領域と悪魔囲い
鳩の宿に戻ったレナード達は既に集まっているだけの死神にサンタリアを囲んでいるものについてこれまで調べたことを話した。
なお、現在鳩の宿にいない死神は後程オウガストから教えてもらうか領域による会話で参加している。
「……ということだ」
代表してエステルが言ったことを聞いた死神全員が険しい表情を浮かべる。
「思った以上に厄介だなそれは」
「厄介というよりは不気味と思うね私は」
「それはあれか?領域と似て非なるからか?」
「そうだね。こればかりはもう少し調べないといけない。だから皆の意見を聞きたいな」
意見と言われても少し考えさせてほしいという中でミゲルが挙手する。
「それじゃ俺からいいか?」
「何かな?」
「サンタリアを囲んでいるのをさ、あれ、それって言うのはもうどうかと思うんだ。だからここで仮でも何でも統一の名称作らないか?」
もっと鋭どく深刻で複雑なことを予想していたが、出てきたどうでもいいと思う提案に沈黙が漂う。
「……お前は……何を言い出すんだ馬鹿者が!」
「馬鹿じゃないから!これも結構深刻と思うけど?」
「どういうことかな?」
怒鳴るダーンをよそに全員の注目がミゲルに向けられる。
「サンタリアを囲んでいるあれが今回だけの事象とは限らないってことだ。もしかしたらこれから別の場所でも現れるかもしれないだろ?だからここで名称を作って後々困らないようにした方がいいも思うわけだ」
「あ~、そういうことか」
「そう言われると確かに必要ね」
ミゲルの言葉に一理あると他の死神からそれは必要だと声が上がる。
「それじゃミゲル、何かいいのはあるかい?」
「あぁ……まんまだが悪魔囲いでいいか?」
「悪魔囲いか。覚えやすいな」
「そうだな。悪魔独自の言い方があるかもしれないが今はそれでいいだろうね」
サンタリアを囲っているものがエステルを中心として調べている為に、エステルの独断で悪魔囲いと死神の呼び名が決まった。
「それじゃ改めて悪魔囲いについて思うところはあるか?」
エステルが改めて尋ねると数人の死神が挙手した。
「ジョルジュ何かあるかな?」
エステルに指名されたジョルジュ・ボネ・アリオトが言う。
「死神の力が悪魔囲いによって弾かれたって言っただろ?その時と思うんだが悪魔囲いが歪んだって言うか震えたと言っていいか……遠くからだったがそれを見たんだ」
「俺もだ」
「私も見たよそれ」
ジョルジュの言葉にメサやサナリア、他二人の死神も見たと言う。
「どんな感じたった?」
「歪みが周りに広がっていく感じだったな」
「言われてみたらそうかしれない。歪んだって思ったらすぐに戻っていたよね?」
「そういや、ルーベンとエジェがいた反対側にいたんだがそこまで歪んでいたな」
「本当かよそれ?俺は近くで仕事をしていたからお前達が言う変化は少ないからな」
各々が悪魔囲いから感じたことをエステルは興味深いと思う。
「なるほど。話を聞いて仮説を立てたけれど、死神の力を拡散させたんじゃないかな?」
「拡散か?」
悪魔囲いの特性の一部に仮説を唱えたエステルはこう説明する。
「死神が使う領域は一点を強化させて攻撃を凌ぐだろう?例えば鉄の盾とかかな?」
「そうだな。初めて領域を使う死神はとにかく領域全体を固くする。そして慣れるとどんな形に展開しても攻撃を受ける場所だけが固くなる。それが殆どの死神が使う領域の特性だ」
エステルに解説をと目視で促されたトップクラスの領域使いであるレナードはそう説明する。
「その言い方だと他にもあるって聞こえるが?」
「そうだな。それが悪魔囲いの特性だ」
そうしてレナードはエステルにバトンタッチする。
「悪魔囲いは攻撃を受けると全体に力を拡散させて威力を減らす。歪みや震えたって言うのはそれと思うな」
領域とは全く違う特性に死神の驚きが浮かぶ。
「そんなこと出来るのか?」
「出来るな。領域使いが当たる壁には強固がある。だがそれだけじゃどうしてもやりきれない時がある」
「もしかして、受け流す方法を編み出すの?」
「そうだ。一点を集中的に極端に強固にするか受け流す方法のどちらかを見つける。殆どは前者だな」
そう言われて一部の死神以外はそうなのかと領域使いであっても初めて知ることに感心する。
「恐らくだけど悪魔囲いの強固はそれほど強くない。だから受け流す方法を取ったんだろうね」
こうして悪魔囲いの特性について話終えるエステル。
「だがな、強固だろうと受け流すだろうと欠点はある」
「欠点か?」
「受け止められねえほどの力に耐えきれねえということだ」
ダーンが言う当たり前のことでてつもなく重要なことのはずなのだが事情を知らない死神は頭に疑問符を浮かべる。
「あの悪魔囲いはまだ発展途上ってことだよ」
「どういうことだエステル?」
「言った通りさ。あれは死神と違って悪魔が張ったものだ。つまり……」
「悪魔が魂を食えば受け耐える力が増すってことか!?」
「そういうことだね。今も力は増しているだろうね」
オウガストとエステルのやり取りに死神は額や背中に嫌な汗を感じる。
「それとこれだ」
そんな死神達をよそにレナードはテーブルに置これている欠片を指差した。
「これが壁の近くにあったのも気がかりだ」
「……これについても調べないといけないのか」
「ああ」
「欠片の方は何か分からないけれど悪魔囲いと関係あるかもしれないからこれについても調べるつもりだね」
「……頼む」
頭を抱える問題をエステルが快く引き受けてくれることがありがたいとオウガストは心の底から感謝する。
「それで、明日だけれど……」
「ああ。教皇選挙は休みだ」
最後に遠くから見た煙が黒であることを確認している為にまだ教皇が決まっていないことが分かっている。
「それじゃサンタリアに人はそれほど入らないかな?」
「いや、観光客が増えるはずだからそれほど変わらないだろう」
ベルモットの疑問にルーベンは教皇選挙が行われている期間を避けていた観光客が押し寄せるだろうと予想して否定する。
「あ、観光客で思い出したんだけれど……」
ふと何かを思い出したサンタリアが申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
その言葉に死神はもう一つ頭を抱えることとなった。




