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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
9章 教皇選挙(前編)
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閑話 旅行の思い出話し

今日と明日の閑話はアシュミストでの話です。

全3話の予定で明日は2話連続です。

 モルテが死神デスの招集に呼ばれてサンタリアへ向かったその日、それまでミノリア島で共にいたディオス、ファズマ、ミクはアシュミストの葬儀屋フネーラへ帰って来た。

「ただいま~!」

 異渡り扉から元気よく出て来たミクはくるりと一回りして後から出て来たディオスとファズマを向かい入れた。

「あ!」

「どうした?」

 アシュミストへ戻って来るなりディオスはあることに気がついて声を上げた。

「いや、ミノリア島よりもあまり暑くないから少し驚いただけ」

「そういやそうだな」

 異渡り扉であっという間にアシュミストに着いた為にずっと肌に感じて覚えてしまったミノリア島の暑さよりも涼しいことにディオスは気づいたのだ。

「これじゃアシュミストが避暑地っていわれるのが分かるよ」

 少し前までアシュミストが避暑地であることに疑問であったが、中間地点をおかずに暑いところから涼しい所へ訪れると温度差が分かり、これならと納得してしまう。

「そんなことはいいか。ミク、買った魚を冷蔵庫に入れておいてくれ」

「うん」

 話しは終わりとファズマはミクに買って持って来ていた魚を頼んで一階のキッチンへ向かわせた。

「俺らは何かなかったか見て回るぞ。ここを頼む」

「ああ」

 ミクの後を追うように下へ向かったファズマを見送ってディオスは言われた通り今いる二階に何か不審なものはないかと探し回り、何もないことに安堵するのである。



 クーラーの冷房が効いた部屋で三人は完全に寛いでいた。

「こうしていると、本当にミノリア島は暑かったんだね」

「うん。でも楽しかったよね」

「ああ」

 ミノリア島で過ごした数日は楽しかったと言うミクの言葉にディオスとファズマは頷く。

「ミクは何が楽しかったんだ?」

「海!しょっぱかったけど気持ちよかった!それにね、ずっと泳いでいられたのが楽しかった!」

「あ~、河みてえに端がねえからな」

 河で泳ぐときは端から端まで競争だの何だの言ってとにかく遠くまで泳ごうとしていたのを思い出したファズマ。

 それはミノリア島の海でも遠くまで泳ぎたいという意識は変わっていなかったが、どうせなら足が届く場所に留まって遊べよと思ってしまう。

「そういえばミクってけっこう泳いでいたよな?」

「そりゃ遠くまで泳ぎてえとなると自然と長く泳げるようになるだろ」

「……そうかな?」

 アシュミストを流れる河は決して幅が狭い訳ではない。だからそれはどうなのかと思うディオスであるが、それに追求する勇気はないために話題を変える。


「それでファズマは?」

「あ?俺は最後でいいだろ」

「何で最後なんだよ?」

「自分から言っといて最後に言うのがどうかってことだ。ほら、ディオスはどうだったんだ?」

「後でちゃんと言ってよファズマ」

 まるで言うのが面倒だから後という様子のファズマに不満を抱きながらもディオスは気を取り直して言う。

「俺が言うのもどうかと思うんだけど……クロエさんとエミリオスさんの結婚式が印象に残っているかな」

「へ~」

「ディオってえっと……ロマンチスト?」

「違う!」

 ファズマとミクの反応にやっぱりこうなったとディオスは速攻で否定の突っ込みを入れる。

「そんなんじゃないよ」

「だったら何だってんだ?」

「ファズマ、顔にやけてるよ」

「にやけて悪いか?」

「気持ち悪いし何か企んでいるとしか思えない」

 ファズマの様子に思う所を言うだけ言って表情をムスッとさせたディオスだが、言いたいのはこれだと言う。

「レナさんはきっとあの結婚式を見たかったんじゃないかなって」

「レナって確かエミリオスの母親か?」

「そう。生霊リッチになったレナさんと話してからずっと思っていたことがあるんだ」

 エミリオスを助けようとして共に異界へ引きずられたディオスは助けが来るまでと時間稼ぎとして生霊となったレナとの会話で思ってしまうことがあったのだ。

「どんなこと?」

「レナさんが病気でも何でもなければあれを見ることは普通のことだったんじゃないかって」

 ディオスのレナを思う一言にファズマとミクは頷いた。

「確かにな。普通のことが普通じゃなくなるってのは生きている限りじゃものすごく苦しいことだからな」

「うん……」

「だから結婚式を見て思ったんだ。レナさんが生きていたらどうだったのかなって」

 レナのことを殆ど知らないディオスだが、関わってしまったらどうしても切り捨てられずに気にしてしまう。だからどうだったのかと考えてしまう。

「そりゃ嬉しいに決まってるだろうな」

「そうだね。師匠がクロエさんの結婚を喜んでたみたいにエミリオスさんのお母さんも喜ぶと思うな」

「そうだよな」

 ファズマとミクの言葉に自分と同じ気持ちであることにディオスは喜んだ。


「はい、これでおしまい!最後はファズマだよ!」

「おい、散々話して勝手に終わるな!」

「これ以上の話しがある?」

「続けられるだろ!」

「それじゃそれはまた今度に」

「伸ばすな!」

 ディオスの強引な方向転換に不満なファズマであるが、ミクが無言で見ていることに気がついてしょうがないなと覚悟を決めて言う。

「俺はそうだな……漁港か?」

「漁港?」

「お魚いっぱいだから?」

「そうだな」

 何故漁港が印象に残っているのか分からないディオスとミクは首をかしげた。

「あれだけの新鮮な魚は初めて見たからな。どう料理すればうまいのか考えようがあるってものだ」

 まさかの理由にディオスとミクは硬直した。


 これは言うべきではないが突っ込まなければ気まずい雰囲気から脱することが出来ないとディオスは自分から悪役になる。

「ねえファズマ、それ料理人の考えだと思うんだけど……」

「あぁ?誰が料理人だ?」

「料理人の考えそのまんまじゃないか!食材目の前にして考え込むって、料理人の他に何があるんだよ!」

「ファズ、料理人みたいだね」

 ディオスだけでなくミクもそうだと言ったことにファズマは不貞腐れる。

「そうかそうか。それじゃ今日の昼飯お前ら抜きだ!」

「料理人と言ってすみません!」

「ファズは料理人じゃなくて葬儀屋の従業員だよ!だからお昼作って!」

 胃袋を捕まれた二人の気持ちの変化にファズマは変わりすぎだろうと言う怒りを深く息を吐いて落ち着かせる。

 そして、今後の方針を話し始める。

「たく、もうすぐ昼だから飯にするか。それが終わったら二人は買った土産物届けに行け」

「あ、ああ!」

「うん!」

 ファズマの方針に頷いたディオスとミクだが、どちらかと言うと昼食抜きを脱したことの方を喜んでいる。



 そして昼食はミノリア島で買った海鮮のパスタであり、食べ終わってすぐに三人はそれぞれ土産物を届ける為に街へと出た。

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