開始を告げる鐘
サンタリアの鐘が正午を告げた。それはつまり教皇選挙が始まったことを意味している。
その瞬間、サンタリアに訪れた多くの者達は鐘の音に気を取られて鐘の音が聞こえた方を向いて静まり返る。
特に静まり返ったのがエクレシア大聖堂を正面からの見ることが出来る広場に集う者達。
彼らは初日に教皇が決まるとは考えていない。しかし、始まる瞬間を見届けようと訪れた者達であり、それは鐘が鳴ったことで叶えられたことで始まったと理解すると歓声を上げた。
教皇選挙の始まりが彼らにも伝わったのである。
教皇選挙は正午の鐘が告げたから始まりと言う訳ではない。
鍵が閉められた秘密の中庭の中では現在ロード教が抱えている問題をと次期教皇に求められているものが儀典長が述べ、それが終わったら教皇選挙の本命と言える選挙が行われる。
教皇を決める方法は投票であり、誰かが3分の2を占めたら決定となる。
しかし、教皇選挙は決まるまで何日も行われる長期行事になることもある。
教皇選挙は初日に一回行われ、2日目と3日目は二回行われるが、それでも決まらなければ1日祈りの期間を設ける為に休みとなる。そして翌日からは午前と午後にそれぞれ二度投票が行われ、3日経っても決まらなければ1日休みを入れ、また7日と同じことを繰り返す。それを23日まで繰り返しても決まらない場合は翌日24日の最初の投票で上位二名であった枢機卿に投票をして多くの票を得た枢機卿が教皇として選ばれる。
この時、選挙の結果は煙によって知らされる。黒ならまだ決まっていない、白なら決まったとサンタリアに訪れた者に知らせることとなっている。
その為に教皇選挙は誰もが注目する選挙である。
無事に教皇選挙が始まったのを見届けたラルクラスと七人の死神は一時的に死神の区画の部屋へ戻って来ていた。
「ご苦労だな」
「あれをずっと聞き続けるのはもう勘弁だな」
「違いない」
ラルクラスのぼやきをハイエントは笑って肯定した。
ハイエントも前回の教皇選挙時に経験していることだからハイエントの気持ちが分かるのだ。
今回は部屋のソファーに座って聞いていた為に足は痛くなく楽な体制でいられたが、それでずっと聞き続けていられる訳がない為に紅茶に茶菓子と飲んで食って聞き流していたのだから何一つ苦労していない。
「それで、これからどうする?」
これからの方針を尋ねるモルテにラルクラスはすぐに答えた。
「向こうに何かが起きない限りは今のまま悪魔を刈れ。捜索はこのままオティエノとファビオに頼む。他はそれにともなって悪魔の対処を頼む」
現状維持であるがいつ秘密の中庭に変化が訪れるのか分からない今はそれが最適であると七人の死神は頷いた。
教皇選挙が行われている間は秘密の中庭への出入り及び扉の開門は例外を除いて禁止されている。
その例外とは物資の搬入と死神の入退場である。
教皇選挙期間は出馬する枢機卿と儀典長、儀式長、世話役や医者が秘密の中庭を含む一部区間に閉じ込められていると言っていい。また、世話役や医者も教皇選挙のことを口外してはならないために口止めとして宣誓を行っている。
すると十分に見積もっていても何かが足りなくなったり不備により無いもの等がでる。そうするとどうしても補給としてその日の投票が終わった後に受け取らなければならず開門をする。
そして死神は教皇選挙中唯一出入りを許されている。これは悪魔の侵入時などにどうしても枢機卿に知らせてその対処をするよう伝える役割があるからだ。
司祭がやればいいのではと思うかもしれないが、死神ならどんなことが起きても必ず伝えてくれることと死神でなければ分からないことがあるから認められているのだ。
ラルクラスの指示に耳を傾けていたコルクスが方翼を上げた。
『心配せんでもいい。部下がしっかりと部屋を見張っているからすぐに知らせる』
「何で偉そうに言うんだこのカラス?」
『お前達が悪魔に集中している穴を我々が埋めているのだ。ありがたく思え』
「うわっ!」
「このカラス……」
まるで手が放せないからやっているのだと言う言いように七人の死神は、特にオティエノとファビオが頭にきていた。
「その気になれば領域を部屋まで広げられるけどな」
「俺も見るのを控えているだけでいいっていうならいつでも見られる」
「私もこの先のことを見ようと思えば見られます」
コルクスに対抗するようにとオティエノとファビオ、何故かアイオラも加わってコルクスに鋭い目付きで睨む。
「そうするとコルクスの出番はないな」
睨み付けて棒読みで牽制するハロルドにコルクスは不穏な雰囲気を感じて一歩後ずさる。
「役に立たないカラスはどうしましょうか?」
「食うか?」
「いや、これを食べて口調が移るのは嫌だな」
モルテ、アルフレッド、ヤードも睨み付けながら青ざめているコルクスを見下ろす。
完全に七人の死神を敵に回したコルクスの運命は……
「だったら剥製にしますか?」
「見張るにはちょうどいいですね」
「ずっとというのはどうかと思うが、いつでもカラスのせいに出来て文句を言うにはいいな」
アイオラの案にそれだと全員一致すると、コルクスは翼を広げていた。
『剥製もご勘弁をーーー!!』
「逃がすかカラス!」
「大人しく剥製になれ!」
『すみません!もう言わぬから許して……』
「許すか馬鹿カラス!」
いつぶりかのコルクスへの制裁に動き回る七人の死神をヴァビルカ教皇は微笑んでいた。
「口は災いの元ですぞコルクス」
「これにこりて少しは大人しくなって欲しいものです」
「無理だろアレは」
どうしてもコルクスの口調は直る気がしないと諦めるラルクラスは深く溜め息を付いた。
それからしばらくして、いい加減に動けとラルクラスの言葉によってコルクスは剥製の一歩手前で解放され、七人の死神も持ち場に付いたのであった。




