白羽の矢
「……え?……はい?」
ディオスは目を丸くしてレナードを見た。
モルテと連絡が着かない死神の問題のはず。それなのにレナードが何故こうした頼みをするのか分からない。
「待てよ!何でディオスにそんなことを頼むんだ!これは死神の問題だろう!」
それはファズマも同じでありレナードに言う。
しかし、次に帰って来たレナードの言葉は予想外であった。
「死神じゃどうしようもない問題だからだ」
「はあ!?」
驚くファズマだが、レナードが言ったことに他の死神は誰一人としてそのことを追及しない。むしろ思い詰めているようである。
「レナードさん、どういうことですかそれは?」
殺気立ちつつあるファズマを余所に僅かに頭が回り始めたディオスが尋ねる。
レナードは深く息を吸うと腕組をして今回の真相と目的を話始めた。
「悪魔によって連絡が途絶えたと言ったがそれだけではない。サンタリアに死神が入れないのだ」
「死神がですか?」
「そんなことあるのか?」
「今までなかったことだ。だからディオスに頼むんだ。サンタリアに行ってほしいと」
ディオスをまっすぐに見るレナード。
ディオスはどうしてここまでレナードが自分を必要としているのか分からず戸惑う。
「待ってくれ!そんなもの死神で何とか出来るものだろ?」
「出来ないからディオスに頼んでいるんだ」
「何でディオスなんだ!」
「ディオスが死神の力を持っていないからだ」
ものすごい力を持つ死神が出来ないことを何故力を持たないディオスが出来るのかと二人は訳が分からなくなる。
「奴等はサンタリアの周りに悪魔囲い、死神で例えるなら領域だ。それを使って死神を認識している。加えて壊そうにも力を拡散させて壊すのは困難だ」
「困難ってことは不可能じゃないってことですか?」
「壊すことは出来るが簡単ではない」
「だったらそれをすればいいだろ?」
悪魔囲いを壊せるのならディオスは必要ないと言うファズマだが単純なことではない。
「悪魔囲いを壊すには時間がかかる。それよりも先に教皇選挙で教皇が決まるまでに出来るかが問題だ」
「教皇が決まることが問題ってどうしてですか?」
「教皇が決まると同時にサンタリアに侵入している悪魔が一斉に動き出す可能性があるからだ。死神を殺すチャンスがそれで最後になるからだ」
最後と聞かされてディオスは少し考えた。
「つまり、早くても明日の1回目で決まってしまうってことですか?」
「そうだ」
「でもどうしてそんなに急ぐんですか?悪魔囲いを壊せるのなら俺は必要ないはずです」
「急ぐ必要があるからだ。今、ヘルミアはサンタリアに行った観光客300人以上が戻って来ない行方不明が発生している。そして今日になって1割がヘルミアで見つかった。これはヘルミアとサンタリアで繋がっている。それが大きくなれば悪魔の狙いがされやすくなる。そのことをすぐに伝える必要がある」
ようするに時間がないことは分かった。
「だからってディオスに悪魔がいる場所に行かせる必要ねえだろ?そんな場所に死神が行けねえってのなら弟子に任せればいいだろ!」
「それを俺達が考えつかなかったとでも思うか?」
ヘルミアにいた時、死神達は何としてでもサンタリアに入ろうとしてあらゆる手を使った。
その内の一つに死神の弟子を向かわせると何人かの弟子を行かせたのだが、正門で止められて入ることが出来なかったのだ。
そこから死神達は悪魔囲いが死神の力を持つものを感知して、それを魅惑などで操る人間に伝えているのだと見方をつけたのだ。
力を持たない人間相手だと死神は手出しが出来ない。そこを悪魔は上手く向けたのである。
そのことをレナードは伝えると、ファズマが知らず知らずに怒りで拳を握る。
「だから力を持っていないディオスにやらせるってことか」
「時間がないのは確かだがやるかやらないかはディオスが決めることだ」
再びレナードに指名されてディオス体を固くする。
「死神が出来ないことを普通の人にやらせることは避けたいことだ。だがな、悪魔が考えつかないことをやらなければ俺達は詰む」
死神にとって危機的なことなのだとレナードは言う。
「伝えるのは誰でもいいと言うわけではない。今回呼ばれた七人の死神の関係者だけで他の死神は巻き込まない。その条件が全て当てはまるのがディオスだけだ。」
そう言われてディオスは口を強く結んで顔を伏せた。
そんなディオスの様子にファズマはレナードに尋ねた。
「他にいなかったのかよ?」
「他の七人の死神の関係者は全員が死神の弟子として力を持っている。持っていないのはディオスだけだ」
どうやら本当にディオスだけなのだと悟ったファズマはゴンッと拳でテーブルを叩いた。
確かにディオスは一般人でありながら死神と関係を持ちすぎてしまったが大きな出来事に巻き込ませるつもりはなかった。
だから何とかして避けたかったのだが状況と都合がそれを許さないのだと理不尽に思う。
「悔しいのは分かるなファズマ。まさか俺達が手も足も出ない状況になると思わなかったからな」
その気持ちを汲み取ってマオクラスが声をかけた。
話しはレナードがディオスとファズマよりも先に呼んでおいたレオナルド達に伝えていたのである。
始めは困惑したが事が事、しかもそれをヘルミアの死神が苦渋の末に決めたこと。そうなると他の死神は反対はしても成り行きを見届けて受け止めることしか出来ない。
だからレナードの説明にレオナルド達は誰一人として質問や追及をせずにディオスを見ていた。
しばらく伏せていたディオスは顔を上げるとレナードに尋ねた。
「仮にですが、俺が断ったらどうなりますか?」
「時間は掛かるが悪魔囲いを破壊して入るしかない。それまで教皇が決まらなければいいんだ」
「……そうですか」
自分がやる必要はない。けれども時間はかかる。
加えて悪魔囲いを壊す方が圧倒的に上手くいくことが分かる。わざわざ危険をさらす必要はない。
ディオスの気持ちはそれで決まってしまった。
「行きます」
その言葉に全員が驚きの様子を浮かべた。
あまりに予想外なことにファズマがディオスに詰め寄る。
「何言ってんだディオス!さっき聞いただろうが!時間かかるが悪魔囲いを壊せば入れるって!」
「分かってる」
「分かっているなら何で行くってなるんだ!サンタリアには悪魔がいるんだぞ!そんな場所にディオスが行く必要ねえぞ!」
危険な場所となってしまったサンタリアに行かせるつもりがないファズマは懸命に止めにはいる。
しかし、ディオスの決意は決まっていた。
「確かに俺が行かなくても解決することだけど、俺が店長に恩返しすることが出来るのはこれしかないと思うんだ。それに、サンタリアはそれがあっても入ることを禁止しているとは思えない。もしかしたら行方不明者が増える一方だ。だから俺が伝えに行く。伝えて何とかしてもらう」
そう言ってディオスはあることの確認をする為にレナードに尋ねた。
「レナードさん、悪魔が観光客を集めているってことでいいんですよね?」
「そうだ」
「もしかして悪魔は生霊と同じで人の魂を食べるんじゃないですか?」
「……あとで悪魔のことをより詳しく教えるはずだったのに気づくとはな……」
ディオスの観察眼にレナードはおろかレオナルド達死神とファズマは驚いてしまった。
ディオス以外知っているそれを何故気づくことが出来たのだろうか。
「どうして分かった?」
「生霊と同じで死神なら犠牲者は出したくないと思ったんだ。それで悪魔を生霊と置き換えて人を集める理由はと考えたら魂かと思ったんだ。」
普通置き換えて考えるものかと思ったが実際にはディオスが言った通りであるからこれまた全員が驚く。
ディオスは言うだけ言うとレナードに向かい合った。
「レナードさん、俺にその役目やらせてください!」
ディオスとしては死神と関わりたくないと思っていても今回はそんな我が儘が通じないことを分かっている。
だからやると決めた。その気持ちを気迫と共に訴えかける。
ディオスの言葉を聞いたレナードは数秒黙り込むと深々と頭を下げた。
「ありがとう。そしてすまない」
諸事情により22、23日の投稿は21時になります




