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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
10章 教皇選挙(後編)
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最初の煙

 サンタリアの正午を告げる鐘が鳴ってからしばらく、ヘルミアにいる死神達は忙しなく動き回っていた。

「そっち行ったぞ」

「分かっている!」

 わざと悪魔を逃がしたエジェの掛け声にルーベンが狙っていたという様にタイミングを合わせて鎌で一振りして刈り取った。

「これで百越えたんじゃないか?いい加減嫌気がするな……」

 教皇選挙初日だからか一気に増えた悪魔の刈り取った数に呆れを越えて嫌と感じるエジェは疲れた表情を浮かべた。

「何言っているんだ?8年前はこの数に加えてお前達が飛ばした悪魔も刈っていたこっちの身になれ!」

「それはジェンソンとエステル姐さんとラティに言ってくれよ。俺は領域使いじゃないんだからよ」

 8年前の騒動を愚痴に含めて鋭い目付きで睨むルーベンをエジェは責任転換でこれを回避。


 事実、エジェは悪魔に直接手を出して追い出してはいないのだから愚痴を言われても困ると思っている。

 エジェの得意分野はトラップを仕掛けたり陽動というもの。それに平均以上の接近戦を身に付けているのみ。領域は殆どの死神が身に付けているもの程度である為に領域使いでない。それ故にサンタリアの外まで飛ばすことは不可能なのだ。

 最も、ジェンソンの様に死神の武器と腕力だけで悪魔を飛ばす死神もいるが、少なくともエジェにその様な芸は出来ないのだ。


「止めなかった時点で同罪だ!」

「止めたらこっちが吹っ飛ばされてるから」

 しかし、そんな言い訳はルーベンには通じず、仕方なく冗談混じりの遠回しで無理と伝える。

 一気に不穏な雰囲気が漂う。

「おーい!」

 そんな雰囲気に真上から二人に声がかけられた。

「そっちはどう?」

「今悪魔を刈ったばかりだ」

「そっか」

 声をかけてきたヘルミアの死神リーシャ・サライナ・アクラブに告げたルーベンが問う。

「そっちはどうしてここに?」

「悪魔追いかけてここに来たのよ」

「先に言えそれを!先に!」

 重要なことを言わなかったリーシャにキツく言うルーベン。対称にエジェは落ち着いていた。

「どっちに向かった?」

「あっち」

「行くぞ!」

「はいはい」

 リーシャが指差した方へ急いで向かう三人。

「そう言えば、そろそろ一回目の投票結果が出るんじゃないか?」

「どうせ最初で決まることはないだろう」

「だけど、煙は見てみたいね」

「子供か!」

 悪魔の元へ向かっているというのに会話は教皇選挙の最初の結果の話しに余裕を見せる三人であった。



  ◆



 秘密の中庭では投票された票の集計が終わったところであった。


 教皇選挙の投票集計は午前と午後に枢機卿の中から九人が選ばれて集計及び記録を行うこととなっている。

 これは集計をする係りがいないことと不正を働かないようにである。

 そして投票にも工夫がある。

 投票する用紙に教皇に相応しい人物の名前を一人だけ書き、その用紙を二度折る。その際に執筆も意図的に変えるようにしている。

 用紙を祭壇まで持って行き、簡単な祈りと共に壷に入れる。全てが入ったら用紙を一枚取り出して書かれている名前を読み上げてそれを糸に通す。

 そして、全て読み終えた投票用紙と使用された紙類は焼却処分される。

 これらは全て教皇選挙の秘密を徹底的にまで守る為の対策なのである。


 集計記録に目を通したセルはこちらを注目している枢機卿に最初の結果を伝える。

「只今の投票による結果、目標数に到達した者はおりません」

 そう伝えるが枢機卿は誰も驚く様子も戸惑う様子も見せない。

 それは当然である。誰も最初に決まるとは思っていないからだ。

「投票用紙の処分をお願い致します」

 セルは集計係りに選ばれた九人に投票用紙等の処分を伝える。

 それに一人が炉に使用された紙を全て入れると小瓶の中身をかけ入れて火を入れた。

 紙がきちんと燃えたのを確認して戻って来たのを見届けてセルはまた伝える。

「これにて本日の投票は終了となります」

 秘密の中庭での教皇選挙初日は何事もなく終わった。


  * * *


 エクレシア大聖堂の外では多くの者達が煙突から煙が上がったのを確認した。

 煙の色は黒。残念ながら最初の投票では決まらなかったものの、20年ぶりに上がった煙に僅かばかりであるが小さな溜め息が漏れた。


 その煙を障害物がない屋根の上からモルテとヤードが見ていた。

「黒か」

「今日の選挙は終わったんですね」

 こちらも決まらなかったことにガッカリしてはいないが感じるものがあった。

「あちらは始まったばかりですか」

「そうだ。これからと何度も言ってきたが、正真正銘これが始まりであり、まだ続くぞ」

「そうですね。始まったばかりで深手を負ったとなったら笑い話ではありませんから」

 軽く話をしたモルテとヤードは煙を背にして新たな悪魔の出現場所に跳んでいく。



 教皇選挙の初日は煙によって終わりを告げたが、死神達はまだ終わってはいなかった。

今月の残りがちょっと微妙な所です。

まだどうなるか分かりませんが、詳しくは明日の活動報告で伝えます。明日にならないと分からないので……

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