け入れたラルクラスがディオスに感謝を伝える。
「危険を冒してまで伝えてくれてありがとう。感謝する。しかし、悪魔に見つかったとなると俺達が付いて外へというのは危険がある。すまないが全てが終わるまでこの区画から出ないようにしてもらいたい。その間は客人として迎える」
「え?……は、はい」
ラルクラスの言葉に貧血によって全て言い切ったことで緊張感を切って安堵したディオスは突然振られた話に思考が追いつかないまま流れで頷く。
そんなディオスを表情を強張らせるモルテとは別に他の七人の死神は感慨深く見る。
「それにしてもよく生きられたものだ」
「それなのですが一つ確認を」
「何でしょうか?」
ヴァビルカ教皇の発言に意識が向けられる。
「アイオラ殿、悪魔は彼に呪をかけようとしていませんでしたか?」
「……命を対価にして使っていたと思います」
「まさか!」
アイオラの告白にハロルドが声を上げたが、それは違うとヴァビルカ教皇が首を横に振った。
「今回ほど管理者に感謝したことはありません」
「どういうことですか?」
「ハロルドは知らなくて仕方ないか。彼が運ばれて来た時、呪が感じなかったんだ」
オティエノとヴァビルカ教皇の言葉にどういうことだと視線を向ける。
「恐らく彼はここの管理者から加護を与えられたのでしょう。それも呪や力を受けない守りと私達でも見ることが出来る異形を見る目を。特に守りの加護がお強い。天眷術に振られる力を守りへ回したのでしょう。守りにいたりましては私とほぼ同じです」
「嘘だろ!?」
時間をかけてディオスに与えられた加護を見た嘘偽りない言葉に異常すぎると驚く。
「しかし、そのお陰で助かったと言えますな。守りの加護がお強くなければ、彼はあの場で亡くなっていたはずですから」
「うわぁ~……」
命の瀬戸際となった出来事にディオスは命の危機を感じて引いてしまった。




