閑話 トンの三人
エクレシア大聖堂に移ると言っておきながら舞台はトンです。
明日は確実にエクレシア大聖堂です!
「くっそ、やってられるか!」
七人の死神のオティエノからの要望を孫娘ベルモットの介入によって死んだ(実際は死んでいない)ヴァビルカ教皇のことを調べなければならなくなったダーンは悪態をついていた。
「何で俺が馬鹿のあいつのことを教えねえといけねえんだ!ふざけるな!他の奴に聞きやがれ!」
「おじいちゃんうるさい!」
怒りを辺り構わず吐き散らすダーンにベルモットが見ていられないと止めに入る。
「何でそこまでヴァビルカ教皇のこと嫌いか分からないけど引き受けたのだからちゃんとしないとだめだよ」
「ぐっ……」
本来なら言い返せるはずなのにベルモットに言われると急に言い返せなくなるダーン。
何故ダーンがベルモットに言い返せなくなったかと言うと、ベルモットが幼い頃まで遡る。
常日頃から難しい表情を浮かべたり何か気にくわないことがあると怒鳴っていたダーンだが、その度にベルモットが泣いてしまうのだ。
ベルモットに怒鳴っている訳でもないのに顔を会わせればギャーギャーと泣くベルモットにせっかく可愛らしい女の子が生まれてベタぼれなのに一度も笑った顔を見せてくれないことに参ったダーンはひたすら腰を低くして謝ることとなる。
端から見たらお爺ちゃんが孫の気を引こうと試行錯誤して世話をしている様に映っていただろう。若干の違いはあるがそうであり、ダーンも一日中作業をしないでベルモットに付きっきりの時があったほどである。
そして、気づいた頃にはベルモットに甘くなっており、さらには予想以上にベルモットが頑固で押しの強い女性となってしまったことでダーンは反対意見が出来にくくなってしまったのだ。
ちなみに、ベルモットから見たダーンの印章は気難しい祖父であるが間違っていると思うことについてはちゃんと言ってくれる家族である為に仲は悪いわけではなく良好である。
ダーンはまたベルモットに言い返せなかったと頭を抱えていると、チリーンと鈴の音が響いた。
「扉から?」
鈴の音の音にベルモットは異渡り扉が開いたと悟ると一体誰が訪れたのかと見に行こうとしてすぐ、本来なら家にいないはずの人物が仕事場に現れた。
「こんばんわ」
肩まで伸ばしたくすんだ金髪に茶色の目をして髭が僅かに延びている男が。
「まさか、ミゲルか!?」
「ああ。ダーンは老けたな」
「ふん!久し振りに会うと言うのに挨拶も出来ん奴に言われたくない!」
「いや、ちゃんとこんばんわって言っただろ?」
目くじらを立てて責めるダーンとそれを器用に回避するミゲル。
20年ぶりの再会だというのに出だしは最悪である。
「……どうしてここに来た?」
「ダーンと同じ理由だ」
そう言ってミゲルは手にオティエノからの手紙を持って見せた。
「なっ、お前……」
「あいつのことだからダーンにも協力頼んでいるんじゃないかと思ったが、その反応じゃ当たりだな」
「知るか!」
「おじいちゃん!」
「ぐっ……ああ、そうだ!あの馬鹿を調べろと来たぞ!」
知らないと言い切るつもりでいたダーンだが、ベルモットに睨まれたことでやけくそになって認めた。
しかし、ミゲルの意識は別の場所へ行ってしまっていた。
「おじいちゃん?あんたダーンの孫?」
「ベルモット・ダルファー・エルナトよ。ここの職人で死神です」
「……ああ、そう言うことか」
「何か?」
「いや、こっちの話し」
ダーンの様子からどうやらベルモットのは弱く、ベルモットはダーンの孫娘であることを知るダーンは内心でいい情報が入ったと笑った。
一方でダーンは面倒な奴に関係を知られたと頭を抱えた。
「たく……ミゲルこのことは誰にも教えんじゃねえぞ」
「しばらく教える気はないな。ダーンが作る道具が手に入らなくなるとこっちが困る」
「理解が早くてなによりだ」
「それに、こんな情報料高いの教えたらしばらく生活に困ることはないだろうが群がって来るのが面倒だ」
「てめぇ今すぐぶっ叩く!」
「おじいちゃん落ち着いて!」
余計な一言に頭に血が登ったダーンをベルモットが慌てて落ち着かせる。
「それで、オティエノさんからの手紙でトンへ来たのは分かったけどこれから貴方どうするんですか?」
「それな、しばらくの間ここに御厄介になろうと思う」
「さすが《千里千眼の借り暮らし》だな」
「ダーンと話し合うこともあるだろうから近くにいた方がいいかなと?」
「前もって連絡や許可をもらっていないのによくも勝手に言えたものだな」
「それが俺だからな」
「威張るな!」
軽蔑を込めて睨み付けるもそれをまたもや回避するミゲルにダーンが鋭く突っ込む。
その後、終らないやり取りにベルモットが介入したことによりミゲルの滞在が決まることとなる。
* * *
そして翌日の夕方。
「あ~、トンの視察についてか。やっぱり来たか」
「は?んなもん来てたのか?」
「来てたよ。その時おじいちゃんヴァビルカ教皇がいるから出たくないって言ってたじゃない」
「覚えとらん」
オティエノからトンでの様子を調べてほしいという手紙にダーンがもう関わりたくないオーラを出す。
「狸来てたの知らなかったのか?」
「知らん!何で俺が奴の仕事の様子を知っていないといけないんだ!」
「出身だから」
「知らんもんは知らん!」
「あい、そうですか」
これ以上これに触れたらダーンの怒りが収まらなくなるとミゲルは話を切った。
「ま、頼まれたからにはやらないといけない、か」
「俺はやらねえぞ」
「おじいちゃん指名なんだからやらないと駄目でしょう!」
「しかも出身だからな。ダーンの方が詳しいだろ?」
「お前は今日ずっと歩いていただろう!」
「街の道を覚える為さ。これで明日から気兼ねなく動ける」
トンの街を歩くのは初めてだからと一日を準備期間に費やしたミゲルにダーンは思っていなかったことに言葉を失った。
「とにかくダーンの方がコネとかあるだろ?それに期待しているんだからやってくれよ」
「おじいちゃん、職人としても死神としても、やらなきゃ相手に嘗められるよ」
「……くそが……調べてほしいことがあんなら一つにまとめろ!」
どうやらやらなければこの地獄から抜け出すことは出来ないことをダーンは察した。
* * *
さらに翌日の夕方。
「今度はあいつの弟か……」
またオティエノから手紙が届いたのだ。
「あれ、ダーンの知り合いか?」
「ああ……キャメロンっつう奴はあのくそ馬鹿野郎の弟だ」
「へ~、弟いたのか」
「ああ。しっかし何でそいつの指輪をあいつが持っていたんだ?」
「さあ?それは調べないと分からないな」
ヴァビルカ教皇の元に指輪があることが謎だと言う二人にベルモットは驚いた。
「おじいちゃん、その人確か亡くなってるわよ!」
「本当か!?」
ミゲルの確認する言葉にベルモットは頷いた。
そして、その時のことを話すと二人はなるほどと思った。
「それなら狸が持っていたのも分かるな」
「だが、普通はあいつの伴侶が持つだろ?」
「そこは相談したんだろうな」
そう結論付ける二人だが、実際はヴァビルカ教皇が七人の死神に遺体が本物でないことを教える為に使われただけである。
それでも遺品であることに違いはなく、その後にヴァビルカ教皇はきちんと呪を浄化して所持することとなる。
「取り敢えず、これに関しちゃ急ぎみたいだからありのまま書いて送るか」
「おじいちゃん、ちゃんと書いてね」
「何で俺なんだ?」
「俺とベルモットがこれから裏とりに行くからだ」
「疲れたって言ってたからね。待ってる間ちゃんと書いてね」
「ベルモット、書いてくれないか?」
「嫌です!」
孫娘から速攻で拒絶されたダーンは項垂れてしまった。
悪態を綴った手紙はミゲルの追伸と共に送られ、その後に一晩かけてまとめられた手紙はオティエノへ届けられることとなった。
無事に終わったと解放されたことに喜ぶダーンであるが、ミゲルが勝手に教皇選挙が終わるまでの間だけ滞在すると言い出した為に再びベルモットに促されて滞在を許可することになるのはまた別のはなしである。
そして、三人がサンタリアへ赴くのは後日である。




