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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
10章 教皇選挙(後編)
339/854

教皇選挙の始まり

 立ち上がった枢機卿は祭壇へ上がり、最初に上がった一人がセルの置いた聖典に片手を置いた。

 そして、セルと顔を会わせて間を置くことなく宣誓を唱える。

「我、枢機卿エイダル・フォン・ラーダリオンは宣誓する。ロードを見据えし神よ、我とこの手が添えたしロードの踏み跡の書に福音をお与え下さし」

 そう言って一人の枢機卿は聖典から手を放すと祭壇を降壇し、変わりに次に控えていた枢機卿が同じように聖典に手を置いて宣誓する。

「我、枢機卿コーデル・アドゥーは宣誓する。ロードを見据えし神よ、我とこの手が添えたしロードの踏み跡の書に福音をお与え下さし」

 同じ様に宣誓を唱えると降壇。そしてまた一人と聖典に手を置いて宣誓を唱える。


 教皇選挙の前に行われる宣誓は儀典長が述べた宣誓文に対して誓いを示さなければならない。

 そのやり方は儀典長が置いた聖典に手を添えて先に述べられた宣誓文に名前を言い、ロードの名の下それを守ることを示すのである。

 これを教皇選挙に出馬する枢機卿が正午までに全員が行うのである。



 その様子をずっと見ていなければならないのかと多少飽きれ顔を浮かべる七人の死神(デュアルヘヴン)の一部は小声で雑談をする。

『これ、正午まで聞くって疲れるな……』

『正確には正午前と思うが?』

『そんな細かいことはいいんだよ』

『だけど、この人数は本当に正午まで終わるのかな?』

『さあな。それよりも気になるのはそこなんだな?』

 領域の応用で口を動かさず思っていることを耳に声として届かせる、どうやったらそんな矛盾に感じる芸当が出来るのだと突っ込みたくなる行いを平然と、しかも場所が場所であるのにやるオティエノ、ハロルド、ファビオ。

 しかし、そんな三人を七人の死神(デュアルヘヴン)とラルクラスは咎めない。

『何を話しているのかと思えばそのような話しか』

『確かにこれはずっと聞き続けるのは辛いですね』

『しかも俺達立ちっぱなしだからな』

『疲れますねこれは確かに』

『何で他人事みたいに聞こえるんだ?』

『他人事で言っているつもりはないんですがね?』

 そんな会話をする七人の死神(デュアルヘヴン)一同。


 ようは宣誓が長いことが分かっていることから暇であり、ずっと立って見届けないといけないことの疲れが嫌であるからこうして領域を使って話しているのである。

 前もってハイエントとヴァビルカ教皇からこの様子を聞かされていた為に緊張感も何もなくずっと立っていなければならないことにぼやく七人の死神(デュアルヘヴン)にラルクラスは飽きれながら会話に参加する。

『確かに暇……じゃない、ハイエントが言った通りだが……オティエノ、悪魔の方はどうだ?』

『今はまだ何も……あ!』

 エクレシア大聖堂外の様子を見ていたオティエノは表情を変えた。

『まっすぐ東から悪魔が侵入。数は3。こっちに向かって来ている』

 悪魔の侵入の確認にラルクラスが指示を出す。

『アルフレッドとハロルドで迎え撃て!ファビオ、二人を飛ばせ』

『はい』

 悪魔の位置を感知用の領域で確認をしたファビオはラルクラスの指示に頷いてすぐに二人をエクレシア大聖堂の外にいる悪魔の元へ飛びした。


 死神が宣誓の場で立ったまま見届ける理由ははいつでも悪魔の対処が出来るようにである。

 教皇選挙の始まりと最後はどうしても死神(デス)七人の死神(デュアルヘヴン)が立ち合いをしなければならない。

 しかし、教皇選挙の始まりは結界が弱くなっており、宣誓の間に侵入して来た悪魔も対処しなけらばならない。

 だから死神(デス)七人の死神(デュアルヘヴン)は宣誓が行われている場所で唯一入退場が出来る。

 これはロード教側が公認している為に死神(デス)側は気兼ねなく抜け出しては戻ることが出来るのだ。


『正門から悪魔が12!』

『モルテ、アイオラ』

『ふむ』

『はい』

 オティエノの新たな悪魔の出現に動き出す七人の死神(デュアルヘヴン)。死神の役目は聖職者よりも大変である。


  * * *


 死神(デス)の区画の一室にいるハイエントとヴァビルカ教皇は宣誓を唱える枢機卿の声を聞きながら顔を強ばらせていた。

「もう後戻りが出来ない場所まで来たな」

「そうですな」

 言ったことに対してあっさりと返したヴァビルカ教皇に不審に思うハイエント。

「不安じゃないのか?」

「ここまで来て不安を口にするのはどうでしょうか?わざと野放しにすると決めた以上は結果が良い方向へ向くのを祈るだけですよ」

「……厳しいな」

「厳しいのではなく、手が出せず歯痒い気持ちを我慢しているだけですな」

 ハハハと笑うヴァビルカ教皇にさすがは今回の一件を考えただけあって気持ちの構方が違うことを察するハイエントは窓からこちらを見ているコルクスに声を掛けた。

「コルクス、始まったら必ず見ておけ」

『分かっている。部下達にも絶対に目を反らすなと言っている』

「頼むぞ」

 その言葉を聞いたコルクスは翼を羽ばたかせると上空へ飛んだ。


  * * *


 宣誓が始まってもう少しで正午になろうとする頃、ようやく最後の一人が唱え終えて降壇をする。

『終わったか』

『長かった……』

 何度も往復をしていた為か宣誓が終わった瞬間に深い溜め息をつくアルフレッドとオティエノ。

 そしてセルが言う。

「皆の宣誓が成立なされました。つきましてはこれより教皇選挙を始めたく思います。出馬される以外の方は退場をお願いいたします」

 そうして扉の近くで座っていた聖職者一同は秘密の中庭から出て行き、最後に死神が退出したことで中に関係者以外はいなくなった。

 それを見届けたセルは扉の前まで歩み寄ると退出した者達に語りかける。

「今より教皇が決まるまで扉を閉じます」

「分かりました。我等一同は新たな教皇が現れるまで待ち続けます」

 一人の聖職者がそう言うと、セルは静かに扉を閉じた。

 そして静かな空間に鍵がかけられる音が異様に大きく聞こえた。



 教皇選挙が始まったのである。

本作の教皇選挙はヴァチカンのコンクラーヴェをモデルとしています。

このところの説明は10章が終わった後に活動報告で詳しく書きます。

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