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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
10章 教皇選挙(後編)
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阻害される死神

 行方不明になっていた観光客が見つかったという知らせにヘルミアにいる死神達の動きは慌ただしくなった。

 奇跡的に1人なら表情は綻んでいただろう。しかし、10や20という数ならどうだろうか。

 行方不明になった一割程とはいえヘルミアで一気にこれだけの数が見つかったとなると喜ばしいことではなく怪訝に思い、同時に不穏に感じてしまう。

「メサはジョルジュと、エジェはルーベンと合流をしてくれ。他はまだ見つかっていない行方不明者を探してくれ。悪魔は一部の死神に対処を任せる」

「よし!」

「それじゃ行ってくるぞ」

 オウガストに指名されたメサとエジェは領域でそれぞれ合流する死神へと跳んだ。

 他の死神もオウガストの指名と指示に短く言葉を交わすとそれぞれがいた場所からあっという間に目的地へと跳んでしまう。

 悪魔を対処する死神はしばらく一人で動くことが分かっている為に対応力が高い者が選ばれて指定の場へ跳ぶ。

 悪魔の対処に人員を割くほどこの出来事は大きいのである。


 ところで、殆どの死神が行方不明者発見に対応している中で鳩の宿ではオウガストの他にダーンとミゲルが残っていた。

「二人とも、これをどう思う?」

 渡りの伝達文箱(メールボックス)の点検をするダーンとあえてミゲルを残したオウガストはこの不可解について尋ねる。

「行方不明者を見ないと何とも言えないが、もし本当に行方不明者だったなら、悪魔が手放したとしか思えないな」

「……考えられんな」

「本当ならだ。それに悪魔が何もしないで手放すことはあり得ないだろ?悪魔に操られているかもしれないのだからな」

 ヘルミアで見つかった行方不明者には悪魔の息がかかっている可能性を示唆する。

「すると、行方不明者を送って来たということか。目的は……こちらを動けなくすることか?」

「そうかもな。現にそっちに人員持っていかれているからな。」

 まんまと悪魔の思い通りに動いたことになったとオウガストは頭を抱えるが、ミゲルはまだ頭を捻っていた。

「しかしな、俺達は慣れるからそれだけじゃないだろうな。もしかしたらヘルミアでも一暴れするかもな」

 ミゲルの洒落にならない推測にオウガストは勢いよく椅子から立ち上がるが表情は僅かに青ざめていた。ダーンも点検の手を止めてミゲルを凝視するが表情は青くなっていない。むしろあり得ることだと納得している。

「行方不明者を利用する気か!」

「操られているならそあだろうし、操られていなくとも悪魔の餌食だろうな。もしくは……」

「……どこまでも外道な……」

「奴らにとってただの人間は替えの利くおもちゃだからな」

 悪魔の非人道的やり方と思想に3人は嫌悪を抱く。

「だがな、俺が記憶している限りこんなことは初めてのはずだ」

「大体どれくらいだ?」

「300年くらい間だな」

「そうか」

 少なくとも300年間は悪魔のやり方に変化がなかったことに複雑に思う。

「むしろその間に何一つ変わることがなかった方がすごいと思うが?」

「下級や中級が中心なら代わり映えしないだろうな」

 上級悪魔は別であるが確かに代わり映えがないのはどうかと思って頭を抱えてしまう。


 そんな話をしているとオウガスト達がいる部屋にレナードとエステルが入って来た。

「今戻ったよ」

「お帰り。それでどうだった?」

「駄目だ。見張られているか完全に塞がれていた」

 レナードとエステルの報告に3人は眉を寄せて悔しがった。


 レナードとエステルは悪魔囲い(フラグマ)を調べるついでにサンタリアへ侵入する隠し通路の確認をしていた。

 サンタリアにはいざという時の為に隠し通路が存在している。中には教皇や死神デスしか知らないものもある。

 そうしたものをレナードとエステルは調べ歩いたのだが、知っているものと新たに見つけたサンタリアを囲む壁付近にある隠し通路の入り口全てが悪魔によって常に監視されているか入り口を塞がれているかのどちらかであった。

 ヘルミアで起きていることをサンタリアにいる死神デス達に知らせて対応の準備をしなければ最悪の事態になる恐れがあったが、悪魔に先手を打たれていたのだ。


「監視は下級や中級だが、倒して他の悪魔に知られると厄介だ」

「倒すこと事態は問題ないが……か」

 仮に強行突破してもサンタリアに侵入したであろう悪魔が対処しに来たり、ヘルミアで大暴れされたら街に被害が出てしまう。

 最悪の状況は何としても避けたいオウガストはどうするかと悩み始める。

「そういや、全部って言ってたが、何で悪魔が隠し通路の入り口を知っているんだ?」

「知らないな。もしかしたら長い時間わかけて調べていたのかもしれないな」

「本当に気が遠くなることを普通にするな」

 悪魔の粘り強さには呆れてしまうと肩を落とす。

(だが、300年も代わり映えがない侵入と突然の行方不明者の発見。それと隠し通路の封鎖か。これはもしかしたら今回で死神デスを殺す気か?)

 変化がなかったことが今回に限って突然変わったことにミゲルは悪魔の狙いはこれでないかと考えつく。


「とにかく死神デスには知らせるしかない」

「そうだな。ヘルミアの異変はサンタリアと繋がっていやがる。事がこれ以上大事になってからじゃおせえ」

 ミゲルの意見にダーンが肯定するが、まだ悩んでいたオウガストが重い口調を開いた。

「しかし、俺達の侵入方法は全て塞がっている」

「それなんだけれど、一つだけあるな」

 オウガストの困惑を遮るようにエステルが口を挟んだ。そのエステルもどことなく険しい表情を浮かべていた。


 そしてエステルは恐らく唯一と言っていい方法を教えた。

 その方法は死神が最も避けたいものであり、すぐに反対意見が出た。

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