遺族と対面
すこしグロイ描写があるかもしれません
葬儀屋フネーラの霊柩車は新住宅街では比較的大きい病院の駐車場に止まった。
「ここに……」
ディオスは助手席から車を降りると病院を見た。
どんな気持ちかと聞かれたら分からないとディオスは答えるだろう。学友に会う、遺族に会う。そんなことよりもどの様な様子で向かい合えばいいのか分からないでいる。
「今日のところは仕事の様子見だ。無理に首を突っ込むな」
そんなディオスに運転席から車を降りたモルテが言う。まだ葬儀屋の仕事がどの様なものか知らないディオスに買い物ならまだしもいきなり仕事の商談をさせるつもりはない。
そうして二人は病院へと入った。まず足を運んだのは受付。
「失礼、葬儀屋の者だ。トライアー葬儀店から連絡を受けていると思うが?」
「葬儀屋フネーラですね。連絡は受けております。三階の西棟、受付までおねがいします」
話は元からついていたようでスムーズにことが進んだ。
「行くぞ」
モルテはディオスに一声かけると受付が指示した場所へと向かった。
その間ディオスは心臓の鼓動が鳴り止まないのをずっと感じていた。
「今回は遺族との顔合わせと遺体の状態確認。状態がよければトライアーまで運ぶ」
「状態確認ですか?」
西棟三階へと向かう途中にモルテが今回の仕事について説明を始めた。
「飛び降りたからな。体の損傷が激しいはずだ。場合によっては今は持ち出しが困難かもしれん」
モルテの言葉にディオスの表情が曇った。損傷と聞いてひどく開いた傷口を思い浮かべたからだ。
「確実に言えるのは頭は割れて体の一部が潰れていることくらいだ」
「うわっ……」
そんなことを思っていたらモルテからさらに酷い状態を聞かされて嫌だという感情が口から呟きとして出た。
「一昔前はそういった遺体の処置も葬儀屋が行っていたが今は病院といった医療施設が主にしている。商売上がったりだ」
そんなモルテの毒づく発言にディオスは気づいた。
「それって、店長もそういったことが出来るってことですか?」
「出来るも何も私の得意分野だ。エンバーミングから遺体の処置、解剖、解体。遺体に関することなら何でも出来る」
(うわぁ~)
当然というように答えるモルテにディオスは驚きのあまり引いていた。どうりで死体現象とかいう現象の仕組みを簡単に解説したわけだと思い至る。
そんな会話をしている内に二人は西棟三階の受付に着いていた。モルテは改めて受付と話をした。
「葬儀屋フネーラの者だが……」
「葬儀屋フネーラ様ですね。お待ちしておりました。ここから右へまっすぐ向かい二つ目の角を右へ。霊安室前でお待ちください」
ここでも話が通っていた為にすぐに指定された場所へと移動を始めたモルテとディオス。その足は知らぬ間に早足となっていた。
指定された場所の前には一人の女性が椅子に力なく座り込んでいた。
それを見たディオスはその女性に見覚えがあり誰かすぐに分かった。
モルテはその女性へと近づいた。
「カリーナ・ルダンのご遺族で間違いないだろうか?」
「……はい」
モルテの発言に女性、カリーナの母、マミューは戸惑うようにモルテに頷いた。
「始めに娘のご冥福をお祈り致します。私は葬儀屋フネーラ店長のモルテ。トライアー葬儀店の代わりにご遺体の確認ならびに店まで運ぶこととなった。」
モルテはマミューに一礼すると訪れた事情を話した。
「そうですか……あら?」
事情を聞かされたマミューはモルテの後ろに控えているディオスに気がついた。
「あなたは確か……ディオス君?」
「はい……」
「勤め先が決まったのね。おめでとう」
「ありがとうございます……」
マミューはディオスのことを知っていたようでモルテといるということは就職先が葬儀屋と気づいて祝福した。
そんなマミューにディオスは頭を下げた。素直に喜びたいが状況が喜べなかったからだ。
「モルテ!?」
その時、廊下の奥から男の声が聞こえた。
声の方に振り向くとそこには白衣を着た男がいた。格好からして医者と思われる。
「ディオス、私は医師から遺体の状況を聞いてくる。ここにいろ」
そう言ってモルテは医者と話をするためにディオスをその場に残した。




