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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
10章 教皇選挙(後編)
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変わらなかった未来

 その頃、暗い隠し通路を全力で駆けるアルフレッド、アイオラ、ヤードは聞こえてきた声に一瞬驚くもすぐに表情を強張らせた。

「これは!随分と叫びますね」

「そうだな。けど、お陰でまだ無事ってことが分かる」

「ええ」

 進行方向から聞こえた若者の声だが、3人は安堵することがない。

「それよりもさっきの言葉ですが……」

「アイオラ、何が見えている?」

「悪魔と生霊リッチの姿です」

「生霊だと!?……いや、悪魔なら生霊を操るのは簡単か」

 生霊が隠し通路にいることを驚くアルフレッドだが、すぐに考え直す。


 悪魔はどういうわけか生霊や不死者アンデッドを操ることが出来るのだ。

 悪魔の階級により操れる強さの上限は決まっているが、何もせずに難なく出来る、数に限度がない。


 それが出来ると知っている死神は悪魔が生霊を向けていることを不思議には思わない。

「今はまだ大丈夫ですが……」

「追い付かれるのは時間の問題か」

 アルフレッドの予想をアイオラは頷いて肯定する。

 死神の身体能力のお陰で叫び声が聞こえたがまだ距離がある。

「なら、急ぐしかないな」

 そうして死神の力を足に集中させて先程よりもさらに早く走る。


* * *


 ディオスは既に後を確認するのをやめて走ることに集中していた。

 背後には嫌というほどの生霊が追ってきているのだ。そんな存在をただ距離を測るだけの為に見る気はない。

「はぁ……はぁ……」

 何よりも、全力で走っているから息苦しいのだ。それでも、足を止めてしまっては追い付かれることが分かっているから止めることも出来ず、だから何がなんでも足を動かして走るしかない。


 考える思考も放棄してただ走ることだけに集中していると、何かがディオスの真横を通り過ぎた。

「!?」

 不思議と目視出来たことに何かと思っていると、背後からけたたましい悲鳴が唸りを上げた。

「何!?」

 驚いて振り返ろうとして、またすぐに何か、人が通り過ぎたのを目視する。

 その直後、また卯なり声が数度聞こえた。

 本当に何が起きたのか分からず確かめようと足を止めようとして、勢いと動作が合わずによろめく。

「うわっ」

 一歩二歩と後退しながらも何とか体勢を立て直している間にも両脇から誰かが通り過ぎる。

 そしてようやく確認出来たのは、抵抗出来ないまま生霊が死神と思われる3人によって刈られていく様子であった。

「……すごい」

 圧倒的光景にディオスはそう言うしかなかった。


 茫然としていると女性の死神がディオスへと駆けて来た。

「大丈夫ですか?」

「あ、はい」

 突然声をかけられたことに驚いたディオスだがすぐに頷いた。

「アイオラ!彼で間違いないのか?」

「はい!」

「それではすぐに片付けてここを離れましょう」

 無事の確認と保護が出来たと知り残り二人の死神が生霊の駆除の手を強める。

 さらに呆気なく殺られていく生霊の光景にディオスはまた茫然とする。


 すると突然、アイオラがディオスの手を思いっきり自身へ引っ張るとそのまま背後へと押す。

「えっ!?」

 何が起きたのか分からないディオスはそのまま、いつの間にかフラフラになってしまった足が体を支えきれずに転倒する。


 アイオラは動作の動きを切らすことなく月鎌ハルパーで突然床から土煙を上げて現れた悪魔の攻撃を防いだ。

「ちっ!」

 防がれた上に爪が月鎌ハルパーと均衡したことに攻撃を仕掛けてきた上級悪魔は大きく後退した。

「あれは!」

 ディオスはその悪魔、狼顔の悪魔が追い付いたことを知る。

「他の悪魔を食べて上級に上がったんですね」

 過去を見て言うアイオラ。その言葉にディオスは嫌な寒気を感じた。

 それが本当なら先程のモグラの悪魔は狼顔の悪魔に力負けして喰われたことを意味している。

「死神には関係ない。邪魔するなら貴様も喰らう」

「他の悪魔と同じことを言っても説得力ありません!」

 迫り来る狼顔の悪魔をアイオラは月鎌ハルパーで受け止めるとすぐに弾き飛ばして二度振るう。

 鮮血が飛ぶがまだ息耐えていない。

「くっ……そ……」

 狼顔の悪魔にとって思った以上に深手を負わされ顔が歪む。


 アイオラが追撃しないのは背後で守るディオスとさらに後ろで無数の生霊を対処するアルフレッドとヤードという均衡を崩さない為である。


 しかし、それがアイオラが先程まで見ていた未来の一部を変えることとなる。

「……舐めるな……舐めるな舐めるな舐めるななめるなぁぁぁ!!」

 発狂して遠吠えを上げる狼顔の悪魔に吊られて数を減らしていた生霊が増える。

「これはまた……」

 生霊が増えたことに驚くヤードだが、すぐに問題ないとしてアルフレッドと継続していた作業の延長をする。


 雄叫びを上げた狼顔の悪魔だが同時に隙も出来、アイオラが突き刺した月鎌ハルパーにより途中で止められ、突き刺した月鎌ハルパーがそのまま上へと振るわれて肉を切られ、新たな血が口から吐き出る。

 その躊躇ない振るまいにディオスは声が出ず茫然となる。


 その時、


「なめる、なぁぁぁ!!」

 狼顔の悪魔が最後の抵抗と気力と残りの命と全ての力を片手の爪へと集約させると降り下ろす。

 予想外の一撃の出だしにアイオラが狼狽えた。


 アイオラが見ていた未来では先程の一撃で狼顔の悪魔は息絶えるはずであった。それが土壇場で魔眼が変わったと教える。

 突然未来が変わるのは何度もあった。その為に最悪のことを起こさせないと決めたアイオラであるが今回はその最悪、対応仕切れないタイミングに変わったのだ。


 結果が分かっていてもアイオラはこれしか、せめて少しでも変わってほしい、外れてほしいと斬撃を放とうとする狼顔の悪魔の腕を切り落とす。

 しかし、腕の切り落としと斬撃が同じタイミングで行われた。

 斬撃は放たれるも支えがなくなったことで狙いが逸れてアイオラの真横を通過する。

 これで今度こそ狼顔の悪魔は事切れたが、斬撃が自分に向けて放たれていないことを知っているアイオラは大急ぎで振り返って叫んだ。

「避けて!」

 狼顔の悪魔は最初からディオスに意識を向けて放っていたのだ。それも強力な呪を乗せて。


 狼顔の悪魔が倒れそうなことに油断していたディオスはアイオラの声に驚いて、目前の危機に察した時には上半身右側に斬撃を食らって体が吹っ飛ぶ。

「……!」

 吹き出す血とそのまま倒れたディオス。その光景を時間がゆっくり流れたようにしっかりと目にしてしまったアイオラは慌てて駆け出して救援を呼ぶ。

「ヤードさん!」

「どうし……アルフレッド、ここは頼みます!」

「ああ!」

 突然呼ばれたヤードは振り返るとすぐに事情を察してアルフレッドに全てを任して向かう。


 アイオラの顔は青ざめていた。

「ヤードさん……!」

「すぐに止血を!」

 羽織っていた上着で気を失っているディオスの傷口を縛る。

「攻撃を受けた時に気を失ったのですね」

 気を失って動かないでくれたことが幸いと手早く終えたヤードはアルフレッドを呼ぶ。

「アルフレッド!彼を死神デスの元へ!あなたの足が一番早い!」

「分かった!」

 答えるとすぐにアルフレッドは反転してディオスを抱えて走り、残ったアイオラとヤードが残った生霊を刈り取る為に居残りすれ違う。


「しっかりしろよ!」

 止血している上着がどんどん血で赤く染まるのを見ながらもアルフレッドは気絶しているディオスに確りしろと語りかける。



 アイオラが見た最初の未来、現在は変わるなとがなかった。

ケエル「僕が教えたんだけどね」

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