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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
10章 教皇選挙(後編)
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ケエルの試練

 ディオスに対するケエルの指摘はさらに続いた。

「それにね、ここが今とんでもないことになっていると知りながら訪れるって簡単に決めたものだよ。それで無事に済むと思ってたのかい?」

「思っていません」

「口では簡単に言えるけどそうじゃないってさっき思い知ったばかりじゃないかな?」

 その言葉にディオスはぐっと口を閉ざした。


 レナードから隠し通路は安全だろうと聞かされていたからかそこまでたどり着く、サンタリア内部で不審なこと、人物に会わなければ大丈夫と思って油断をしていた。

 悪魔に追いかけられるまで危険な場所になっているから注意しなければならず、もし悪魔と遭遇したらどうするかということを考えていないとは言いすぎだが、精々が逃げるくらいだとどこか諦めもあってそれらのことを放棄していた。その認識の甘さがケエルが述べた通りと痛恨もしている。

 何より、その時に初めて見た悪魔の見つめ方。生霊リッチとは違った目の色で吟味するそれは恐怖を感じせれば人間が見て、知る必要がない存在である。


 ディオスが浮かべた表情にようやく自分の甘さを認識したかとケエルは畳み掛ける。

「いくら恩人だからって命がけのことをするもんじゃないよ。それにディオス君は僕達と違って力を持っていないのだからなおさらだよ」

 力はいわゆる戦いだけではなく防衛手段のも意味している。なければ何もすることが出来ずに獲物として狩られて喰われるだけ。

 今回は力を持つ者の出来事だからディオスは関係ないと遠回しに言う。

「力を持っていようが持ってなかろうが関係ないと思います」

「それはどうしてかな?」

 ディオスの思っていなかった反論にケエルは驚く。

「何かをするってことに力がないことは関係ないと思うからです」

「普通ならそうだね。だけど専門と言うのもある。その前じゃ技術や知識には勝てないよ。今回は死神がそうだよ」

「はい。でも、今回は死神じゃ出来ないことがある。だから俺は引き受けたんです」

「それはディオス君でなくてもいいことだよ?」

「分かっています。でも、俺に必要だと、頼むと言われなければここへは来ていません。ここにいるのはその気持ちに答えたいと思った俺の気持ちもあります」

 ここへ何故訪れたのかありったけの思いをディオスはぶつけた。

 その言葉を受けてケエルは目を細くした。

「ふ~ん……弱いね」

「え?」

「弱いんだよ!それって頼まれたら断れない典型的タイプの優しさなんだよ!」

「えっ!?」

 ケエルの言葉に今話したこととそれは内容と流れからして繋がらないのではとディオスは戸惑う。

「本当に君は甘いね。甘ちゃんだよ!後先考えないで首突っ込んでは命の危険にさらされる。一度二度じゃないのに何度も繰り返しては皆に心配かけてしまったっていう実感がなさすぎる!」

 何だか過去を知られている気になるディオスだがケエルの暴走を止めに入る。

「えっと、それは関係ないのでは……」

「大いにあるね!ディオス君がしていることは僕等第三者からしたら勝手すぎる!大いに勝手だよ!」

 その言葉にディオスは表情を強張らせて意識せずに拳を握っていた。

「勝手、ですか……」

「そう勝手だね!自分が出来ることだから、頼まれたからって周りの気持ちを無視して決めるのはどうかと思うんだよね」

「けれども、最後に決めるのは俺になります」

「そうだね。後先考えないで決めてしまうことを勝手。ディオス君はその勝手に対する責任を一人で背負うことが出来るのかい?」

 責任と言われてディオスは頭の中で反復する。


 ケエルが言う責任とは、この場でもし死んでも文句がないかと言っている。

 それはレナードからも言われていた。むしろレナード達死神はこの件を全てディオスに任せる、責任を負わせることを申し訳なく思っている。

 けれども、ディオスはそれは違うと考えている。


「おかしいことを言わないでください。責任は初めから背負っているんから責任なんです。背負わない責任は責任じゃなく無責任なだけ。勝手と言うのなら無責任な者だけに言ってほしい。責任を負った者に勝手と言わないでもらいたい!」

 勝手という言葉が嫌いなディオスの持論にケエルはキョトンとして、口から笑いが溢れた。

「あはははは!はぁ、こう言われたら完敗かな?試して悪かったね」

「は?」

 ケエルの言葉に今度はディオスがキョトンとする。

「実はね、ディオス君に色々言ってもこの件から引かないことは未来を見て分かっていたんだ。だから、どれだけ優しくて頑固なのか知りたくなったんだ」

「……何ですかそれ?」

「そう言うことだって理解してくれないかな?」

「理解してほしいならちゃんと説明してください」

「嫌だね」

 ケエルに拒絶されてディオスはムッと顔を歪める。

 ケエルとしては結局話しても話さなくても結果が同じになるだけだから話すのがめんどくさいだけなのだ。

「それでね、このままじゃさっき言った通りディオス君は悪魔に殺されるかもしれない」

「かも?」

「未来は何も知らなければ一つの行動で変わるものなんだ。それに、中には未来が見えない者もいる。そうした者がいると未来はさらに見えにくい。だから確定していない未来にかも、と言ったんだ」

「なるほど」

 あやふやな言い方にディオスは納得する。


「それで、本当なら七人の死神(デュアルヘヴン)に迎えに来てもらおうと思ったんだ。ちょうど僕と同じ力を持つ死神がいたから教えたんだけど、まったく別の場所に行っちゃって、それでここに招待したんだ」

「はぁ……」

 ケエルと同じ力を持つ死神な少し不安を感じたが、次の瞬間にケエルは生真面目な表情となっていた。

「けれど、ここにずっと居させることと直接ラル君の所に送らせることは出来ない。だから、ディオス君には七人の死神(デュアルヘヴン)と合流するまで頑張ってもらいたいと思うんだ」

「え?、それはつまり、さっきの場所からってことですか?」

「そうだね」

「待ってください!いきなりそんな……」

「これは僕からの試練だよ。頑張って乗り越えてね」

 急に試練と聞かされてディオスは慌てる。

「拒否権も説明もなしですか!?」

「今話したじゃないか。それに試練ってのは乗り越えられない試練は与えないよ。乗り越えられないのならそれはいじめだからね」

「だから待って!心の準備も何も……」

「それからこれは特別。ここにいる間は僕の加護を与えておくから悪魔と向かい合っても少しは安全だよ」

「だから待って……」

 ディオスが喚くがその瞬間、座っている椅子が急上昇を始めた。

「無事に乗り越えられたならまた会おうね」

 遠ざかるディオスの悲鳴にケエルは再会を願うのであった。

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