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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
10章 教皇選挙(後編)
333/854

集礼の儀

集礼の儀の様なものは現実にはありません。

あくまで死神がいる世界であるからあるのです。

 大広間に入った瞬間、入る前の耳に僅かばかり聞こえていた話し声がピタリと止んで静まり返る。

 そして教皇選挙に出馬する枢機卿の面々が黒ローブを纏う死神(デス)一向を注目する。

 白を基調とした祭服が大半を占める中で黒ローブはかなり目立つ。しかし、その目立ちが逆に場に緊張を与えて委縮させる。


 そんな雰囲気を気にすることなく一向は一段上の祭壇へ上がった。

 左にオティエノ、右にモルテ。中央にラルクラス、その横にユーグ。

 四人が並ぶとラルクラスは一歩前に出てこちらを注目する枢機卿に語りかけた。

「新たな教皇候補の者達よ、よく集まってくれた。先の教皇、ヴァビルカ8世が亡くなってから今日こんにちで13日が経つ。彼の者は彼の地に夜明けをもたらし朝日を迎えさせた。我、死神を統べる死神(デス)は彼の者と同じとは言わぬ。しかし、隣人を歩み手を取り合うことが出来るそなた達の中から新たな教皇が生まれることを切に願う。そして、新たな光をもたらすであろうそなた達に大いに期待する!」

 ここまでの演説でかなりの注目を集めることが出来たラルクラスだが、そこに一区切り入れるとこの集礼の儀の本質、殆どの枢機卿が誤解をしていることの真逆を言う。

「この集礼の儀は本来死神(デス)が新たな教皇候補者との対面の場である。故に何も気負うことなくこの本来あるそなた達のまま儀をまっとうしてほしい」

 瞬間、それほど大きなものではなかったが静粛な雰囲気に揺らぎが生じて明らかに動揺が起きたことが分かった。

 儀式では本来ありのままの自分を出すことなどありえないからだ。

 それなのにラルクラスが言った為に声を出してはいないが顔に出ており、息遣いで分かる。

 やはりこうなったかとラルクラスは思った。

 しかし、こうなった場合をハイエントから聞いているし当時の集礼の儀を見ている為に対応を知っている。

 その方法は先代から先代へと引き継がれている方法である為に最も最良なのである。

「さあ、集礼の儀を明日からの教皇選挙、その結果を我は心待にする!」

 無理矢理話を終わらせて次へ移ることである。



 ラルクラスの大々的な演説が終わってからしばらく、モルテはどこか呆れた様子を浮かべていた。

「よくやっていられるものだ」

「何が?」

「この儀だ。誤解を受けているからと言ってここまで両者の違いがあるとは思わなかったぞ」

「まあ、どっちも悪気とかそう言うのがないのだから笑って済ませられたんだからいいんじゃないか?」

「それでいいとは思えんな」

「言っておいてなんだけど俺もそう思う……」

 枢機卿側の誤解はいつになったら解けるのかと思いながらモルテとやり取りをしたオティエノは枢機卿の面々と話をしているラルクラスを見つめる。

 既に置かれていた料理を皿に盛って食べながら忙しなく動いては会話をするラルクラスを大変だなと思いながらもあらゆることをユーグに任せている。とはいえもしものこともある為に注意はしている。

 そしてオティエノは現段階のことをモルテに尋ねる。

「モルテはこの様子をどう思う?」

「悪魔の気配はない。それどころかあのリスト自体に疑問がある」

「疑問って言うとあれか?確かに悪魔よりも悪魔と繋がっている聖職者達の方が圧倒的に多い」

「そうだ。そして枢機卿が5分の1を占めている」

 リストを見て最も驚いたのは数ではなく枢機卿にもいるということであった。


 ユーグが綺麗に纏めたリストにはエクレシア大聖堂にある部署や聖職者の階級ごとに分けられており、そこから悪魔とその関係者と区分されていた。

 最も多かったのが聖職者でない警備員や料理人といったエクレシア大聖堂で働いている者達である。

 悪魔からしたら注意をすればバレることがないと思っていたのだろうがコルクスによってその事実は明かされている。その為に発覚してからすぐに不意打ちの如く死神に刈られているがいなくなったという事実に気づく者はいないだろう。

 そして死神達が頭を抱えたのが聖職者側であり、その5分の1を占めていたのが枢機卿である。

 幸いと言っていいのか分からないが助祭を除く聖職者の中に悪魔はいなかった。だが、悪魔と繋がっているという事実は変わることながく、死神にとって許しがたいことである。


「天眷者である枢機卿なら悪魔がどんなものか私達と同じで分かるはずなんだが……」

「恐らく、中間に他の悪魔関係者を置いていると思う。そして何も知らないまま利用されている」

「……我々に悟られないようにする方法か。悪魔が好みそうなものだ」

 そのズル賢い手にぼやきしか出ない。

「だけど、だからこそ厄介だ。もしも悪魔関係者が教皇に就いたら、悪魔の願いを知らないままに叶えてしまう」

「それこそラルクラスと私達が恐れていることだ」

 悪魔の狙いが果たされることは死神にとって絶対に阻止しなければならないこと。例えそれが無自覚であろうとやる者を許す訳にはいかない。


「そろそろ接触をしてみる。モルテは死神(デス)を頼む」

 オティエノはラルクラスから前もって悪魔関係者と手段を問わず接触するようにと言われていた。

 それをするなら大分緊張が解けた今であると見る。

「分かった」

 故にモルテは引き受けて枢機卿の中へと向かうオティエノを見送った。

 そしてオティエノが悪魔関係者の枢機卿と接触するのを見届けると視線をオティエノから別の人物へと移した。

「まさかここにいるとはな」

 その人物を目にした時、モルテは声に出さなかったが驚いたことは確かである。

「どうやらあちらも動き出したか」

 第三者の動きにモルテは天井を見上げた。

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