壁の周り
ヘルミアの街にはさらに人が溢れていた。
時間帯が昼に入ったこともあり昼食をとりに出掛けたり次の仕事に備えて移動したりと忙しなく動き始めたのだ。
それはもちろん死神達も同じこと。特にレナード、ダーン、エステル、ベルモットの四人は本格的にサンタリアの壁を囲んでいるものを本格的に調べる為に動き出した。
「……そうだ。全員に伝えておいてくれ」
領域でオウガストにこれからの予定と他の死神にたのむことを伝えたレナードはダーン達に声をかける。
「それじゃ始めるか」
「そうだな」
「ああ」
「具体的にはどうするの?」
意気込むレナード達をベルモットがやることが分からないと出だしをへし折る。
「……ダーン?」
「あぁ?教えればいいだろうがよ」
「それは師であり祖父であるダーンがやることじゃないのかな?」
「ここで保護者面してどうする?何でも教えねえで動くのが基本ってやつだろ!」
「いや、今回は事情が違うからそこは教えないといけないだろ?」
教えるのが面倒で死神として今回の出来事を経験として学ばせようとするダーンの方針にレナードとエステルがいきなりは無理だろうと方針の修正を訴える。
「ああ、これはいつものことだからいいんですよ。おじいちゃん、結構スパルタだから」
「いや、スパルタだからってことじゃないからな」
どうやらダーンがやることに慣れてしまっている為に事情を聞いて既に納得してしまっているベルモットにエステルは呆れてしまう。
(と言うよりもそれで納得していいのかな?)
などと色々と問い詰めたくて仕方がない。
ダーンの死神教育方針は一旦横に置くことにしてレナードがこれからすることをベルモットに教える。
「やることはこの囲っているものがどういったものか調べることはきちんと理解しているな?」
「はい」
「それで始めにやることだが、サンタリアを囲む壁を回ることだ」
「調べないんですか?」
「調べるからやるんだ」
死神であるからもっと難しく本格的なことをすると思っていたのだが予想と違うことにベルモットは改めて壁を見る。
目にはサンタリアを囲む壁と天族が張っているが不安定となっている結界、そして悪魔が囲っている何か。
一般人にはサンタリアを囲む壁しか見えないが、死神の目からは結界と悪魔が囲った何かも見えている。
「いきなり手を出して何かが起きたらマズイからな。壁の周りを歩いてどういったものかまずは目視からだ」
「結構手間に感じるけど、それはつまりこれの性質や特徴を探るってことでいいの?」
「やっぱり職人からするとそうなるのか。ああ、間違っているって意味じゃない。合っているから感心しただけだ」
普通ならこんなにもあっさり出ることでないからレナードは本震を伝える。
「それともう一つ、歩かなければ分からないことがあるからだ」
「……歩かないと分からないこと……点検と修理に置き換えるなと、傷に装飾の欠落に変色に部破損。それから……」
「まだ続く様なら答えを言うが?」
「ああ待って!……つまり、見て回っておかしな所がないか見つけるってことでいいかな?」
「そうだ」
ここまでいくのに随分長かったなと神経が磨り減る気がしていたレナードはようやくこの行動に気づいてくれたと安堵する。
「具体的にはこれに歪みがあるか、近くに何か、この場合は悪魔でいいな。それを探すのだよ。それを終えてから次、ベルモットが考えていた様なことをするのだよ」
「そうなんですね」
加えてエステルの補足によりベルモットはこれから行うことについて本当に理解する。
「それにしても考えが職人のものだ。普通の領域使いでもあっさり出ないよ。そうだなレナード?」
「ああ。マオクラフにも見習わせたいくらいの観察眼だ」
「そうかな?おじちゃんは見るものを見逃すなっていつも言ってるから普通のことと思ったんだけど?」
「あ~、やっぱりダーンの孫だよ君は」
もうこれが当たり前すぎているベルモットにエステルはこれについて論じても納得されないがそうであるとそのまま受け入れられることを察してこれについての話をやめた。
ベルモットが理解したところで今度こそサンタリアを囲む壁を歩くこととなった。
「さて、サンタリアの壁を歩くとなると一日以上は掛かる」
「死神には問題ねえと言いたいが悠長に時間とる暇なんざねえな」
「二手に別れるか」
「そうだな」
ただ歩くわけではないことと残り半日で終わらせるならとレナードの提案に全員が肯定する。
「私はレナードと行こう」
「それじゃ私はおじちゃんと行きますね」
別けるならこうなると変になることはなくあっさりと決まる。
「それじゃ向こうで会おう」
「はい」
「ふん」
そうして二組の死神は今いる場所から反対側で合流することを約束して分かれて歩き出した。
「ああそうだ!ダーン、もう歳なのだから無茶はしないようにな」
「年寄り扱いするな!」
「おじちゃん声下げて!」
分かれてすぐにエステルが余計なお節介をかけたことでダーンの怒りが響きベルモットに宥められるた。
しかし、エステルはそれが本当に余計なお節介とは思っていない。
「何であんなことを言った?」
この事について本心を捉えきれていないレナードの言葉にエステルの目元は笑っていた。
「ちょっかいをかけただけだよ」
「年上にするか普通は?」
「私がいるではないか」
全く悪びれもせずにいるエステルにレナードは呆れてしまう。
しかし、あの一言はどうも早く終わりそうな気がするとレナードは思うのであった。




