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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
2章 葬儀屋の仕事
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病院へ

遺体についての現象説明があります。

 モルテの言葉に呆けていたディオスは思い出したように尋ねた。

「行くってカリーナの家にですか?」

「違う。病院だ」

「病院?」

 何故と言う表情にモルテは溜め息をついた。

「まず、私はお前の学友の家など知らん」

 それもそうだと納得するディオス。

 そんなディオスの様子にファズマは観察眼があるのに時々鈍くなるのは何故かと考えていた。

「何故病院か分かるか?」

 モルテの試すような問にディオスは考え始めた。

「もしかして、死因を確認したのが病院だからですか?」

「その通りだ。そして、相応の理由がある」

 問に対して正解を言った為にモルテは解説を始めた。

「死因については専門とする医が確認をするが、現在遺体が病院にあるのは保管をしているからだ」

「保管?」

「そうだ。では聞くが、何故遺体を保管しなければならないと思う?」

 モルテの質問に考え込むディオス。改めて考えてみるとこういったことを考えたことがなかった。死んだら埋葬する。それが常識であり普通と思っていた。もしかしたら数日は葬式の準備があるのだからそれまで保管しているのではと考える。現に父親をなくしたディオスである。葬式をすぐにはせずに数日経ってから行っていた。

 ディオスの表情から分かっていないと読んだモルテは答えを口に出した。

「遺体をすぐに埋葬しないのはだな、死体現象と呼ばれるものがあるからだ」

「死体現象?」

 初めて聞く単語に呟くディオス。

「人間は死ぬとあらゆる機能が停止するがその過程で起こる現象、腐敗する前の現象を早期死体現象、腐敗が始まる現象を晩期死体現象と言うものがあるだが、早期死体現象がすぐに葬式出来ない理由だ」

「早期死体現象ってなんですか?」

 モルテの専門的会話にディオスは質問をした。

「まず、ディオスは死んだ父親の体に触ったか?」

「はい」

「では、何かおかしいと思った言葉にあるか?」

「……分かりません」

 何故そのようなことを聞くのか分からないディオスだが、モルテの最後の質問には考え、思い浮かばず首を横に振る。

 だが、その様子にモルテは溜め息をついた。

「いや、今の質問はなしだ。例え触れたとしても数日経っているはずだ」

 何かを納得したモルテは改めてディオスに説明をした。

「人間は死んだ直後は体が硬直する」

 硬直という言葉が思い浮かばないディオスは首を傾げた。

 分かっていないディオスにモルテは解説を始めた。

「死直後、人間の筋肉は緊張を失い弛緩した状態になるが時間の経過と共に筋肉は硬くなっていく。個人差はあるが硬直が解けるのが数日。それゆえに処置過程、エンバーミングを行うのが死後数日してからだ。急ぎの場合は無理矢理硬直を解くが遺体を保管する理由がこれだ」

 人体の不思議とも言える話をディオスは初めて聞くことだからか真剣に聞いていた。

「葬儀屋と呼ばれる店は病院から遺体を預かったり遺族に代わりエンバーミングも行うのだが……先日のような生きているのに寝ているだけの者を預かる義務はない」

 そして、昨日のことに対して毒づくモルテ。本人としては相当に許せなかったようでその表情は恐ろしいものであった。

(そこは人助け?と言うか……)

(そもそも店長がコーヒーに釣られたから預かったんだろう)

 そんなモルテの様子にディオスとファズマは内心で突っ込むが声に出す勇気はない。

「師匠がアドルフおじさんのコーヒーにつられたからだよね」

 そんなディオスとファズマに気づかずミクがあっさりと口に出してしまい、それを聞いたディオスとファズマが飛び上がらんばかりに驚いた。

「コーヒーは別だ」

「別なんですか!?」

 だが、モルテから語られた思いもよらない言葉にディオスはたまらず突っ込んだ。

「さて話は終わりだ」

 そう言うとモルテは立ち上がった。

「学友が新住宅街に住むと言うことは葬式の依頼はガイウスだな。あいつに連絡をして遺体はこちらで店まで運ぶと言おう」

「他にも葬儀屋あったんですか?」

「ある。この街には三軒の葬儀屋があるからな」

 そう言うとモルテはリビングから店内へと向かった。その後を追うディオス、ファズマ、ミクの三人。

「でも、他の葬儀屋から仕事を奪ってもいいんですか?」

「奪うのではない、手伝いだ。それに、ここの葬儀屋は協力関係にある。こういったことで責められはしない」

 ディオスの言葉に葬儀屋の関係について話すモルテは店内へ入ると設けている電話の受話器を手に取ると連絡を始めた。

 しばらくして電話が繋がったのかモルテは電話の相手と会話を始めた。

「私だ。ガイウスはいるか?」

 どうやら当人ではなかったようだ。ガイウスを出すようにと電話の相手に言うモルテ。だが、

「何故だ?……はぁ!?」

 どうやら向こうの状況がよろしくないようでモルテの不機嫌な声が響く。

「まあいい。一つ聞くがそっちに病院もしくは自殺した遺族から連絡が来ていないか?」

 そして本題を口に出すモルテ。だが、徐々にモルテの表情が変わっていった。

「だから言っただろ!免許を取れと!!」

 一体何があったのか。電話の相手に怒鳴り声を上げるモルテにディオスは顔を青くしていた。一方でファズマとミクは心当たりがあるのか、それともいつものことなのか表情は普通であった。

「もういい。もともとそのつもりで連絡をしたんだ……勝手に切るな!!」

 そう叫ぶとモルテは不機嫌のまま受話器を置いて溜め息をついた。

「て、店長……?」

 一体どうなったのか分からないが知らなければ始まらないとディオスが恐る恐る尋ねる。

「話がついた。予定通り病院へ行く」

 モルテから語られた言葉にディオスは一瞬喜ぶもすぐに表情を引き締めた。

「ディオス、車の鍵を頼む。鍵は仕事場だ。先に開けておいてくれ」

「はい」

 モルテの指示にディオス返事をすると急いで仕事場にかけられていた鍵を手に取り車が置かれている外の車庫へと向かった。

「ファズマとミクは店番を頼む」

「は~い」

 次に出されたモルテの指示にミクが元気よく返事をした。だが、ファズマだけは表情が強ばっていた。

「店長、これどう思っていますか?」

 モルテと一緒にいる時間が長いのはファズマだ。何となく今回の件について予想はついている。もしかしたら二人とも同じことを思っているのではと考えている。

「早めに手を打たんと不味いだろう。早ければ今日中にだ」

 その言葉にファズマの表情がさらに強張った。

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